第41話 星追いの一族


 ここは移動中の車内だろうか、私は……そうだ、祠に行って、そして変になったんだ。

「 ツク 気がついたか 大丈夫か 何ともないか 私が分かるか 」

 小夜がまくし立てる。

「 サヤさん 大丈夫です 全部覚えてます ゴメンなさい 抑え切れる事が出来なかったみたいです 」

「 ツクちゃん悪かった 万が一ツクちゃんが憑かれたような状態になったらとユウリに麻酔薬を渡されていたんだ 即効性はあるが直ぐ切れるやつだ 」

「 鎌チョ ありがとう あのままだったら私戻れなくなってたかもです コントロール出来てるつもりだったんだけど ダメですね で どれくらい眠ってたんですか 」

「 あれから2時間程だよ 鳥頭切の連中と山を降りた あいつら最短ルート知ってるからな 帰りは楽だったよ 今はヤツらの車で鳥頭切の屋敷に向かってる道中だ そろそろ着くんじゃねぇか ツクちゃん 体はなんともないか 」

「 はい鎌チョ 体も精神も問題ありません サヤさんユキちゃんごめんなさい また心配かけちゃって 」

「 何言ってるのツクさん 私こそ何も出来なくて面目ないわ それにあの時のツクさん凄かったわよ 」

「 結果的にあれで鳥頭切は完全にツクを認めたからな もはやヤツらはおまえの従者だ 死ねと言ったら悦んで死ぬだろう 」

「 やめてくださいよサヤさん 」





「 改めまして 私が当主の鳥頭切牙叉丸にございます 」

 ここは祠のある山の麓の小さな町である。元は集落であったのだろう、世帯数は100〜200と言ったとこだろうか、小さなアパートなども見受けられる。農業や林業中心の町に思えるのだがアパート暮らしの人はどこから来てどのような職業に就いているのか気になるところだ。何か産業的なものや近くに工場などがあったりするのだろうか。

 鳥頭切の屋敷は町の1番山側の少し離れた場所にあった。

「 月夜様 御身体の方はもうよろしいのですか 」

「 はい 見苦しいところを見せてしまい恥ずかしい限りです あと様はやめてください 」

「 いえ 当主として下の者らに示しがつきませぬ この星宮ノ里ほしみのさとでは月夜様と呼ばせていただきます 」

「 今は星宮町ほしみやまちですが本来は星宮ノ里なのですか 」

 小夜が牙叉丸に聞く。

「 はい かつては里の者すべてが鳥殺し様の御山を守る星追いの者だと聞かされてます 」

「 先ほどから気になってたんですが星追いとは何なのです 鳥追いと関係あるのですか 」

「 御山で鳥追いはもはや月夜様のみと仰られていたがまずそこからお話し願いたい そちらの事情が分からずには何をお話ししていいのやら 」

「 これは失礼しました それではここに来た経緯を説明しますね 少し長くなりますが 」

「 はい お願いいたします その前に茶と菓子を用意しますのでどうかおくつろぎください 」

 牙叉丸が手を打つと先ほど祠で見た4人がお茶とお菓子を運んで来た。

「 これは孫で次期当主の砂叉丸にございます 先ほどは失礼を致し申し訳ございません で この者らは当家に代々仕える者らにございます 信用出来る者らですのでどうか手足としてお使いください 事情を知らせておきたいので同席させてもよろしいでしょうか 」

 4人は恭しく頭を下げた。

「 はい 味方は多い方がありがたいです だからどうか頭は上げてください 」

 なんかやりにくい、考えてみたら鳥迫の屋敷に住んでた頃は毎日こんな感じだったのだ。屋敷を出てからのだらしない日常に慣れ過ぎて忘れていたが堅ッ苦しくって気疲れしてしまう。小夜は意外にこういうのは卒なくこなせてしまうが、ここは鎌チョとユキに期待するとしよう、彼らならもう少し話しやすい雰囲気にもっていってくれそうだ。


