第47話 救援
「 月夜さん 」
そこには玖津和あきらがいた。
「 アキラさん やっぱり国神の 」
「 はい 申し訳ありません 当家は代々国神様の命によりこの島の毒を守り続けた一族です まがち神の神守りの一族なのです 」
「 お互い大変ですね 」
私は気がつけばベッドに横たわっていた。小夜と鎌チョと一緒だったはずだが2人の姿は無い、部屋は病院の病室のような感じだ、おそらく睡眠薬かガスでいつの間にか眠らされてしまったのだろう、記憶が定かではないようだ。
身体は自由に動かせ無い、動かそうとは出来るのでおそらく拘束衣のようなもので自由を奪われているのだろう、刃物で拘束衣を切り裂くイメージをしてみたが反応しない、鳥殺しは完全に封じられているようだ。
「 サヤさんたちは 」
「 大丈夫です 監視房で眠らされてます 殺されたりはしません ここは国の施設です 法は遵守されます安心してください 」
「 私はこれからどうなるのですか 」
「 今 貴女の中の鳥殺しは国神様により抑えられてます 貴女はまがち神を引き摺り出す為の供物とされるでしょう 」
「 そうですか 」
「 月夜さん 私が必ず何とか……
「 いいんです これでいいんです 今ならまだ間に合います 私は大切な人たちをだれ1人失わずに済みます そりゃバカになるかもだけど それでも私はあの人たちに生きていて欲しい だからこれでいいんです 」
「 ……月夜さん 何故 泣いて助けてくれと言わないんです 私は貴女の為なら何でもするのに 何でも出来るのに 国神にだって逆らえる 島だって捨てられるのに……
「 出来ない事を私の所為にしないでください 」
「 ……死ね 」
玖津和あきらは冷たい死人のような眼差しを向けてから部屋を後にした。その後しばらくしてから私は拘束衣のまま2人の兵士により移動させられる。
到着した場所はかつての大洞穴であった。
森の中にポカリと黒い穴を開けていた大洞穴は今ではコンクリートで固められた円筒状の地に向かって穿たれた近代施設へと変容していた、周囲には5機の巨大クレーンが設置され穴に向かって太いワイヤーが伸びている。上部は円形の開閉式ドームになっており今日は開かれているようだ。抜けるような青空が丸く口を開けている。
私は穴の縁まで移動させられた。そこに神職の出で立ちの国神と軍服の右鈴原が居た、同じく神職の姿の玖津和あきらも。
祭壇が組まれ注連縄が張られている。
「 悪思わんといてな月夜ちゃん 首 落として穴に捨てさせてもらうで 残った胴は鳥殺しの祠を壊して胴塚としてちゃんと供養させてもらうき祟り神にならんといてな 」
私は兵らに祭壇上に跪かされ首を突き出す姿勢にさせられた。顔の下には桶がある、私の落ちた首が納まる為の。
国神とアキラが祝詞を奉じる。
「 玖津和あきら 玖津和一族の怨敵鳥殺しの首を落とせ 」
アキラが腰から小振りの太刀を引き抜いた。
「 月夜さん 貴女が悪い 私に助けを求めなかった貴女が 」
玖津和あきらがニタリと笑い力いっぱい太刀を振り下ろす。
どっと辺りに血が飛び散る。
地面に落ちたのは燃える玖津和あきらの両腕だった。
「 おまたせツク ちょっと遅くなってごめん 」
「 ツクさん そのポーズ興奮するわ 写メ撮ってもいいかしら 」
突然、そこには炎を纏った黒のアサルトスーツ姿の男とそれに寄り添うスマホを構えたセーラー服姿の少女がいた。
「 店長 ユキちゃん 」
「 おいユキ 少しは空気読めよ 何が写メ撮っていいかしらだよ てかスマホしまえよ だいたい移動させたら壊れんじゃないのかよ 」
「 だってツクさん相変わらずたまらなくエロいんだもの あっ壊れてる 」
私を押さえつけていた2人の兵士をユウリが一瞬に斬り倒した。
「 いいからユキはツクの拘束を早く解けよ 」
「 はぁぁい 」
「 何や おまえら どっから湧いて出た 」
「 やあ 国神 右鈴原 元気してたか 」
「 サ……ハラか 」
「 何で生きちょるんや 殺したはずやで 」
「 勝手に殺すなよ 殺したいなら首を落とせ 」
「 その太刀 レイの太刀か ユウリ おまえがレイを起こしたんか 瀬戸内をレイの炎で火の海したんもおまえなんか 」
「 どうでもいいだろ 別におまえらに用はないんだから ユキ 兵が来る ずらかるぞ 」
「 えぇぇっ 私 まだ何にも斬ってないわよ 」
「 我が儘言うなよ 」
「 リン 逃すな 聞きたいことごっつあるさかいな 」
「 言われずとも サハラ 今一度殺してやる 」
「 ようやく堕ち星の太刀が馴染んで来たんだ ユキ よく見てろよ 必殺技だ 」
「 …… 」
「 爆殺十字葬 !! 」
「 うわぁっ ダサッ 」
ユウリが掛け声とともに地面へと太刀を振り下した。
振り下ろされた太刀の前方に炎が巻き起こり十字型に切れ込んでいく。炎に飲み込まれた国神と右鈴原は流石に後ずさる。
