第45話 右


 鳥頭切の屋敷は帝国軍に包囲されていた。


「 どうするじいさん 」

 鎌チョが鳥頭切牙叉丸を仰ぐ。

「 ここは我々に と言いたいところですがここまで武装兵に囲まれると 軍を相手に闘う準備は流石に出来ておりませぬ 」

「 だよな まさかこんなに早く動いて来るとは 」

「 瀬戸内は依然火の海なんだろ どうしてこいつらは 」

「 三刀 それだけツクちゃんが重要になったて事だろう 」

「 やはりそうなのか 鎌チョ どうする 」

「 じいさん 脱出経路は 」

「 あります が あの男 この世の者ではありますまい とても逃げ切れるとは 」

 包囲された屋敷の門の前に1人の軍服姿の長身の男が立っていた。男の手には刀が握られている。

「 おそらく国神の傀儡かいらい

「 私がやるわ みんなは逃げなさい 」

 ユキが刀を抜き放つ。

「 ユキ君 無茶だ 」

 鳥頭切の者4人も鎌状の穂先を持つ鳥殺しの槍を構えユキに続く。

「 待ってください 話しを 私が話しをしてみます 」

「 ツク ダメだ 目的はおまえなんだぞ 」

「 だからですサヤさん 私は鳥追いの頭首なんですよ 少しは活躍させてくださいよ 」

「 しかし 」

「 私が付くわ 」

 ユキが横に立った。

「 砂叉丸 」

 牙叉丸の声に鳥頭切砂叉丸も横に立つ。

「 鳥頭切としてお供させていただきます 」

「 ありがとうユキちゃんスナマル君 ハッタリをかましてみるから付き合ってね 」


 ユキと砂叉丸を両脇に従えて門の前に立つ男の前へ進み出る。

「 何用です ここを鳥追いの地と知っての狼藉ですか 」

「 国神様の命により参った 貴女が鳥迫月夜か 」

「 今は鳥追いの月夜であり鳥殺しの月夜です 」

「 なら排除する 」

「 調子に乗るなよ人の亡霊 」

 右手のブレスレットから悍ましい形状の刃物が突出した。

 もうドキドキだ。本当にこんなハッタリが通用するんだろうか、刃物が思い通り出たはいいけど何だこの形は、メッチャ怖いんですけど、どうやって使うんだこれは、刺すのか斬るのかもわかんないじゃん。

「 国神に伝えろ用があるなら自分で来いとな右の鈴原 」

「 我が名を知るか鳥殺しよ 少し侮っていたようだな だがまだまだ甘い 貴様が未成熟な事くらいわかる しかし私の任務は鳥迫月夜殺し 神殺しの命は受けておらん この場で排除は諦めよう そのかわり国神様のもとへ同行してもらう 明朝迎えに参る 準備しておれ 」

「 貴様の指図など受けんわ と言いたいとこだが面白い よかろう 底根に出向いてやろう が この地から兵は引け さもなくばみな殺しにする 」

「 あいわかった では明朝 」

 右鈴原が一礼して兵を引き連れその場から去っていく。


 兵らの姿が見えなくなり私は緊張が解けへたり込んでしまった。

「 ツクさん大丈夫 」

「 ムリムリ 何なのよアイツ 超怖いんですけど 」

「 月夜様 ご立派でした 」

 砂叉丸が膝をつく。

「 やめてよねスナマル君 逆に恥ずかしいから 」

 2日前、屋敷に到着してからは砂叉丸と鳥頭切の使用人である千切ちぎり鳴切なるぎり羽折はおりが代わる代わる私達の世話をしてくれて、彼らとはある程度親しくなっていた。

「 ツク 大丈夫だったか 」

 小夜達も屋敷から出て来て駆け寄る。

「 何とかです サヤさん 」

「 右鈴原か ユウリ店長が名乗ってた名だな よくわかったな 」

「 はい 彼が探してた人物です 店長とユキちゃん以外で刀持ってるのなんて右鈴原くらいでしょ 」

「 そんなことないわよ 裏の世界では結構見かけるわよ 」

「 げっ マジですか 」

「 でもこの場合右鈴原で正解でしょ ナイスよツクさん 」

「 えへへ 」

「 でどうすんだ三刀 明日迎えに来るとか言ってたぞ 」

「 どうするもこうするも逃げるしかないだろ鎌チョ ツクが作ってくれた時間だ 1秒たりともムダには出来ん 」

「 サヤさん 私鼠仔猫に行こうと思います 」

「 何言ってんだツク 聞いたろ 本来ヤツはツクを殺しに来たんだぞ 」

「 私も月夜様に賛成です三刀さん 」

「 そりゃどういう意味だじいさん 」

「 鎌丁さん あの男は国神の命に従う者 故に月夜様が神化してると知り殺せなかった 神殺しは命令に無いと自ら言いました ただここで逃げればヤツに月夜様を殺す口実を与えてしまいます 」