 和室の応接間で足を崩しお茶で一呼吸入れた後に簡易的な自己紹介を済ませてから小夜がこれまでの経緯を手慣れた感じに順を追って説明していった。このパターンはこれで何回目だろうか、最初は私が小夜と海乃に、そして警察に、次が小夜が店長やありさ達に、そして岬七星に、と、出来ることならこれが最後にしてもらいたいものだ。聞く方は初めてで奇妙な話でも、話す方はまたかよ的なうんざりな話なのだ、自慢話的な部分でもあればよいのだが話してても楽しくない、しかも話が付け加わって長くなっていってるではないか、もし次に話すことがあたなら祠の前で私が醜態を晒したパートも加えなければならない、もう嫌になってしまう。


「 それでまず聞きたいのは貴方は真月を知ってる様子だがいつ会われたのですか そもそも鳥迫の家と親交は続いていたのですか 」

「 我々鳥頭切の者は戦時中の例の一件で鳥追と共に祠をお守りしました その時に鳥追は皆殺しにあったと聞いておりました 生き残ったのは私の母とそこの三名の者の家系の者だけです 戦後どうにか鳥頭切の家を母が復興して主人を喪った鳥殺しの祠を守り続けてきたのです 今から40数年前でしょうか 鳥追月㮈とりおいつくな様が生まれたばかりの真月まづき様をお連れになり当家にお越しになられたのです 我々は絶えていたと聞かされていたので大層驚かされたものです その時は私の母もまだ存命でしたので幼少の時の月㮈様を存じており よくぞ御無事でと涙しておりました 月㮈様のお話では鳥殺し様は未だ卑劣な契約に縛られその契約が果たされれば死ぬだろうと仰いました そして最後の希望は真月様だと だから今しばらくこの地を守り続けて欲しいと勿体なくも我々に頭を下げられました その時に祠に真月様を連れていかれ一度きりの鳥追い祀りを復活されたそうです 」

「 鳥追い祀りとはどのようなものなのです 」

「 わかりませぬ 当時の当主は母でした 若輩の私は蚊帳の外でした 母は最期の鳥追い祀り故知る必要は無いと教えてはくれませんでした 」

「 そうですか でも やはり月㮈さんは葛籠の中のもの つまり鳥殺しと何らかの契約を結んだと見るのが妥当だな その為の鳥追い祀りなのか そしてそれには誕生した真月が大きく関わっていた 」

「 はい しかし私もどのような契約かまではわかりません そして月日は流れ20年ほど前 月夜様を抱かれた真月様が再びこの地を訪れました そして我々に頭を下げ 鳥殺しに失敗した許して欲しい もはや縛るものはないのでこの地を離れなさい と仰いました そして近々自分は死ぬかもしれぬと 」

「 真月が その時真月は祠へは 」

「 はい 私が案内しました 」

「 その時 月夜に何か儀式めいた事は 」

「 わかりませぬ 1人にして欲しいと言われましたので夕刻に向かえに行きました 泣かれておられた様子で私は何も聞く事ができませんでした 」

「 真月 おまえは一体何なんだ なぜ私に一言も打ち明けなかった クソッ 」

 小夜が目を赤くし血が滲むほどに唇を噛みしめる。小夜は母真月とは親友だったらしい。その掛け替えのない友の力に何一つなれなかった悔しさに小夜の張り裂けそうな怒りを感じる。

「 三刀さん 実は真月様に頼まれたことがあります もし友が訪ねてきたら伝えて欲しいと それは貴方なのですね 」

「 真月が 」

「 はい ただ一言 ごめんね と 」

 小夜の目から涙が溢れた。

「 じゃああんたらは月㮈と真月が何をしようとしていたのかまでは知らねぇんだな 」

 鎌チョが小夜を気遣い話を引き継いだ。

「 はい お恥ずかしながら 母は知っていた様子でしたが教えてはくれませんでした 」

「 なんで真月の言い付け通りこの地を離れなかった 晴れて自由の身になれたんだ 」

「 真月様は自らの命を賭けました なんで我々が尻尾を巻いて逃げ出せましょう 」

「 そんなもんかねぇ それで鳥追との接点はそれだけなのか 」

「 はい 月㮈様に鳥追には決して近づくなと言われておりました 」

「 で 月㮈の旦那の酉狩とは何者だ 」

「 鳥の字が違います おそらく昔追放された逆族の血に思われます 先ほどの話から推測するに国神にその血を利用されたのでしょう でなければ許し無く祠に到るのは至難にございます 」

