第46話 国ノ神


「 これはこれは お久しぶりやな 鳥迫月夜ちゃん なんや意識不明で死にそうやっち聞いとったんやが元気そうで何よりや 」

「 黙れ 」

「 怖っ リンちゃんどうなっとんや 」

「 鳥殺しと同化しております が まだまだ不完全体かと 」

「 そういうことか 鳥追いめ考えよるな ウチの契約に上書きしおったか まあ手間が省けてええわ こんで月夜ちゃんを生贄にしたらすべてうまくいくやんか 」

「 国神さん どういうことかちゃんと説明してくれ あんたこの国の神様なんだろ 」

 私達は右鈴原と一緒に鼠仔猫島へと渡った。

 同行者は2名までと右鈴原に言われ、仕方なく小夜と鎌チョとなった、ユキと砂叉丸と鳥図切の使用人の千切、鳴切、羽折は独自のルートで潜入を試みているはずである。

 島は以前、百目奇譚の取材で訪れた時とは随分と様変わりしており、いたる所に近代的な施設が造られ島を横断する形で中央には鉄道まで轢かれてあった、島の中心部には円形の巨大なドームが見える、おそらく大洞穴のある場所であろう。

 私達はドームから少し離れた島で1番高い中央監視塔なる建物の最上階に連れて来られていた。

「 三刀さんやったかな 久しぶりやな 」

「 いいから説明しろ 」

「 …… 」

「 司令 私を見ないでください 貴様らも知っているなら口の利き方には注意しろ 」

「 まあええわ 神さん言われてもウチ自身ようわからんしな そもそも神の定義っちなんや ウチは人とは違うっちいうだけや 勝手に頼られちょるだけでほんまは迷惑なんやけどな 何の説明したらええんや 三刀さん 」

「 この国は何をやろうてしてるんだ 」

「 続きや 先の大戦のな 」

「 そんなことして何の意味があるんだ 」

「 今の日本人は知らへんやろうがな あの戦争は仕方なかったんや この国が力を持たな亜細亜の大半は西側の植民地として飲み込まれたやろ やから必然やったんや この国が西側に対抗出来る力を持っちょったら戦争になんかならんやった 持っちょらんさかい戦争するしかなかったんや ハナっから負け戦さっち事くらいわかっちょった でもやらなあかんかったんや そんで始めたもんはやめられへんのや それは今でも同じなんや 決して一抜けたは許されへん 最後までやらなあかんのや 」

「 国が無くなってもか 」

「 そや 国が無くなるまでや 」

「 ならなぜあの時降伏した 」

「 時間が止まったからや 止めたんはおまえら鳥追やで 敵国に原子爆弾まで投下させてな 」

「 原爆投下はやはり鳥追が仕組んだのか 」

「 そや まあ神守りやからしょうがないんやけどな そんで時間が止まった でも 止まった時間はいずれ動き出す それが今や そやから必然的に続きが始まっただけや これはどないもできへん 」

「 なら勝手にやれ 私らは関係無いだろ 」

「 契約通り鳥殺しが消滅しちょったらな やから放置しとったやろ 関わってきたんは貴様らやで 」

「 仕方無いだろ あのままではツクは死んでた 」

「 当たり前や それが神守りやさかいな 」

「 私らには当たり前じゃ無いんだよ 」

「 それは貴様ら鳥追の問題やろ ウチには関係あらへん 」

「 この話は話しても埒が明かないな それで何をする気なんだ 」

「 鳥殺しの禍で招いた混沌の世界を底根の毒に沈める 100年前の計画通りや これは決まっちょった事や そうせな この国は ちゃうな人類は終いなんや 」

「 どう言うことだ 」

「 三刀さんならわかるやろ 時代の流れが性急すぎて人間側がついていけてへん こんままやと近い将来人類は一つの種に統一されなあかん流れや やけど現実を見てみい そんなのどう考えても不可能や そもそも人類なんぞ統一したらあかんのや 各民族で対立し世界は分断されてへんとな そうしてやっとバランスが保たれるんや 人類が統一されるんなんかまだまだ何千年も先にある小さな可能性なんや そやから間違って進み過ぎた時間を巻き戻す必要があるんや 」

「 考えとしてはわかる じゃあいったいどうやって巻き戻すんだ 」

「 やから底根の毒を使うんや 」

「 底根の毒とは何なんだ 」

「 この島の洞穴内部には単一元素の結晶体があるんや その結晶体は大気に触れると急速に気化してガス状になる 発生したガスは非常に重くこん星の地表面をぐるっと覆い尽くす 気体なんやけど感覚的にはドロドロの液体みたいなもんや 歩くのもしんどいで そんでもってガスには毒がある 遅考性の神経ガスや 神経毒とも言う 」

