第48話 深き森の中


 ドームから脱出した私達は追跡を躱す為に整備されてない森へと分け入ることとなる、女性は青狛蒼と名乗った、ホーネット西部地区総隊長で紅音古さんのお姉さんらしい、悠吏とは七星や紅音古同様旧知の仲である。

「 ユキちゃん 私 多分鳥殺しを国神に封じられてるの 何をされてるか確認したいんだけど 」

「 ワンコ隊長 」

「 わかった 追っ手はしばらくは大丈夫だろう 手頃な場所で休息しよう 」

 それから少し移動した所にブロックで造られた倉庫のような物を発見した。

「 今は使われてはないようだな 」

 青狛が鍵を壊し扉を開けた。

「 こんな森の中に何の建物かしら 」

 ユキが興味深く中を覗く。

「 倉庫以外に使い道はないだろう 電気も来てないし発電機も無いしな ただ道らしきものも無いこんな場所に違和感はあるな 洞穴からはかなり離れているから関連は無さそうだが 」

 建物の内部はがらんどうで何も無かった。

「 少し気味は悪いがここで休むか 」

 私達は10畳ほどの建物の内部のコンクリートの床に腰を下ろす、青狛が水筒を回してくれた。

「 小夜さん達は 」

「 心配するな 私の部下とありさの指揮で監視塔を急襲した 貴様らの兵もなかなか使えるヤツらで助かったぞ あのメンツで失敗はまずありえんだろう 今頃は救出完了してるはずだ 」

「 スナ丸と首チョンパ三人衆も向こうの作戦に加わってるの ありさとトーマがいるし大丈夫よ 」

「 どうやって合流したの 」

「 東京の車田さんに連絡してホーネットに協力要請してもらったの 私は時間を凍結して海の上を歩いて来たわ あの4人は私が張ったロープを伝って泳いで来たのよ 」

 それから私は鼠仔猫島で知り得た事を2人に手短に説明した。

「 やはり毒ガスか 」

「 でもこの星の地表面を覆い尽くすなんて可能なの 」

「 私も科学的な事はちんぷんかんぷんだ 岬さまに早く報告せねばな ただ国を挙げてここまで大掛かりにやってるんだ 単なる妄想でもあるまい 」

「 遅考性って効果が遅い遅効性じゃないのよね 」

「 うん 考えが遅れる遅考性 バカになるんですって 」

「 バカにも度合いがあるがな 世の中バカばかりだから大差ないんじゃないか 問題は純血種以外が死滅する方だな 」

「 どれくらい死ぬのかしら 」

「 大陸は大抵混じってるからな これも種族なのか民族なのか純血種の程度がわからんことには推測出来んしな ただ計画上相当死ぬんじゃないか じゃなきゃやる意味が無い 」

「 神による人類の選別 新しい聖書が出来そうね 」

「 国神とやらはそのつもりなのだろう これまでの人類史を無かった事にして聖書の1ページ目から書き直すつもりだ 」

「 それでツクさん 国神に何をされたの 」

「 それがわからないの 眠らされた間に鳥殺しが使えなくなってて だから私の身体 調べて欲しいの 」

 そう言って私はユキに動けるようにしてもらった本来拘束衣だったものをスルリと脱いだ、背中にチャックが付いているつなぎのような上下一体型なので足元までずり下がった、下には何も着ていなかった。

「 おおっ これはたまらんな 私の嫁になってくれ 」

「 くそっ 何でスマホ壊れてるのよ 」

「 ユキちゃん 何写メ撮ろうとしてるのよ いいから早く調べてください 恥ずかしいんだから 」


「 国神 許さないわ 私のツクさんに何してんのよ ぶっ殺す ぶっ殺す ぶっ殺す 」

「 背骨の辺り頸から腰までに文字らしきものが描かれてあるな 入れ墨のようだ 結構深いぞ 」

「 やっぱりですか 青狛隊長 剥がしてもらえませんか 」

「 何を言ってるんだ 剥がすって 」

「 皮ごとでも肉ごとでも背骨が見えても構いません 剥がしてください 」

「 まあ待て おまえトリオイ製薬の娘だろ そんな入れ墨消すのくらいわけないはずだ うちのホーネット医薬でもいい 嫁入り前の身体だ 大切にしろ 」

「 時間がありません ヤツらは私の中の鳥殺しを恐れてます 」

「 ならユウリ君を待て あの人なら呪術めいたことに詳しい 何か方法を知ってるかもだ とにかく早まるな 」

「 店長は多分戻りません 国神と右鈴原相手です 最初からそのつもりなんでしょう 嘘が下手な人だから顔を見ればわかります」

「 ツクさん 私が時間を止めて連れてくる 待ってて 」

「 ダメよユキちゃん 行ったら死ぬわ 私ね あの時 私が死ねばみんなを守る事が出来るって思ってた だからそうしようって でも店長とユキちゃんが助けに来てくれた 2人の顔を見てすごく嬉しかった 死にたかったはずなのに変よね そして思ったの 自己犠牲なんてくだらないって 単なる傍迷惑な自己満足だって 守らない為の言い訳だって 守りたいものがあるのなら何を犠牲にしてでも自分で守らなければダメだって ある意味国神はそれを実行している 守るべき為に人類の大半を犠牲にしてまで それなら私も 例え首だけになっても 必ず守る 」