「 そういう事か 鳥殺しの祠に行って契約を交わすには鳥追いの血筋が必要だった それで昔に放逐された酉狩の血を利用したのか 」

「 おそらく しかしやはり星追いの血脈 月㮈様に引き寄せられたのかと 」

「 その星追いってのは何なんだ 」

「 我らのような神守りの一族の総称にございます 我らは鳥殺し様の神守り故そのまま鳥追いの一族ですが別に追いと言う名で統一されている訳ではございません 」

「 何で星追いなんだ 」

「 その昔 神様は星より堕ちて来たとされているからと聞きます 」

「 神様宇宙人説かよ 百目のネタになりそだな 」

「 違うぞ鎌チョ 岬七星の話を思い出せ この星の生命自体が外側から送り込まれた高度な惑星探査ユニットであの金属は我々とは違う定義を持った別ユニットだと言っていた もしかしたら我々を管理する管理システムユニットかもしれんぞ それが神の正体なら色々と辻褄が合わないか 」

 小夜が気持ちを切り替えられたらしく復活する。

「 小夜さんの中で合ってるだけで私の中では全然合ってないわよ いい加減にしなさい 」

 ユキが思わず小夜に突っ込む。

「 そうか いけると思うんだがな 今度岬七星に話してみるか それで鳥頭切さん 国神とは何者なのかご存知なのですか 」

「 そのままですよ この国の神様 建国の主ですよ 」

「 名前から嫌な予感はしてたがやっぱりそう来たか どうする三刀 国の神様が出て来たぞ 」

「 流石にまずいな 太刀打ち出来んぞ ユウリ店長達は大丈夫か 」

「 お二方 何か思い違いをしてませんか 国の神など所詮人なる俗物の神 しかもこのような小国の神 鳥殺し様の足下にも及びませぬわ 」

「 そうなのかじいさん 」

 おいおい鎌チョ、無礼打ちになるぞ、じいさんはダメだろう。

「 はい ただ他の神と違い非常に人間らしい そこが厄介です 知恵が回るのです 作略を練るのです 裏をかくのです 故に鳥殺し様はあのような者に利用されてしまわれた 神と見るより万物に精通した非常に知略の長けた人物と見るが誤りがないかと 」

「 なるほど 言われればそちらの方が厄介ですね 」

 神様よりも人間の方が厄介である。なんとなくわかる気がする。私達は一体どういう生き物なのだろうか。

「 ただ これも非常に人間らしく本人はヤル気がまったく無いとも聞いていたのですが まさか底根に居るとは 」

「 鼠仔猫島には何があるのです 」

「 毒鳥がいます 狂鳥まがち神が 」

 なんかとんでも無い新ワードが飛び出して来た。もうついていけないんですけど。

「 なんじゃそりゃ 」

「 まあ今風に言えばバグをおこした神です 狂っているのです そもそも鳥殺し様の名の由来は毒を撒き散らし猛威を振るい手のつけられ無いまがち神を底根の穴に追い込んだこととされてます」

「 国神は何をする気だ 」

「 おそらく 鳥殺し様の契約が果たされ鳥殺し様の居なくなった世界に再び毒鳥を放つのでしょう しかしヤツの思惑通りにはいきませぬ なぜなら月㮈様と真月様が紡がれた月夜様がここにおられます 鳥殺しの月夜様が 当然国神も気づくはずです 我が鳥頭切一族 今度こそは命に賭けて月夜様をお守りいたします それが我が一族の宿命 星の導きにござります 」

 鳥頭切の者らがひれ伏した。

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