「 残念だけど私も同感よ 対峙してわかったわ あの男は 右鈴原は恐ろしく冷徹な男よ 決して逃げ切れない 逃げればヤツの思う壺よ 」

「 ユキ君まで しかし鼠仔猫に行けばツクは殺されるんだぞ 」

「 鼠仔猫には店長たちがいます 」

「 そうよ小夜さん 少しはあのクズを信じてあげて あれでも意外に頼りになるのよ もちろん私も頼りになるわ 」

「 我ら鳥頭切もお供します 」

 砂叉丸ら4人もユキに続く。

「 しゃあないか 今までずっと後手だったんだ ここらで先手を取るのも悪くないだろ な 三刀 」

「 鎌チョ わかった 連行されるのではない あくまでこちらから乗り込む だな ツク いざとなったら構わん 日本を津波に沈めてしまえ 」

「 フフッ 我が鳥追いが100年前に受けた恥辱 今こそ晴らさずにおくべきか…………って ごめんなさい なんかまた私じゃない私が喋っちゃいました 」

「 いえ それでこそ我ら鳥追いの頭首鳥殺しの月夜様にございます 」

 牙叉丸の言葉にその場の全員が私の前にひれ伏した。

 なんだこれ、ちょっと待ってください。




「 国神様 本部より伝達です 太平洋艦隊が沖縄へと進路をとったとの事です 」

「 遂に動き出しおったか 四国が奪われたんが痛いな 鎖国が綻んだ セントラルはどないや 」

「 本日中には復旧の目処が立ちました 復旧次第作業を再開します 」

「 右鈴原から連絡は 」

「 明日 鳥追月夜を連行するそうです 」

「 鳥追 ちゃうやろ 鳥迫や 」

「 いえ 右鈴原様は鳥追と 」

「 ややこしいなぁ しかも何で連行なんや 殺して終いやあらへんのか 」

「 国神様 どうして月夜さんが 」

「 おお アキラ おったんか もう退がってええで 」

 国神が報告の者を退がらせて玖津和くつわアキラと鼠仔猫島参謀司令室で2人きりになる。

「 そういやあアキラちゃんは鳥迫月夜の知り合いやったなあ 」

「 知り合いというほどでは 」

「 あの女は鳥殺しの神守りの血を引いちょるんや ほんで鳥殺しの復活に関わっちょる 邪魔なんや 」

「 鳥殺しとは何なのですか 」

「 何や 子供ん頃 教えたやろ 覚えてへんのか おまえら玖津和一門は本来鳥殺しから毒鳥を護る為の神守りやぞ 」

「 初耳です そもそも国神様は底根の大穴から漏れ出る毒を封じればよいと 他の事は知る必要は無いと言われました 」

「 ……そやったかなぁ まあアキラちゃんが産まれた時には既に鳥殺しは封じちょったしなあ ごめんごめん 言わへんやった気がしてきたわ 鳥殺し ちゅうのはそりゃ恐ろしい禍神まががみや 人間なんかにどないも出来るもんやない もちろんウチにもや やから先の戦争に利用した 計略に嵌めたんや そんでヤツの禍を敵国に兵器として使用するはずやった それを邪魔したんが鳥殺しの神守り 鳥追いの一族や 敵国に情報を流し原子爆弾を投下させたんや 一族はみな殺しにしたち思うとったが生き残っとった その最期の1人が鳥迫月夜や 」

「 月夜さんが 」

「 そや やけど鳥殺しは契約で縛っちょったさかい問題なかった いずれ契約が果たされれば鳥殺しは消滅する そして契約は果たされた ヤツの禍は津波なんかちゃうで ヤツの禍はその後に引きを越される混沌や 混沌が世界を呑み込む そしてこの島の毒に混沌の世界を沈める 新しい世界の誕生や 」

「 その新しい世界とは美しいものなのですか 」

「 アキラちゃんロマンチストやな 混沌と毒で満たされた新世界やで まあ見ようによっては美しいんちゃうか 」

「 契約は果たされたのでしょ 」

「 そや それなのに鳥殺しが復活した きっと鳥追いの仕組んだことや ほんま邪魔な一族やで 何回ウチの邪魔する気や 鳥殺しがおったら毒鳥は出て来きらへん これじゃ先の大戦の二の舞や そやからまず邪魔な鳥追いを始末する 鳥殺しはあんだけのエネルギーを生み出したんや いくらなんでももうバッテリー切れのはずや 今ならウチでもどうにか出来るち思う 」

「 月夜さんをどうするのです 」

「 右鈴原がその場で殺さへんやったんはわけがあるんやろ まあ毒鳥の贄にするんがええんちゃうか ええ供物になんで 」

「 …… 」

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