「 貴様の覚悟はよくわかった 麻酔は無いぞ 耐えれるか 」

「 はい 」

「 ツクさん 」

「 ユキちゃん しがみついててもいい 」

「 うん 」




「 クソっ いつ眠らされた 覚えているか鎌チョ 」

「 いや 用心して水も飲ま無かった おそらくガスだろう 」

「 ツクが心配だ ありさ君 」

「 ツクヨはドームにいるわ ユウリとユキが行ったから大丈夫よ ホーネットのアオ隊長もサポートしてる とにかく撤退するわよ トーマ いい 」

「 あいよ リサ 撤退だ撤退 町田さん林さん お願いします 」

 中央監視塔の地下から小夜と鎌丁を奪還したありさとトーマが監視塔正面入り口に陣取り派手に交戦中のホーネット兵士町田と林に合流した。

「 了解 林 起爆 」

「 起爆します 耳を塞いで下さい 」

 鼓膜を突き破るような轟音と振動が大地を揺らす。鳥頭切の4人により監視塔外壁に仕掛けられたプラスチック爆弾が一斉に起爆したのだ。

「 倒壊するぞ 走れ 」

 町田の声と共に走りだす。敵兵はもはや統制を失い自分達が何をすればよいのか判断出来ずに煙りを上げる監視塔と撤退するありさ達の間で戸惑っている様子である。

「 走れ走れ 巻き込まれれぞ 」

 地上100mほどの中央監視塔が傾きながら白煙の中に沈んでいく、背後から物凄い勢いで砂嵐のような爆風が押し寄せて来ていた。

「 頭を守って伏せろ 」

 町田の声にありさが小夜を背後から押し倒し覆い被さる、他の者も地面に亀のように丸まる。

 衝撃風が破片を伴い辺り一面を飲み込んだ。


「 大丈夫 サヤ 」

「 すまん ありさ君こそ大丈夫か 」

「 ヘルメットに特殊スーツよ あれしきの爆風へっちゃらよ 」

 全身真っ白になったのをはたきながらありさが立ち上がる。

「 みんなも大丈夫そうね これで追っ手はしばらく来ないわね ゆっくり戻りましょ 」

 それから一行は森の中へと分け入って行った。

 30分ほど歩き木々の中に隠された潜伏先のベースキャンプに到着した。

「 みんな無事だったか よくやってくれた 」

 キャンプ内から出迎えた今はホーネットの戦闘服姿の鳥頭切の4人に町田が声をかけた。

「 月夜様は 」

 砂叉丸が心配そうな顔をする。

「 隊長らはまだ戻ってないか 」

「 すまんスナ丸君 眠らされて離されてしまった 」

「 とりあえず中に入ってサヤ ひと息入れてから事態をちゃんと把握しましょ 」

「 了解だありさ君 」


 キャンプ内で小夜と鎌丁は国神とのやり取りを細かく説明した。

「 やっぱり毒ガスなのね これで正式に国連軍が動かせるわ 問題はこの島を攻撃してもいいのかってことね 」

「 なんか問題があんのかよリサ 」

「 バカねトーマは 例えば核でこの島を攻撃した場合 洞穴内のその結晶体を完全に燃やし切れることが出来るかって事よ ツクヨのあの金属と同様地球上には他に存在しない物質なんでしょ もし燃やせなかった場合 洞穴だけ吹き飛ばされて地表にむき出しになっちゃうのよ 外気に触れると急速にガス化するんでしょ あまりにも危険すぎるわ 町田さん 岬七星と話しがしたいわ 」

「 わかった 林 通信機を本部の岬様に繋いでくれ ありさ君 ここまでの経緯の報告も一緒に頼む 」

「 了解 」

 ありさは林とテントの隅の通信機の前へと向かった。

「 それで月夜様は 」

「 スナ丸 心配なのはわかるがどうにも出来ん ユウリとユキちゃんを信じて待つしかねぇだろう 」

「 若 鎌丁様のおっしゃる通りです 今は我慢が肝要です 必ず我等が月夜様のお役に立てる時があるはずです その時の為に当主様は我等を遣わせられたのですよ 」

「 わかってるよ 」

 今にも前のめりに槍を手に飛び出していきそうな、血気盛んな若者、砂叉丸を鳥頭切の羽折はおりまひる という女性が諌める。

「 ここは私と鳴切で様子を伺って参ります 我等なら敵に察知される事なく動けます故 」

 こちらも鳥頭切の千切ちぎりちぎる と鳴切なるぎりきりか 両名が立ち上がった。


「 その必要はないわ 」


 テント入り口に逆光の血濡れた八嶋ユキが立っていた。

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