驚の30 知らない間にそうなるんだ
「そういや、ミドリンの別荘に行く日が決まったぞ」
夏休みに入ったにもかかわらず相変わらずほぼ毎日のように俺のうちに来ている言葉。
「あら?そうなの、でいつになったのかしら?」
「えっとな、21日から1週間だな」
「21日ね、わかったわ」
「どうせヒマなんだろ?お前」
「・・・忙しくないって言ってくれないかしら」
同じだと言って俺は冷えた麦茶を取りにキッチンにいく。
普段はコーヒーと紅茶なのだが言葉のリクエストもあり最近はもっぱら麦茶がメインだ。
「ところでミドリンの別荘ってどこなんだ?俺聞いてなかったわ」
「あら知らないの?
「は?神部?俺の地元じゃねーか」
「そうね、でも海側だから随分と離れてるんじゃない?」
てっきりもっと遠くかと思ってたら案外近所だったんだな。
俺の地元である神部市は縦に長く北のほうは山林地域が広がっており登山や冬場はスキー場で賑わう。
逆の南側は海に面しており風光明媚な港町として栄えている。
因みに俺の住んでいたのは北側の山の麓なので海側は遊びに行っていた程度だ。
「あの辺りに別荘って本当に金持ちのボンボンなんだな」
「そうよ、資産家としても有名だから」
頭の中にミドリンの高笑いが聞こえるようだ。
「はぁ〜っはっはっはっ〜!ミントくん!在宅かね〜?」
ほら空耳まで・・・はぁ?
ピンポン!ピンポン!
「なぁ?これってどうなんだ?」
「さあ?どうするの?」
言葉と部屋でまったり寛いでいるところに来られるのはマズイように思うのだが、この際別にいいかとも思う。
ピンポン!ピンポン!
「別にいいんじゃない?今更」
「それもそうだな、ミドリンだしな」
ピンポン!ガチャ。
「あら?開いてるよ?ミドリン」
「いやいや、沙織くん、開いていても勝手に開けるのはどうかと思うよ?僕は」
沙織?ミドリンだけじゃないのかよ?
「おじゃましまーす。ミント〜いる〜?」
「ああっ、沙織くん!ちょっと待ちたまえよ」
やれやれ、俺は肩をすくめて玄関へ向かう。
言葉は当然いつも通りにお茶を飲みながらソファでくつろいでいる。
「へいへいと、どうしたんだ?2人して?」
「いやぁデェトを楽しんでいたのだがね、ミントくんの家が近所だからと沙織くんが言うものだからね」
「ちょっとミドリン!デートは言わなくてもいいんじゃない!」
「そうかい?事実だからよしとしようじゃないか」
「お前らいつのまに?ってかミドリンはアリサじゃなかったのかよ?」
気がつかなかったがミドリンの右手はしっかりと沙織の左手を握っていた。
「oh!それを言われると僕も辛いんだけどね、僕は沙織くんのことがlovelyになってしまったのさ!」
「ちょ、ちょっとやめてよ!」
沙織が赤くなってミドリンをバシバシと叩いている。
「ははは、まぁ何となくそうなるかなっては思ってたけどな」
あのショッピングモールの日以来、2人の間に何かあったんだろう。
「おや?ミントくん、どなたかお客様かい?」
ミドリンは玄関にある言葉の靴に気がついた。
「女物の靴・・・駿が言ってた噂の彼女ね!」
「んな大層なもんじゃないけど・・・まぁ上がれよ」
今更どうこうする気もないので素直に2人をリビングへと案内する。
「こんにちは、緑川くん、沙織さん」
言葉は当然のようにソファでくつろいだまま声をかける。
「柊くん?・・・これは驚いたな」
「柊さん・・・がミントの彼女なの?」
そんな言葉を見て2人があまりに驚いた顔をしているのでおかしくなった。
「ははは、そんな関係じゃないけどな。なぁ?」
「そうね、お付き合いしてるわけじゃないのよ」
2人はまだ驚いたままクッションのある床に座る。
「麦茶でいいか?言葉もまだいるか?」
「あ、ああ、ありがとう」
「頂くわ」
2人に麦茶を出してやり言葉のグラスに氷を入れて再度注いでやる。
「ありがと」
「ねぇ、柊さんっていつからミントと?」
「oh!そうだね!なんだかすっかり我が家みたいになってないかい?」
「いつからって・・・入学してすぐよね?」
「ああ、そうだな」
俺もグラスを手に言葉の隣に腰掛ける。
「駿が言ってた女の子の匂いって・・・」
「多分コイツだな」
「多分って?あなた他に誰かいるのかしら?」
「訂正だ、間違いなくコイツだ」
「あなた?」
沙織は変なとこが気になるみたいだ。
「2人でいるときはそうだよな?俺も言葉のこと、お前って呼ぶし」
「そうね、何かおかしいかしら?」
初めて話したときからそうだったから不思議と何も思わなかったけど何か変なのか?
「熟年夫婦感が出てるわよ、あんた達」
「んなわけあるか!」
「しかし驚いたね!柊くんとミントくんか・・・嶺岸くんは知っているのかい?」
「ええ、アリサもちょくちょく来るから知ってるわよ」
「ということは、ミドリンの別荘に行く話も・・?」
「アリサが考えて誘ってくれたの」
言葉は何故あの場に自分がいたのかを2人に説明する。
「まぁコイツは引きこもりのボッチであんな場所にいるはずないからな」
「引きこもってないわよ。それにボッチじゃなくて一人が好きなだけよ」
「へいへい」
ワザとらしく拗ねた顔を作る言葉を撫でてやる。
それをジッと見ていた沙織が俺に尋ねてくる。
「付き合ってないんだよね?2人は」
「ああ、そうだが?」
「本当に?」
「おう、本当にだ」
そんな話をしている側から言葉は撫でられるのが気持ちいいのか俺の肩に頭をこつんと預けてくる。
「えっと・・・100歩譲っても恋人同士にしか見えないわよ?」
「なら101歩譲ってくれ」
「そういう問題じゃないでしょ?」
「気にすんなって」
俺は苦笑いしているミドリンに向き直る。
「まぁそんな感じだからさ、言葉とも仲良くしてやってくれな」
ミドリンと沙織は顔を見合わせて、もちろんと笑ってくれた。
いいカップルだな、全く。
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