笑の40 親友なんだと思う
「・・・で、なんでついてくるんだよ?」
「そう固いこと言うなよ、大親友!」
「はぁ、自分で説明しろよな」
あの後、ナツは取り巻きたちを帰して俺についてミドリン達のとこに一緒に行くと言い出した。
「だってよ、お前あんだけ美人揃いだぞ?何かあっても俺がいれば何とでもなるだろうが?」
「俺はお前が一番心配だわ・・・」
芹澤 夏。俺の・・・まぁ確かに親友ではある。年は3つ上の19歳、職業ラッパー兼クラブDJ。見たまんまのヤツなんだが、憎めない男ではある。
「芹澤さんはいつからミントと?」
「はい、僕とミントが知り合ったのは・・・」
「気色悪い喋り方するなって」
俺とナツが知り合ったのは中学2年の夏休み、丁度今くらいの時期で俺がナツの取り巻きに絡まれたのが始まりだった。
当時の俺は色々あって、あまりいいヤツじゃなかったと思う。街中でナツと大喧嘩をしたんだっけか。
どうして仲良くなったのかはよく覚えてはいないが、それ以降何かと付き合うようになった。
見た目はこんなんだけど根はいいヤツで、案外優しく女の子には滅法弱い。
「でもよ、ミントにこんな美人な彼女がなぁ」
「だから彼女じゃないって言ってるだろ」
「あのな、そんだけしっかり手繋いで肩が触れるくらいくっついて歩いてて説得力あると思うか?」
「言葉もちょっと離れて歩けよ」
「いやよ」
「・・・もっかい言うぞ、説得力あると思うか?」
「ない・・・な」
中学卒業後に俺が違う土地の高校に進学したために疎遠になったがそんなことは気にしていないようだ。
「ミントは確かに頭だけは良かったからなぁ」
「だけ、は余計だ」
「頭はいいわね、それなりに」
「お前も一言余計なんだよ」
ミドリン達は近くの大手の居酒屋で食べてるらしい。
未成年だけど食事だけなら問題なく入れるみたいだ。
暖簾をくぐってミドリン達を探すと分かりやすく奥の席から一際目立つ騒ぎ声が聞こえてくる。
「遅くなって悪い」
「あっ、ミントくん。遅かった・・・ね?」
俺と言葉の後ろに立っているナツを見て駿が俺に何故って感じの視線を投げかける。
「お前、自分で説明しろよな」
「わかってるって」
ナツは変にかしこまって自己紹介を始めた。
ミドリンと駿も最初は少し話しにくそうだったけど次第に打ち解けてくれた。
意外にも一番最初にナツと打ち解けたのは詩織だった。カラオケでもロックとかが好きだったこともあるのか、本職のDJに興味を持ったようだった。
ナツはこの近くにある「音庭」という老舗のクラブでDJをしている。
夏フェスに出演したりライブも結構行ったりして人気があるらしい。
「へ〜、じゃあ中学の頃からの知り合いなんだ?」
「おうよ、あの頃のミントは、何ていうかちょっとトゲトゲしい感じだったからなぁ」
「今からはちょっと想像出来ないね」
「だろ?俺としてもミントがちゃんと学生さんしててくれて嬉しい限りだぜ」
ナツを囲んで俺の中学時代の話で盛り上がってる。
あまりあの頃の自分は好きじゃないので話してほしくはないんだけど・・・
「あなたにそんな頃があったなんて、ちょっと信じられないわね」
「そりゃあな、反抗期みたいなもんだよ。お前はなかったか?」
「私?私にあると思う?」
「ないよな・・・」
当然だが居酒屋で食べていても、あ〜んはする訳で最近は気にしてなかったが周りの視線に殺意を感じる。
「なぁ、あの2人って本当に付き合ってないのか?」
「本人達はそう言ってるよ」
「あれで付き合ってなかったら、世の恋人の定義ってどうなるんだ?」
「ナツくんもそう思うんだ?」
「当たり前だろ?あんな羨ま……けしからん」
「いい加減ちゃんと付き合っちゃえばいいのにね」
「そうだろう、僕もホントそう思うよ」
「あのなぁ、仕方ないだろ?これが普通なんだからさ」
「そうね、あ〜んして欲しいなら言ってくれればしてあげるわよ」
俺と言葉の返事にみんなは顔を見合わせる。
「そういうのじゃないんだよなぁ」
「うん、あ〜んがして欲しいとかじゃないんだよ」
よくわからんが、別にいいんじゃないかと思う。
「さて、時間も時間だしそろそろ帰るかい?」
「うん、そうだね」
居酒屋を出ると時刻は9時を回ったくらいだった。
「おっ、なんだもう帰るのかよ?」
「お前と違って俺らは学生の身だからな」
「そっか……まぁまた会えるよな!」
「別に会いたかねーけど」
「お前ホントに酷いヤツだな!」
「はっはっは、ミントくんは恥ずかしがり屋さんなのさっ!」
「なんだ?そうなのか?ミント」
すっかりナツとミドリンは意気投合したようでハイタッチなんかやってる。
駅までナツが見送りに来てくれる。
「じゃあな」
「ああ、またな」
「バイバイ」
「楽しかったよ!ナツくん!」
「今度はもっと時間のある時にね〜」
みんながそれぞれナツと挨拶を交わして改札を通っていく。
「またな、ナツ」
「ああ、またな、ミント」
俺とナツは拳をコツンと合わせて互いにニヤリと笑う。
俺は改札に向かって歩いていく。
ナツもそんな俺を見送ることなく繁華街のほうに巨体を揺らしながら消えていく。
「なんだかんだでいいヤツなんだよな」
俺はひとり呟いてみんなの待つホームへと向かった。
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