第43話 瀬戸内海戦


「 数十隻の国籍不明の大型タンカーが九州側 関西側 両側より瀬戸内海へと進入してきます 」

 新帝国海軍旗艦の指令室で艦隊指揮官に通信士が報告する。

「 ホーネットか旧海自艦隊は 」

「 タンカー群後方に展開されています 」

「 タンカーを盾にするとは考えたな 陸側はどうなっとる 」

「 今のところ目立った動きは見受けられません 」

「 古代補佐官 どう思う 」

「 本州側の主要沿岸部は陸軍により守りを固めてあります 陸側からの援護は不可能かと思われます 」

「 何をする気だ 海上戦力だけで太刀打ち出来るわけが無いことぐらい承知しておるだろうに 」

「 どうされます沖田艦隊指令 」

「 あまり内海に入られるとまずい 西部艦隊と東部艦隊は戦闘準備 中央艦隊はこのまま待機しろ レーダーは相変わらず機能しないのか 」

「 はい 何らかの妨害にあってます 」

「 空軍がここまで役立たずだとはな 」

「 仕方ありません沖田指令 レーダーありきのハイテク軍備です そこが封じられればただの鉄屑 艦隊も6割の火力が使用不能なのですから 」

「 ホーネットめ 厄介な相手だな 」




「 あらがいの旗の下に集いし同志らよ さあ ホーネットの羽音を今響かせようではないか 敵艦隊を圧倒的に粉砕せよ 瀬戸内を火の海に染め上げろ 拠点を持たぬ西部地区戦線での闘いは今迄非常に厳しいものであった みなゲリラ戦に疲弊していることであろう しかしそれも今日で終わりだ 只今より瀬戸大橋の一点突破を試みる 死んでも敵に橋は落とさせるな 橋を落とすのは我々だ そして生きて四国をこの手にするのだ 総員戦闘開始 敵を蹴散らせ 」

 青狛総隊長の号令の下 タンクローリー車両群を従えたあらがいの団ホーネット西部地区全部隊が進軍を開始した。





「 西部 東部 両艦隊よりタンカーが炎上しながら突っ込んでくると連絡です 」

「 特攻か ふざけた真似を かまわん魚雷で沈めてしまえ 」

「 指令 陸で動きがありました ホーネットの部隊が猛スピードで大橋に進軍中とのことです 」

「 やはり動いたか この戦いでケリを着けるか いいだろう 中央艦隊は大橋に狙いを定めろ 確認次第叩き落とせ 橋が落ちても構わん 空挺部隊に出撃要請 戦闘ヘリとで上下で挟み込むぞ 」





「 撃てぇ 撃てぇ 撃てぇ 進路を開け 徹底的に撃ちまくれ 手数で敵を圧倒しろ 」

 装甲車の上に陣取った青狛が檄を飛ばす。

「 そろそろか 下層部隊を投入しろ 」




「 下部鉄道線からも敵部隊です 武装されたディーゼル車両と思われます 対処しきれません 」

「 隊長 艦隊指令部から連絡です 只今から中央艦隊により 架橋への攻撃を開始するとのことです 」

「 はっ ふざけるな 我が隊を巻き添えにする気か 撤退だ撤退 四国側へ退路を取れ 」




「 敵防衛ラインが崩れました 」

「 よし 各部隊ターゲットを下方海域艦隊へ移行 タンクローリーを投下しろ 上からも来るぞ 対空砲を準備しろ 」




「 架橋より複数の落下物あり 大型車両と思われます 」

「 何のつもりだ 爆弾か 当たらなければ意味が無いだろう 」

「 沖田指令 東西艦隊より報告です 敵の目的は海域封鎖です タンカーより大量の液体燃料が海域に放出されました 今現在海域全体の海面が燃えている状態です 」

「 古代補佐官 木の艦隊じゃあるまいし鉄の艦隊だぞそんな火力で何が出来る 構わん 橋を落とすぞ 全艦砲撃準備 自ら放った火に溺れるがよい 」

 落下するタンクローリー群が中空で時限式に弾け飛ぶ、と赤い化学物質からなる粉塵が霧散して粉塵雲となり燃え広がる海から立ち昇る熱せられた空気と冬の外気との間に層となり帯状に垂れ込め押し広がっていく。





「 ユウリ 生きてる 」

「 ああ 何とかな 近代兵器は威力と性能は良いけど命を賭けて闘ってる実感がイマイチなんだよな 死ぬ時は呆気なく死んじゃうし ありさとトーマは大丈夫か 」

「 ああ これくらいで死ねるかよ リサ 大丈夫か 」

「 ええ 問題無いわ それより空から来たわよ 」

 ヘリの音が聞こえた、と同時に突然、前方の道路のアスファルトが物凄い勢いで粉砕されながら迫ってくる。

「 クソッ クラスター爆弾だ 巻き込まれたら確実にミンチだぜ 逃げろ 」

「 トーマ 下だ ありさ掴まれ 下に逃げるぞ 皆んなも逃げろ 」

 悠吏は咄嗟にありさを強く抱え腰の降下用ワイヤーのフックを身近の手頃な突起物に引っ掛け勢い良く橋から飛び出した、ワイヤーの反動で二重構造になった橋の下部の鉄道線に激しく投げ込まれる、悠吏同様トーマと他数名の兵士もこれに続く、上部から爆風と残骸が降り注ぐ。

「 ユウリ 大丈夫 背中怪我してるわ 」

「 かすり傷だよ ありさは大丈夫か 」

「 うん 私は自分でなんとかするからあまり無茶しないでユウリ トーマは 」

「 心配ない しかし間一髪だな 何人やられた いや 何人生き残った 」

「 我が隊の生存は10人中3人であります 」

「 クソッ 対空隊は何してんだよ 」



「 落とせ落とせ 対空ミサイルを撃ちまくれ 橋の上空に近づけるな 」

「 艦隊砲撃来ます 粉塵雲による海域閉鎖率75% 」

「 ユウリ君たちに帯同した第3小隊と連絡は 」

「 先ほどの空爆で途絶えてます 」

「 限界だな 信号弾を撃て ユウリ君 生きててくれよ 例の壺を準備しろ 3発目の信号弾で投下 」




「 合図だ じゃあ行って来る ちゃんと後で拾ってくれよ 」

 悠吏が背中から龍の意匠が施された美しい堕ち星の太刀を抜き放った。

「 おう任せろ ちゃんと迎えに行ってやる 」

「 ユウリ 死なないでね 」

 ありさがそっと悠吏の手を握った。

「 うん わかった 」

 3発目の信号弾と同時に悠吏が橋から飛び降りた。

 降下する目印の黒い布をたなびかせた零の壺を確認してバランスを保ちながら太刀に意識を集中させる、( 零 力を貸してくれ )( ダメです ちゃんと命令してください隊長 )( もう めんどくさいヤツだなぁ わかったよ 零 戦闘開始だ )( 了解です隊長 )

 海面が眼下に迫るなか壺はいつしか降下する悠吏の目の前にあった。

「 うおりゃゃゃぁぁっ 」

 悠吏は渾身の一刀を壺に振り下ろす。


 瀬戸内海全域が爆炎に包まれた。





「 なんやこれ 零の炎か どないなっとるんや 」

「 国神様 化学物質の霧が発生しています まだ誘爆の可能性があります 危険ですのでシェルターの方へ避難されて下さい 」

 鼠仔猫島も炎に包まれていた。

「 瀬戸内連合編成艦隊は 」

「 中央艦隊は全滅 東西両艦隊も旧海自艦の追撃によりほぼ壊滅状態と聞きます 瀬戸内海全域は業火の海です 」

「 島の施設は どないや 」

「 現在全力で消火活動を行っております 被害状況はまだ不明であります 」

「 ホーネットは 」

「 四国へ進軍後全ての橋を落とされました 四国が掌握されるのも時間の問題かと思われます 」

「 つまりは民間反乱組織に我が帝国海軍が破れたっちゅうわけやな こらまた右鈴原にごっつ怒られるで どないしょ 」

「 右鈴原様からの指示はありました 四国は放棄して陸海の残存戦力は鼠仔猫に集中 四国側に防衛ラインを築き本州サイドと連帯部隊を編成 早急に守りを確固たるものとせよとのことです 」

「 流石リンちゃん おらへんでも頼りになるわ 」

「 国神様 早く避難して下さい 私も忙しいのです 」

「 へいへい わかりました 」




「 ありさ トーマ 無事だったか これよりユウリ君を救出 そのまま鼠仔猫に潜入する 準備はいいか 」

「 大丈夫よ ユウリの位置は 」

「 ばらばらになってなければ西側の無人島に漂着している様子だ そんな顔をするなありさ 冗談だろ ユウリ君があれしきの爆炎でばらばらになって死ぬわけないじゃないか もし死んでたら逆に笑ってしまうぞ あの人はそんくらいしぶとい ハイパーゴキブリ並だ 」

「 わかってるわよ 早く出発しましょアオ隊長 鼠仔猫の防衛ラインが築かれるわよ 」

「 だな 峯副隊長 後は頼んだ 君なら大丈夫だがもし判断に迷ったらアカに指示を仰げ 明日には本隊からの増援もある予定だ それまでは犠牲は極力抑える戦闘を心掛けろ 」

「 はい隊長 隊長もどうかご無事で 」

「 任せろ では出発するぞ 」

 青狛と彼女の直属の部下である町田と林、ありさとトーマの5名がゾディアックボートと呼ばれるゾディアック社製の軍用のゴムボートに乗り込む。




「 まずいなぁ やっぱ結構深いか 」

 岩礁に横たわった悠吏が背中から金属片を抜き取った、赤黒い血が燃え盛る海面に流れ落ちる。先程、架橋上でクラスター爆弾により受けた傷である。

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