「 遅考性の神経毒 それを吸引したら人間はどうなる 」

「 まあ エゲツない言い方すれば バカになる 」

「 全人類をバカにする気か 」

「 言ったやろ 時間を巻き戻すっち 」

「 それだけじゃないんでしょ 何人死ぬの 」

「 おっ 流石月夜ちゃん 鋭いな もちろん耐性の弱い人間は死ぬ 」

「 耐性の弱い人間とは 」

「 純血種以外 」

「 そう言うことか 」

「 そや 三刀さん 始めからやり直すんや リセットするんや 失敗する前まで 」

「 黙って聞いてりゃ勝手な事ばかり抜かすな 」

 鎌丁が口を開いた。

「 余計なお世話だよ いいじゃねぇか失敗したって 俺ら人類は失敗しながら生きて来たんだよ そんでもって失敗を乗り越えて来たんだ これからもそうする 」

「 誰やあんた まあわかるよ きっと人類は乗り越えるんやろ しかしな 確実に日本民族は絶える そんくらいわかるやろ ウチはな こん国が始まる前からここにおった 日本人が国を造るんに力を貸してきた 日本はウチの国や 日本民族はウチの子供らや こん国を 国民を守るんがウチの使命なんや 決して日本民族は終わらせたりさせへん 」

「 よくわかった国神さん やはり貴方は国の神様なんだな 日本人としては敬意を払うよ だがな 私にはこの国よりもツクの方が大切なんだ 貴方の言う通り今のままではいずれ日本民族は居なくなるのだろう それは日本人としては悲しい事だが仕方ない事だ もはやこの国の国民は日本人であることに誇りなど持ってないんだよ あの戦争で降伏なんてするべきでは無かったんだよ 最後まで闘うべきだった 間違えたのは貴方だ 貴方が日本人を殺したんだ 」

「 黙れ人間 」

 国神が腰の太刀を抜き小夜を斬りつけた。

 と同時に私は瞬時に糸切り鋏を直線に伸ばしたような形状の双刃の武器でこれを払う。

「 ほう ほんまに鳥殺しなんか 」

「 国神司令 お下がりを この場で始末します 神殺しの許可を 」

「 待て右鈴原 この程度恐れるに足らん やっぱ力は使い果たしちょる 虫の息の鳥殺しなぞ怖ないわ まとめて監視房に入れとき 逆らったら殺してもええで 」

「 かしこまりました 武器はどうします 」

「 同化しちょるならもう引き剥がせんやろ ヘタに手ぇ出したら最後っ屁かまされるで 結界を張るけ大丈夫や 」

 結局、私は武器を収め従う事になった。




「 どう思う鎌チョ 」

「 どうもこうもないだろ 結晶体って何だよ まがち神を引き摺り出すんじゃないのかよ 」

 私達は施設の地下にある監視房なる一室に居た。監視房と言ってもホテルの一室と何ら変わりは無いように見えるが監視房と言うからには常時監視されているのだろう。入室の際に係りの者からトイレとシャワールームのプライバシーは守られているとの説明があった。牢屋にでも入れられると思ってたんで、なんだか少し調子が狂う、こういう法と人権を遵守する辺りは以前の日本と何ら変わり無く日本人らしいと言えばらしいのだが。

「 だからそれが結晶体なんだろう 鳥殺しも単一元素の金属体だったんだからな 岬七星の言葉を借りるなら単一元素で構築された自律型ユニットとなる しかも気化してガス状に変化する こりゃ手に負えんぞ 」

「 でもサヤさん 鳥図切のおじい様の話では鳥殺しを恐れて穴に逃げ込んだんでしょ なら私なら 」

「 だから国神はおまえが邪魔なんじゃないか このままでは殺される 」

「 ユキちゃん達は大丈夫でしょうか 」

「 東京の車田に連絡が取れればホーネットに協力してもらえる筈だ 心配いらんだろう 」

「 でも島に来ても 別に私はどうなっても……

「 ツク 国神のやり方は日本民族という種を残すために私達という個を切り捨てようとしている 生命の在り方としては正しい選択かもしれんが魂を持つ人間としては間違ってる バカになってまで生き残ろうとは誰も思わんよ これは私達それぞれの個を守る為の戦いでもある そしてツク おまえは私達の切り札だ 」

「 そうだぞツクちゃん 俺ら自身の未来を守る為にはツクちゃんの力が必要なんだ 変な風に考えるな 」




 中央監視塔の最上部の屋外に夕陽を眺める国神が居た。

「 どうされたのですか 」

「 リンか 脅かすなや 」

「 先程の女の言葉 気にしているのですか 」

「 かなわんなぁ そや あの女は間違えたのはウチで日本人を殺したんもウチや言うた あん時ウチにはリンがおった ユウリもおった レイもおった 鳥追いかて国の為なら味方してくれたかもや まがちなんぞ頼らずに最後まで戦うことも出来たはずや 」

「 しかしそうすれば日本は無くなってました 」

「 そんでも生き残った日本人達は誇りを失わずに済んだはずや 」

「 何を今更 そんな言葉許しません 私はこの手で鈴音を殺した 後戻りなど出来ないのです 」

「 悪かったリン そやな やり遂げなあかんのや 死んでいったもんらを無駄死ににさせる訳にはいかへんな 」

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