「 今だ 逃げるぞ 」
「 何が爆殺十字葬よ 単なる目くらましじゃない 」
「 いいから早く 」
「 わかったわよ ツクさん 逃げましょ 」
ユキが刀で拘束衣の拘束を解いてくれた。
「 ユキちゃん サヤさんと鎌チョが 」
「 大丈夫 ありさ達がうまくやってくれてるはずよ 」
異常を察知した兵達がどっとなだれ込んできた。
「 道は開く 行くぞ 」
悠吏が先頭に立ち炎の剣を振り乱す、マシンガンを抱えた兵士達がボンと弾けた炎に吹き飛ばされた。
「 うりゃああああッ 」
悠吏がさらに十字の炎で退路を開く。
「 爆殺十字葬って叫びなさいよ 」
「 やめなよユキちゃん 本人は言った後で少し恥ずかしくなってるパターンのやつだよ きっと 」
「 爆殺十字葬ぉぉぉ!! 」
「あっ 言った 」
「 もうヤケクソだね 」
「 サぁハぁラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ 」
後方の炎の中からミサイルのように剣を構えた右鈴原が飛び出し突っ込んできた。
「 ユキ 後は頼んだ 」
「 わかったわ 」
悠吏がクルリと反転した、ユキに手を引かれ悠吏を追い越して行く。
「 店長 きっとですよ 」
「 ああ ツク 」
すれ違い際に僅かな言葉を交わす。
猛烈な勢いの右鈴原の剣を悠吏が抑えた。
「 ふっ サハラ 怪我をしてるな しかもそれは貴様の長刀ではない その間合いで俺に勝てると思うなよ 」
「 うっさいなぁ 邪魔すんなよ 」
右鈴原を力で弾き飛ばす。
ヒュンと堕ち星の太刀を斜め下に振ると刀身が炎を纏いスルリと伸びた。
「 舐めるなよリン 昔も今もおまえなど相手にならん 僕を負かしていいのは鈴音だけだ 」
「 姉恋しか 相変わらず軟弱だな 」
「 姉じゃない 僕の女だ 」
それまでの表情の無い右鈴原の顔が憎悪に満ち溢れた。
「 なんだよ 怒ったのかリン 」
「 守れなかった癖に 」
「 黙れ 」
そして二匹のけものは剣を交える、怒りと憎しみと苦しみと悲しみを織り交ぜながら、狂い咲き、狂い散っていく。
「 小娘 こっちだ 」
ドーム内の広い中央部のスペースから壁際にユキに引かれて走ると通路から青いアサルトスーツの小柄な女兵士が顔を出した、腕にはスズメバチをデザインしたホーネットの腕章がある。
彼女の出て来た通路の3mほど横にあるもう一つの通路から3人の兵士が出て来て鉢合わせになった。と、瞬間、目にも留まらぬ速さで3人の兵士を格闘術で薙ぎ払う、最後の1人は顔面に膝がめり込み壁に叩きつけられていた。
「 ホーネットのワンコ隊長よ ツクさん 」
「 ユウリ君は 」
「 例のヘンなのとあっちで闘ってるわ 」
「 国神とやらも居るのか 」
「 どうなのツクさん 」
「 はい 居ます 」
「 ユウリ君もいるし一気にカタをつけるか 」
「 待って 作戦と違うわよ隊長 この人数でどうするの この場に留まったら包囲されるだけじゃない 」
「 それでも私とユウリ君なら国神はヤレる可能性がある それなら我々の勝利だ 個の命などどうでもいい 必要なのは部隊としての勝利だ 貴様ら2人は時間停止で逃げられるだろ 問題ない と言いたいとこだがやはり相手の得体が知れなさすぎるな ユウリ君との約束もある 撤退するぞ ついて来い 」
ドーム施設の通路に進入してから出くわす敵を片っ端からワンコ隊長なるこの女兵士が体術だけで粉砕していく。
「 あの子凄いわね ツクさんも武術の達人なんでしょ 勝てそう 」
「 ユキちゃん 私 達人じゃないわよ それにあの人のはただの体術じゃないわ あんなの絶対に躱せない 」
「 やっぱり能力者なの 」
「 建物を抜けるぞ 私が先行する 物影からの狙い撃ちに注意しろよ 」
「 はい 」
「 了解したわ 隊長 ツクさんは任せて 」
彼女は背中に担いでいたコンパクトな自動小銃を構え低い姿勢で屋外に飛び出す。周囲を確認してから来いと手で合図を送る。
「 国神司令 中央監視塔が襲撃を受けております おそらくホーネットの小隊かと思われます 」
「 やっぱ入り込んじょったか 逃げた女2人は 」
「 ドーム内にも進入者がいる模様です 捕獲したとの連絡は未だありません 」
「 最悪やな 」
「 大佐の援護は よろしいのですか 」
「 あんだけ動かれたら銃器での援護は無理やろ 右鈴原大佐ごと蜂の巣にするしかあらへん 槍隊で2人を囲っての援護が正解なんやが そんなもんおるわけあらへんしな しゃあない ウチが加勢するわ 前回は2人がかりで更に山犬ども使ってやっとやったんやけどな 兵は監視塔と鳥迫月夜追跡に回せ 鳥迫月夜は見つけ次第射殺しろ もう人やあらへん 首は必ずその場で切り落とせ 」
「 了解しました 」
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