第40話 鳥殺しの祠
30分ほど掛けて鳥居の連なる斜面を登り、ようやく私達は祠へと辿り着いた。
石造りの小さな祠は2本の曲がり畝り のたうつような巨木の間に埋もれるようにひっそりと佇んでいた。
祠のある場所は比較的平坦になっており地面というよりは殆ど黒い岩盤である。そして黒々とした岩肌にはこれは赤茶色では無く真っ赤な鮮血がぶち撒けられ汚され穢された決して直視してはいけない罪悪感を抱かせる呪われた場所であった。
「 マザーシップの残骸と共に葛籠のあった津波到達の最深部 災厄の地はこの場所を再現していたのね ツクさんツクヨブレードを装置しておいて正解だったわ じゃなきゃまた動き出してたかも 制御出来そう 無理なら撤退しましょ 」
「 ユキちゃん 大丈夫よ コントロール出来る 」
「 ツク 無理はするなよ しかしこれが鳥殺しの祠か まったく名前負けしてない強烈な光景だな これはどう見てもまともな神様じゃ無いぞ 生贄を捧げていたのも納得だ 」
小夜の言葉通り ここは穢れ狂っている場所である。そして岬七星の言葉通りなら、私はこの場所の今の主人なのである。穢れ狂った私、トリサコツクヨ いやトリオイ 違う 鳥殺しの月夜になんと相応しい場所なのであろうか 口の端が吊り上がる 嗤いを堪えるのに必死だ さあどうしよう どうしてくれよう
「ツクちゃん 本当に大丈夫か 顔色が悪くないか 」
「 えッ あっ 大丈夫です鎌チョ それよりどうします 燃やしてしまいますか 」
「 石だからな 燃えねぇだろう ホーネットから調達したプラスチック爆弾はあるが壊しちまっていいのかこれ MAX祟られそうだぞ 」
「 そうだな鎌チョ それはまずいぞ 鳥追の契約さえ無ければ御神体である金属を祠に返して知らん顔も出来るんだが オカルト脳の我々では限界だ 岬七星かユウリ店長のアドバイスが欲しい所なんだが そうそう甘えてもられんしな 彼等にはやらねばならぬ事があるんだからな 」
「 そもそもユウリは何でこういうことに詳しいんだ 呪われてんのは分かるがやつは裏社会の人間だぞ 」
「 店長がクニガミに殺された時に彼を助けたのが旧いケモノらしいわ その時に自ら呪いを受け入れたんですって しばらくはそのケモノに仕えて神殺しとか妖怪退治的な事をしてたらしいの たぶんヤツはその時に得た浅い知識をそれっぽく話してるだけよ 」
「 そういう事だったのか ユキ君 なんとなくユウリ店長という謎の男が見えてきたな 」
「 小夜さん 店長から謎要素を取り除いたら何も残らないわよ オブラートに包んで隠しといてあげた方がいい現実もあるのよ お手柔らかに頼むわね 」
「 みんな 何か下から来ます 」
この場所の異常な緊張感からみんなの会話で少し解れたところで、私はそれを台無しにする声を上げた。
「 ツクさん任せて 鎌チョオジサン 援護お願いします」
「 ああ 」
ユキがケースから刀を取り出し抜刀する。鎌チョは懐から連射式の大型拳銃を取り出し構える。
私達は別に祠を守るつもりは無いのだけれど、祠を背に守るような陣形になった。私の両手のブレスレット状の物からは長い刃物が突出した。
「 鳥殺し様の祠に踏み入る不埒者とは貴様らか 全員この場でそっ首削ぎ落としてくれる 」
鳥居を潜り白い修験者風の出で立ちの鎌の様な槍の様な物を手にした若い男が現れた。
「 待ってくれ 祠の関係者なのか なら話しを聞いてくれ 」
「 無用 」
小夜の言葉を無用と切り捨て男が槍を構えて突進して来た。
カキン。片手をつき低く構えたユキが刀で斜め上に槍を薙ぎ払う。タタタン。鎌チョが3連射の銃を男目掛けて発砲する。男は思わず岩陰に身を隠した。
「 きッ 汚ねぇぞ 何銃なんか使ってんだ 」
「 そんな物騒な武器で襲いかかっといて何言ってんだ 今のは威嚇だ出て来い 次は外さねぇかんな 」
「 貴様ら軍のヤツらか 」
「 やめんか
「 オジイ様 しかし此奴ら 」
鳥居を潜り後続の一団が現れた、先頭には長い白髪を後ろに綺麗に撫で付けた初老の和装の男性が立ちその背後に3人の黒スーツの男女が見える。
初老の男性の落ち着いた声を聞き私達に緊張が走る。
「 愚息が失礼した 何用で此処へ参った 返答次第では……そのお顔 もしや鳥追いの
言葉に詰まった男性に私は問い掛けた。
「 真月は私の母です 母を知っているのですか 」
「 ……では貴女は鳥追いの娘 月夜様なのですか 」
「 貴方は誰なのですか 」
小夜が続く。
「 これは失礼しました 私は
「 三刀 運が向いて来たな 首チョンパが出向いて来てくれやがった で どうしてここに来た 」
「 タクシー運転手の佐田が報せてくれましてな 御山の鳥居へ向かう者があると 辺鄙な場所での地域コミュニティを侮ってはなりませんぞ 」
「 あの野郎か まあこっちは好都合だ 俺らは全員鳥迫 いやトリオイの関係者だ 貴様らはトリオイの敵か 」
「 何をおっしゃる 我等鳥頭切一族は鳥殺し様に仕え鳥追いに従う者にございます 鳥追いの命によりこの地を守る一族にございます しかし90余年前にそれは果たされませんでした 戦乱に乗じて鳥殺し様を持ち出されてしまいました その当時の当主であった私の祖父は力及ばず殺されてしまいました その時から我等鳥の名を持つ星追いの一族は命題を喪ったのです 」
「 星追いの一族 鳥頭切さん 月夜はトリオイのただ1人の生き残りです 今 我々は情報を得る手段を持ちません 私達の力になってもらえないでしょうか 」
「 ほう それで祠までお越しになられたのですか もちろんです 再び鳥追いに従える時が訪れようとは それは我等鳥頭切の悲願でもあります こちらから是非にお願いしたい これ砂叉丸 この方々を屋敷に案内せい 」
「 その前に やらねばならぬ 下がっておれ 」
私じゃない私が声を出した。
私の両手のブレスレット状の物からは長い刃物が異様に複雑な幾何学的形状に変化する。
私はそれを交差させ祠の前の岩盤に突き刺した。そして外側に勢いよく切り裂く。
ドクリと大地が脈打ち
「 なんと 鳥殺しの地が甦ったのか これが鳥追いの娘 月夜様のお力なのか 」
「 違うぞ星追い 私は鳥殺しの月夜だ 」
「 ツク……
「 どうしよう店長 ツクさんが覚醒しちゃったわ 」
小夜とユキが動揺している。
「 心配しないで サヤさん ユキちゃん ちゃんとコントロール出来てる 少し混乱してるだけ 私は私よ ほんのちょっとだけ混乱してるだけ なんだかいい気分よ あはッ あははははッ……
「 すまんツクちゃん ユウリの言い付けだ 少し眠ってろ 」
鎌丁が私の首すじに注射器を突き立てていた。
「 アキラちゃん 見てみぃ 北の空が鳥たちで黒くなっちょる 」
「 何ですか あれは 」
「 鳥殺しの復活や 」
鼠仔猫島の中央監視塔屋外最上部でクニガミが
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます