楽の29 結局泊まって帰った
成り行きで結局、言葉がうちに泊まっていくことになった。
なったのだが・・・
「ねぇ、お風呂借りてもいいかしら?」
「は?いや、まぁいいけどお前着替えないだろ?」
「あなたの服を着るから大丈夫よ」
「大丈夫なわけあるか!」
俺の話を聞かずに言葉はさっさと風呂場に行ってしまう。
「ここにある服適当に着るから」
風呂場からそんな言葉の声が聞こえてくる。
もう、勝手にしてくれ。
「俺はソファで寝るからお前ベッドな」
風呂場の言葉にそう言って俺はソファに横になって不貞寝することにした。
風呂上がりの言葉は確実に破壊力が高すぎる。精神的に悪いこと間違いなしだ。
静かな部屋にシャワーの音が微かに聞こえる。
俺はありったけの精神力を使って眠ることにした。
「あら?寝ちゃったの?」
しばらくして言葉が風呂から上がってきたみたいだ。
「ちょっと服が大きいけどまぁいいかしら・・・自分はソファで私はベッドって案外紳士なのね」
そんな独り言を言って言葉は部屋の明かりを消した。
やれやれ。もうちょっと警戒心ってのを持つべきだな、コイツは。
俺は心の中で言葉に注意して改めて寝ようと固く眼を閉じた。
・・・・・・・
ゴソゴソ・・・
・・・・・・・
翌朝朝日が窓から差し込んできて俺は重たい瞼を開ける。
「・・・は?」
俺の目に飛び込んできたのは、驚くほど美しい言葉の寝顔だった。
えっと?何これ?どうなってるんだ?
どうやら言葉が夜の間にソファの俺のところに潜り込んできたみたいなのだが。
俺にしっかりと抱きついて寝てやがる。足まで絡めているので柔らかいものが色々当たっていておまけにいい香りまで付いている。
人間不思議なもので理解が追いつかないと逆に冷静になるらしい。
「おい!言葉!起きろ!」
「う、ううん・・・ん」
「言葉!」
「・・・ん・・・おはよ?」
俺と言葉の距離は10㎝程。甘い吐息がかかって非常にマズイ。
「よく寝れたかしら?」
「寝れたと思うか?」
「寝れなかった?」
未だに言葉は俺に抱きついたままでそんなことを言ってくる。
「なぁとりあえず起きないか?っていうかいつまで抱きついてるんだよ?」
「嬉しいでしょ?」
そう言って俺の額に額をこつんとぶつける。
「まるで恋人同士みたいだぞ」
「一度してみたかったのよ」
「で、どうだった?」
「さぁ?あなたはどう?」
「色々やばいな。主に下半身が」
「・・・離れた方がいいわね?」
言葉も気付いたようでそろりと俺から離れて床にぺたんと座った。
座ったのだがそれもまた問題だった。
「お前!なんつー格好してんだ!」
言葉は下着に俺のシャツを着ただけだった。
「あら?男の人ってこういうのが好きなんじゃないの?アリサが言ってたわよ」
あのバカ・・・何教えてんだ?
「頼むから普通に服を着てくれないか?」
「この格好じゃダメかしら?」
「俺の精神衛生上よくない」
そう?と言った言葉は特に着替える気はないようでそのままじっと俺を見ている。
「なんだ?」
「ううん、あなたも男の人なんだなって思って」
「当たり前だろ?前からもそう言ってる」
「そうだったかしら?」
お前なあっと俺は反論しようとして言葉の顔を見て固まってしまった。
「あら?どうしたの?変な顔して」
「ああ、いや、別に何でもない」
言葉はいつも通りの無表情で答える。
今のは見間違いか?
さっき言葉は確かに微笑んでいた。いつもの作った笑い顔じゃなかった。
そう、作り笑いじゃなかったはずだ。
「変なひとね、お茶入れてくるわね」
そう言ってキッチンに向かう言葉。
下着にシャツというある種の男の憧れ的な格好を言葉のような美少女がしているのである。
それもシャツの生地がそれほど厚くないため下着の色まで透けてわかってしまう。
「ピンクなんだな・・・」
「他の色の方が好みかしら?」
「うわっ!聞いてたのかよ!」
「たまたま聞こえただけよ。じゃあ今度は違う色にしてあげるわね」
「・・・マジで勘弁してくれ」
「冗談よ、はい、コーヒー」
「さんきゅ」
仲良くソファに並んで座る。
夏場なので朝日が昇るのが早いとはいえまだ時刻は6時になったばかりだ。
「もう少し寝てたかったわね」
「お前がこっちに来るからだろ?こんな早くに起きたのは」
「せっかく2人でいるんだし、いいでしょ?」
「いいわけあるか!」
「あまり怒るとハゲるわよ」
俺の反論をよそに言葉は何ごともなかったかのように美味しそうに紅茶を飲んでいる。
「こんな朝早くからあなたの家でお茶してるなんて想像してなかったわ」
「あのなぁ、それは俺のセリフじゃないか?」
「そう?お互い様だと思うけど?ほんの何ヶ月か前は見知らぬ他人同士だったわけだし」
「それにしても、もうちょっとお前は男に対して警戒心を持ったほうがいいぞ」
「あなた以外にこんなことしないわよ」
「それって告白にしか聞こえないぞ」
「・・・・他に言い様がないのよ」
そう言って俺の肩に頭を預ける言葉の表情は見えないが、どんな顔をしているんだろうか?
こんな恋人ゴッコみたいなでもきっと言葉にとっては自分の感情を確認するようなものなのだろう。
言葉に男女間の恋愛感情があるのかは俺にはわからないが、言っていることだけ聞いていると俺に気があるんじゃないかと思ってしまう。
多分そんなことはないとは思うが・・・
結果、言葉はしばらく寛いだあと帰るわねといつも通りに帰っていった。
「やっぱりよくわからんな、アイツは」
キッチンでコーヒーをもう一杯飲みながら俺はそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます