第42話 開戦前夜


「 やっぱ鳥追いが出て来たか 厄介やな 意識不明やなかったんかい しかも何で鳥殺しが復活する 契約は果たされたはずやろ 」

「 意識不明の時にきっちり始末しておかないからこのようなことになるのですよ国神司令 貴方の甘い所です 」

 国神の隣の深緑の軍服姿の長身の男性が国神に意見する。

「 そない怖い顔せんでもええやろ 」

「 いえ 言わせてもらいます ホーネットにより渋谷は陥落したと聞きます 間宮国防長官も離反して軍の一部を引き連れホーネットと合流したとか あの男 もともと国神司令には否定的でした こうなる前に手を打っておくべきでした そして星宿ほとおりぼし様が100年も早くお目覚めになられた もはや関東は龍の巫女様の治める地です 」

「 心配いらへんやろ 零ちゃんはええ子や 最高司令であるうちの命令に逆らうわけないやろ ホーネットなんぞいざとなったら零の炎で関東ごと焼き払ったらええやんか 」

「 だとよろしいのですが あの左右の狛狐らも国神司令には反抗的です 何より今お目覚めになられた意味がわかりません ここは国神司令自ら今一度龍ノ宮に封じ直すべきではないのですか 」

「 そうしたいんはやまやまやが こっちの作業が遅れちょる 今ここを離れるわけにいかへんのや そんでもって鳥殺しの復活や 鳥殺しの排除が最優先やろ こんままやと穴から怖がって出てききらへん 」

「 ホーネットにより瀬戸内で核が使用されたらどうするのです 」

「 そらないわ ホーネットの岬七星はバカやない そんなことしたらこの国はお終いや あの女 出来るなら一度話してみたいんやがな アホな政治家どもよりよっぽど有能や 間宮も使えるっち思うたから残したんや なんでみんな敵になるんや うちの方にはカスしか残っとらんやんか 」

「 それは司令御自身に問題があるからなのでは 」

「 そないいわへんでもええやろ うちかて傷つくんやぞ 」

「 で 今後のタイムラインは 」

「 やっぱ鳥殺しやろな あれにおられたら100年前の苦労が水の泡や 」

「 ホーネットはいかがします ここ数日 不審な動きが西部で見られると報告がありました 瀬戸内で大規模な軍事行動が予想されます 」

「 やっぱここに気づいちょるか 逆に一掃するいい機会やんか 何の為の艦隊配備や 軍に任せといたらええやろ なんや 不満か 」

「 いくら戦力差があろうとも あのような者らが戦えるのでしょうか 彼らは私の知る日本人ではありません 敵ホーネットの方がよほど気概を感じます 」

「 厳しいな しゃあないやろ ヤツらは敗戦国の国民として生まれ育ったんや おまえらとは違うんや そしてこれは敗戦国をやめる為の戦いやろ 」

「 それはホーネット側も同じなのでは 」

「 やな なんでうまいかへんのや 」

「 ホーネットと話し合い仕切り直すわけにはいかないのですか 」

「 ムリや 時間があらへん そんな悠長にやっとったら外側から潰される 動き出した時間は止まらへんのや 進めるしかあらへん あと少しなんや 」

「 わかりました 」

「 頼りにしとるで右鈴原 」

「 やめてください 私は亡霊なのですから 」





「 ユウリ ちょっといい 」

「 なんだよありさ このタイミングで告られても困るぞ 」

「 バカ言ってないで着いて来なさい 」

 ホーネットのベースキャンプで石黒ありさが悠吏を人気のない場所に連れて行った、そこにはトーマがいた。

「 リサ なんの用だよ しかもユウリまで 明日の準備で忙しいんだぜ 」

「 ブラックボックスの解析結果が出たわ 約束だからユウリにも教える 」

「 このタイミングでかよ まあいいや で 何がわかった リサの顔見りゃいい結果じゃないのはわかるがな 」

「 そうよトーマ 移送艦隊は津波発生時刻に進路の変更をしてる 」

「 進路の変更ってサンディエゴからか 」

「 そうよ ユウリあんた詳しいわね 何で知ってんのよ 」

「 僕も向こうでただ追っかけっこしてただけじゃないさ 少しは調べたんだぜ 」

「 本来は情報元を特定したいとこだけどまあいいわ で 変更した先はアラビア海よ 」

「 ちょっと待てリサ なんでアラビア海に変更すんだよ 意味がわかんねぇぞ 」

「 中東か 」

「 はァァ 」

「 そうよ 箱の中を解析してその威力を知った軍部はそれをそのまま兵器として転用しようとした 津波は中東諸国を呑み込むはずだったのよ 」

「 そして怒りに触れたのか 」

「 なんだよそれは 」

「 あれは自然災害なんかじゃない 私達自身で引き起こした人災よ 私達は自国の国民を何百万人も殺したの 」

「 そんな 」

「 トーマ 凹んでる場合じゃないわよ 私達も関わってるんだから この件は信用出来る人物に任せてあるわ 極秘裏に調査委員会が設立されるでしょう もちろん私達も審問会に召集されるはずよ この件に関与した人間は地獄の底まで追い詰めてやる 決して許さないわ 」

「 わかったリサ 何でもするからこれからもこき使ってくれ 」

「 僕も役に立つことがあるならいつでも手を貸すから言ってくれよ 」

「 何よユウリ 気持ち悪いわねぇ 」

「 何だよ 僕はただありさの力になりたいって思っただけだろう 」

「 ちょッ やめなさいよ 痒くなるじゃない バカ 話しはそれだけよ とっとと戻って隊長とじゃれあってなさい 」

「 アオは9時過ぎたらおねむだからもう寝てるよ 」

「 小学生かよ それよりユウリ おまえと刀女の使うあれは本当に超能力と違うのか なら俺でも身に付けること出来んのか 」

「 どうしたトーマ突然 」

「 だってこれでも戦闘にゃそれなりに自信があったんだぜ それがおまえらと絡んでからいいとこ無しだ 自信喪失してんだよ あんな小っこいアオ隊長にまでぶちのめされたんだ 」

