驚の42 夏の終わりのある日
ミドリンの別荘から帰って来て1週間が過ぎていよいよ夏休みも終わり学校が始まる。
課題も終わらしたし、後は特にやることもなく今は何となくテレビを見ている。
「晩御飯出来たから持っていってもらえるかしら?」
「へ〜い」
「いつも悪いわね」
「悪いと思うなら、お前も作ればいいだろ?」
「なに?私の手料理が食べたいの?」
当然といえば当然なのだが、いつも通り俺の部屋には言葉とアリサが居座っている。
それも、揃いも揃って朝から来やがった。
こっちはまだ夢の中だったにもかかわらず叩き起こされ、何をするまでもなくこの時間までダラダラとうちで過ごしている。
今日した行動といえば晩メシの買い出しくらい。
朝から来る必要など一欠片もなかったと思うのだが。
……と思っていたのは先程までで、言葉の相変わらず美味い晩メシで帳消しになった。
最近ではアリサも、あ〜んにすっかり慣れてしまい、最初の頃の動揺がないので少し不満だったりもする。
「それでだ……ちょっとイヤな予感がするんだが、お前らもしかして帰る気ないんじゃないか?」
「あら?よくわかったわね」
「どうしてわかったのよ?」
「あのなぁ、俺んとこに来るぐらいでカバンなんかいつもは持ってこないだろうが」
イヤな予感的中。
「こんは美少女が2人も泊まりに来てあげたんだから感謝しなさいよね」
「いや、そうじゃなくてだな。家とかはいいのかよ?」
「大丈夫よ、言葉のとこに泊まりに行くって言っといたから」
「私もアリサのとこに・・・」
「お前らなぁ……」
全く帰る気配を見せずにソファでくつろぐ2人。
「で、なんでなんだ?」
こないだミドリンの別荘にみんなで出掛けてたばかりにもかかわらずわざわざ俺のところに泊まりに来るくらいだ。
何かあると思うほうが当然だろう。
「ちょっとね〜」
「何が、ちょっとね〜だよ」
「アリサと話をしたくて、それだけよ」
「それ、別に俺ん家じゃなくても良くないか?」
「あんたの話をするんだから来たのよぅ!」
「俺の?」
アリサが偉そうに腕組みをしてソファで踏ん反り俺を見つめる。
「な、なんだよ?」
「べつにぃ〜」
「くっ、なんかムカつく」
何を考えてるのか知らないが、言葉も何も言わないし仕方ないか。
「じゃ、そういうことで。言葉〜お風呂入りましょ」
「そういうことみたいなので、お風呂入ってくるわね」
どういうことだよっ?と言う間もなく2人仲良く風呂場に消えていってしまった。
はぁ、この状況に似たのは前にもあったけど今回は2人だからなぁ。
浴室からは楽しそうな笑い声が聞こえてくる、アリサのだが。
俺はとにかく気にしない様にしてイマイチ面白くもないテレビに集中することにした。
「いいお湯だったわね〜」
「そうね、2人だと少し狭かったけど」
その声に恐る恐る振り返る俺。
……ちゃんとパジャマ持参なんだな。
ほっと胸をなでおろしているとアリサが目ざとく気がついたみたいでニヤニヤと話しかけてくる。
「ご期待に添えずごめんなさいね〜」
「期待なんかしてねーよ」
「あれ?そうなの?下着にシャツの方が良かったんじゃない?」
「言葉……お前なぁ」
「別に隠すほどのことでもないでしょ?」
「それはそうだけど、こいつには言ってほしくないな」
「え〜っ、ちょっとひどくない?」
「ひどくない!全くひどくないから」
冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出し腰に手を当ててぐびぐびと飲むアリサ。
学校では知的な美人で通っているのだが、こうも素の状態と違うものかとあきれるやら感心するやらで。
「どこのオッさんだよ?」
「強いて言うならコーヒー牛乳かフルーツ牛乳が良かったわね」
「……もういいや」
後は2人で適当に好きにやってくれと言い残し俺はソファに横になる。
「意外と紳士なのね?じゃあ遠慮なくベッドは使わせてもらうわね」
「おやすみなさい」
パチンと部屋の明かりを消す音がして暗くなる。
窓から入ってくる月明かりだけが僅かに部屋を照らしていた。
俺は敢えて何も聞かない、聞こえないように意識を眠りへと無理やりもっていく。
…………
深夜。
クーラーはつけてはいるがあまり寝慣れていないソファで寝たせいか何となく目が覚めた。
こちらからは見えないが規則正しい寝息が聞こえるので2人共寝付いたのだろう。
俺はそっとソファから出て水を飲みにキッチンへ。
グラスに氷を入れてからベランダへ出て夜風に当たりながら寝静まった街を眺める。
「起きてたのね?」
不思議なもので、何となくこうしていると言葉が起きてくるんじゃないかと思っていた。
「ああ、起こしたか?」
「いいえ、何となく目が覚めただけよ」
俺の隣にきて言葉も深夜の街を眺める。
心地よい風が俺と言葉の間を通り抜けていく。
お互い何も言わないし何も聞かないが、これはこれで落ち着いた時間だった。
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