揺の41 気持ちの整理



 ナツと別れて俺たちは電車に揺られてミドリンの別荘の最寄駅まで帰ってきた。


 ミドリンがバスを呼ぶと言ったのだが、夏の夜風が気持ちよく虫達の鳴き声を聞きながら帰りたくなったのでみんなで歩いて戻ることになった。


 歩いてもさほど遠いわけでもないので、のんびりと夜空を見上げつつ夏の夜を堪能させてもらう。


「面白い人だったね」

「ははは、確かに面白いヤツではあるな」

「DJなんですよね?ナツさんは」

「ん?詩織はDJに興味あるのか?」

「え?まぁ、そうですね。ロックとかユーロビートとか好きなので・・・」

 詩織は、少しはにかんでそう答える。

 普段のお淑やかなイメージとは全く逆の嗜好に改めて意外に思う。


「でも意外だよな、詩織がそういう音楽が好きだなんて」

「・・・よく言われます。クラシックとか聴いてそうなのにって」

「イメージって怖いよね」

「駿は駿で意外だったけどな」

「そうかな?」

 あまり言うと薮蛇になりそうだったのでこのあたりでやめておくことにする。

 前を見ると、ミドリンと沙織が楽しそうに2人の世界を作っている。

「ミドリンもついこないだまでは、嶺岸くん!って言ってたのに現金なものよね」

「なんだ、アリサ寂しいのか?」

「そんなわけないでしょ!それに私はミント!あなたのことが好きなんだから」

「ああ、そりゃどーも」

「くうっ!そーいうとこがムカつくわ」

 アリサはこう言っているが、本音は正直わからない。見てる限りでは俺と言葉のことを応援してくれているように思う。


「夏でもこのくらいの時間になると結構涼しいのね」

「ああ、この辺りは田舎だから余計じゃないか」

 中心部から離れるとまだまだ自然豊かな土地が沢山ある。

 ミドリンの別荘がある辺りは避暑地ということもあり比較的に緑が多い。


 別荘へと繋がる林を抜けて夜の砂浜を歩いていく。

 月明かりが海に反射してキラキラと光って中々にロマンチックな雰囲気だ。

 何となくみんなそんな海を見ながら黙ってしまい、かと言って気まずい空気ではなく・・・


 皆思い思いに砂浜を歩いていく。


 別荘に着き特に何か言うわけでもなくそれぞれ自室に戻っていく。

 夜の海って何故だか物悲しい気がするのは、俺だけじゃないようだ。



 深夜、何となく寝付けなくて天井を見ながら俺は今の自分について考えていた。

 普通に高校に、それも進学高に通って気の許せる友達も出来た。

 こうやって泊まりがけで遊びに来るくらいの。

 彼女はいないが・・・まぁそれなりに気になる相手はいる・・・というか、正直なところどうしていいのか自分でもわからない。

 多分俺は彼女・・・言葉に好意を持っているんだと思う。言葉にしても全く何も思っていないわけではないとは思う。

 だが、「思う」だけだ、言葉の事情はよくわかっているし人を好きになるってことをまだ感情として持ち合わせていないようにも思う。

 これも「思う」だけだ。

 お互いに大切な存在だというのは感じているし、依存しているわけじゃないけど、寄りかかり合っているのは確かだ。


 考えれば考えるほどに、よくわからなくなる。

 いっそのこと、はっきりと聞いてしまえばと思うのだが、それも出来そうにない。


 ナツも言っていたが、どう見ても付き合っているように見えるのは確かだろう。

 何せ、普段の言葉はあの笑顔を作っているのだから、そしてその顔を向ける相手は俺なんだから。


 でも・・・それは違うんだよな。

 俺もそして言葉も、求めているのはそんな上っ面だけのものじゃないんだ。

 たかだか半年されど半年、俺と言葉はたった半年だけど他の誰とも違う濃密な時間を共有してきた。


 だからこそ、わかるんだ。

 今のままじゃ付き合うってことは出来ないし、付き合うべきじゃない。


 月の光が差し込む部屋で天井を眺めてそんなことを考える。


 ことばにしてしまえば簡単なことなんだろうけど、一度口にしてしまえば、なかったことには出来ない。


「時間はまだまだあるよ・・・な?」


 このモヤモヤした気持ちの正体は薄々わかってはいるけど俺はあえてそれを押し殺して目を閉じた。









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