「 ユキのはまあ突発的に発症した超能力だろうな ただ僕のは違うよ トーマやありさもこれまで死線はそれなりに潜って来ただろ 死を意識した瞬間 時間が長く感じたことは無いかい 」

「 交通事故の一瞬に時間が引き伸ばされるようなあの感覚ね あるわよ 」

「 ああ それなら俺もあるぜ 」

「 ようはあれだよ 本来時間なんてものは僕たち人間の都合のいいように感じてるだけなんだ 1日 或いは一生をちょうどいい長さに感じてるだけなんだ 例えば千年近く生きる樹木が僕らと同じ長さの時間を感じてたら退屈すぎるだろ 逆に数日しか生きられない虫ケラが僕らと同じなら忙しすぎる 彼らには彼らのちょうどいい時間の感じ方があるんだよ そして死の危険を察知した場合 それを回避する為に時間を通常より長く感じる能力も備わっている 僕は数多の死線を潜る中それを自然にある程度コントロール出来るようになった それだけだよ 」

「 どのくらい緩慢に見えるの 」

「 銃弾がかろうじて目視出来るくらいかなぁ 」

「 まじかよ でも俺も死にそうになった時銃弾が見えたことあったなぁ 」

「 それだよ その時の感覚を身につけてしまえばそんなに難しいことじゃないはずだよ 」

「 じゃあトーマはもっと沢山死にそうになればいいのね 」

「 その前に普通に死んじまうよ 」

「 ドラックもあったろう 」

「 あるわね 時間が緩慢に感じるヤツ ただ副作用が大きくて使えた物じゃないわよ 1か月くらいで死ぬんじゃないかしら 」

「 だが脳の何処に作用してるのか解明できればいけるかもだぞ 」

「 研究する価値はあるかもね 身体能力を強化するより使い道が多そうだし 今度機関に報告しとくわ 」

「 まあトーマは感覚を常に意識して見ると糸口が掴めるかもだよ 」

「 わかった やってみんよ あんがとな 」

「 ユキはどうなの 」

「 あれは時間をほぼ停止させるからな 一種の脳の機能障害だろ 僕も共感したことあるがあれは何の使い道もないよ 殆ど止まってしまうんだからね 移動は出来るから実は瞬間移動に近い超能力なのかもな ただ地球の裏側に瞬間移動しようと思ったら本人は何年もの体感時間をかけて歩いて移動しないといけないんだけどね 」

「 側から見れば瞬間移動でも本人は止まった時間の中をえっちらおっちら歩いて移動してるってことね なんかダサいわね 」

「 ユキの前で絶対そんなこと言うなよ あいつ超怖いんだから 」

「 ところでユウリ アオ隊長も超能力者だよな 俺をぶっ飛ばした回し蹴り あれそうだよな 」

「 アオは超能力者と言ってしまうにはどうかな まあバランスタイプなんだが 」

「 なによ バランスタイプって 」

「 だから これといって特別な能力は無いんだがすべてが少しずつ備わってるんだ まあハイブリッドサイキッカーってとこかな 」

「 なによそれ 便利なのかよくわかんないわね 」

「 違うぞありさ 突出した能力があれば必ずそれに伴う欠点も生じる アオにはそれが無い ある意味最強だと僕は思ってる 超能力者と言うより新人類と呼んだ方がいいかもな 」

「 常人より優れた新人類って思えってことか 」

「 そうだトーマ あの蹴りだって本人は意識せずに複数の能力が自然に使われているはずだ 精神干渉 瞬間移動 念動力 肉体強化 その他様々な能力が少しずつ組み合わさり繰り出された蹴りだ 躱せやしないさ 」

「 げっ そりゃ確かに最強だな 」

「 興味深いわね ある意味超能力者の いえ 人類の到達点ってことね 」


 その日の深夜。

「 うわぁ 」

「 ちょっと 静かにしなさいよ バレちゃうでしょ 」

 ありさがユウリの寝袋に潜り込んできた。

「 なにしてんだよありさ 」

「 いいでしょ 明日死んじゃうかもしんないのよ 相手してくれたっていいじゃない 」

「 いやいや トーマんとこいけよ 」

「 だめよ あいつとそんなになったらあいつは明日真っ先に戦死しちゃうわよ ヤツの対女性メンタルを舐めないで ほとんどゲル状よ その点 あんたは大丈夫でしょ 」

「 だからって僕は 」

「 何 ユキやツクヨが怖いの それとも日本人お得意の自身の倫理観ってやつ 」

「 そんなじゃないよ もう しょうがないなぁ 絶対内緒だかんな 」

「 その代わりちゃんといっぱい愛してね 」

「 来いよありさ って なんか僕たち死亡フラグ立ってない 」

「 違うわよ 開戦前の戦場の雰囲気に呑まれて勢いでやっちゃって後々お互い気まずくなっちゃうフラグでしょ 」

「 わかってんのかよ 」

「 わかっててもムリなの 察してよね 」

「 うん わかった 」

「 本当は怖いのユウリ 」

「 大丈夫だ 僕とトーマでありさは守る 」

「 うん 」

 瀬戸内海戦開戦前夜の熱を帯びた夜は深々と更けていく。

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