楽の31 ミドリンの別荘に向かおう


「それじゃあそろそろ出かけるか?」

「ええ」

「忘れ物はないな?」

「ないわよ、あなたこそ大丈夫?」

「全く大丈夫だ。何せ地元だから、何かあっても実家がある」

 そう言ってサムズアップした俺をみて言葉がため息をつく。

「ちゃんと荷物を持ってきた私がバカみたいだわ」


 俺は部屋の鍵を閉めて言葉に鍵を預けておく。


「悪いけど鍵持っといてもらえるか?」

「どうして?」

「なくしそうだ」

「はぁ、その変な自信は何なのかしらね」

 俺から鍵を受けとり自分のクマさんのキーチェーンに取り付ける言葉。


「よし!行くか」

「楽しそうね?」

「当たり前だろ?遊びは常に全力で!だ」

「はいはい」

 俺は言葉の荷物を持って階段を降りる。

 待ち合わせまではあと30分はあるからゆっくり歩いてちょうどくらいだろう。

 向かいの道に出ると言葉は当然のように俺の手に指を絡める。


 最近これも違和感なく受け入れている自分に少しだけ感心しつつも駅までの道を2人のんびりと歩いていく。


「何だかいつもより視線を感じるんだけど?」

「そりゃそうだろ、諦めろ」

 言葉がそう言うのも無理はない。

 何故なら今日の言葉はホットパンツにニーハイ、上はノースリーブのサマーニットという格好だ。元々見た目は言うに及ばずスタイルもいいので目立って仕方ない。

 朝この格好で家に来たときは天を仰ぎみたものだ。


「あなた的にはどうなのかしら?」

「俺か?そりゃ似合ってるしいいと思うぞ」

「そう、ならいいわ」

 何がそうなのかはわからないが、言葉はそれっきり周りの視線を気にすることはなかった。


「もうみんな来てるかな〜って、なんだ?」

 駅前のすぐ近くまで来ると駅のロータリーには一台のバスが止まっておりバスの横にはデカデカと"緑川御一行様"と書かれていた。


「なあ?帰らないか?」

「そうね、帰りましょう」


 思わず回れ右をして立ち去ろうとしたのだが、お〜いとバカでかい声でミドリンに呼ばれ渋々戻ることにした。


「はっはっはっ!さあさあ乗りたまえ2人とも!」

「いやだ!」

「そうね、いやよ」

「何故にっ!!」

「何故に!じゃねーよ!バカだろ?お前」

「せっかく僕がNICEでビューティホーなバスを用意したのに!どうしてかね?」

「あのなあ・・・」

 俺はバカにコンコンと説教をしてやった。

 みんなで泊まりがけで遊びに行くんだぞ?わかるか?ワクワクのドキドキなわけだ。

 家を出る、駅前で待ち合わせ、みんなで切符を買って電車に乗る。な?車窓から見える風景を見て楽しむ、駅弁を食べるとかトランプするとか、色々あるだろーが?

 目的地の駅に着いたら着いたで駅地下とかを探検してみる、いい匂いにつられて買い食いをしたりしてからゆっくりとミドリンの別荘に向かう。

 旅の楽しみを、お前ヨーイドンで奪ってどうすんだよ?

 俺はバスを叩きながら、こいつを登場させるのは目的地に着いてから一通り遊んで、さあそろそろ別荘に向かうかって話になった時だろ?


 わかったか?


 俺の話をミドリンは至極真面目に聞いていた。


「なんてことだ・・・僕は、僕はみんなの楽しみを奪ってしまうとこだったのか・・・」

 四つん這いになりうなだれるミドリンの肩に手をかけて俺はまだまだ取り返しはつくことを教えてやる。

 幸いまだ俺たち以外に誰も来ていないのだから。


「oh!thank you!!バスは撤収させるよ!向こうでsurpriseにすればいいんだ!」

 ミドリンの命令でバスはロータリーを回って走り去っていった。

「ミントくん!僕は素晴らしい友人を持って嬉しいよ!」

「ふっ遊びは全力で!だぜ」

 拳を突き合わせる俺を横目にため息をつく言葉。


「2人揃ってバカよ、あんたたちは」



 それからしばらくして詩織に沙織、駿、それからアリサが来てようやく全員揃って出発することになった。


 駿は沙織とミドリンが付き合うことになってちょっと元気がなかったが詩織が上手くフォローしていたので大丈夫そうだった。


 とりあえずみんなで切符を買って電車に乗る。

 ここから神部までは普通列車で2時間くらいなのでワイワイと話ながらになり途中で駅弁を買いに行き乗り遅れそうになったりと楽しく過ごした。


 目的地に着くと時刻はまだ昼過ぎだったので駅地下を散策してみる。といっても俺は地元だし言葉も俺と何度か来ているので新鮮味はないんだが。


 俺と言葉のことは沙織が詩織と駿に上手くいってくれたようで今のところ詮索されるようなことはない。

 言葉もそのあたりのことはわかっているみたいで、いつものように手を繋ぐこともなかった。

 まあ、かわりにアリサが手を繋ぎにきたが言葉に撃退されて、今は何故だか言葉とアリサが手を繋いで歩いている。


「でも、わからないものですね。姉さんと緑川さんがお付き合いすることになるなんて」

「そうだな、俺もビックリしたぜ」

「僕は沙織ちゃんのことより、ミントくんと柊さんのほうが驚いたんだけど」

「そうですね、あの柊さんですものね」

「あのってなんだよ?あのって」

「だって学年一の美少女だよ?才色兼備、非の打ち所がないような人だよ?柊さん」

「非の打ち所がないねぇ・・・」

 学校内でのイメージはそんなところだろうな。

 実際には愛想はないし何考えてるかわからないし、非の打ち所めいっぱいあるんだがな。


 アリサと手を繋ぎ並んで歩く言葉を眺める。

 タイプこそ違うが美少女が手を繋いで歩く姿っていいよな。うん。


 この後は沙織があれこれと買い食いをしたので3時半頃にサプライズ登場したミドリンのバスで別荘に向かうことになった。








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