第36話 旧渋谷特区戦


「 敵 現在新宿方面より明治通りを南下中です 」

 渋谷特区前に設営されたテントで軍服姿の男性が上官で指揮官らしき男に報告する。と、スーツの上におろしたての新品の作業服を着た50代くらいの男性が横から口を挟んできた。

「 壁には一歩も近づかせるな 神宮前に各隊を進軍させろ 馬鹿め のこのこと新宿の巣から出てきおって まさに飛んで火に入る冬の蜂だ 一気に叩き潰してしまえ って どうした 暗くなったぞ 」

「 電力を落とされました 」

「 なっ 何をやっておるのだ 」

「 長官 あまり興奮なさらずに車両の方にお戻り下さい 送電がストップするのは想定内です 後は我々にお任せ下さい 」

 指揮官の男が長官と呼んだ作業服姿の男を諌めようとする。都市迷彩の戦闘服の兵士達が( 電力を確保しろ )( 非常灯を点灯しろ )などと声を上げながら慌ただしく走り回っている。

「 任せてられんからわざわざ霞ヶ関から出て来たのだろう たかが新宿に巣を張ったスズメバチ駆除に何か月掛かっておるのだ 貴様らもあの国神とかいう奴に踊らされていることぐらいわかっているのだぞ 」

「 とにかく危険ですので車両の方に おい 長官を早くお連れしろ 」

 なんとか息巻く長官なる人物を周りの軍人ではないスーツ組の男達がなだめながら特殊装甲車両に案内して押し入れた。

「 敵 前線とまもなく接触します 」

 通信モニターの前に座った男が報告する。

「 これまで散々狙い撃たれた借りを返すぞ 射程に入り次第狙い撃て 」

「 旧山手線より急速に接近する敵部隊を確認 改造ディーゼル車両と思われます 車両上に岬七星の姿を確認しました このままでは前線部隊の裏に回り込まれます 」

 もう1人の通信モニターの前の男が大声で口早に指揮官に告げる。

「 はぁ 山手線だと 岬七星だと 止めろ 止めろ 車両を いや線路を撃てば止まるはずだろ 」

「 無理ですよ 射手らの精神はすでに乗っ取らせてもらいました 戸惑いのある人間の精神は容易い 」

「 きっ 貴様 なっ 何を言っているのだ水原補佐官 いや お前は誰なんだ 」

 指揮官の隣りに立っていた軍服姿の水原補佐官なる男が落ち着いた声を発した、その声は指揮官の知る彼の声とは明らかに別人のモノであった。

「 おや 知らないわけ無いでしょう あなた達のパイロットの精神を乗っ取り5機の戦闘機を撃墜して制空権を奪った あなた方がレッドと呼んでいる者ですよ あまり好きな呼び名ではありませんがアカニャンと呼ばれるよりは100倍マシですね さあ 始めましょうか 」





「 始まったわね 最終確認よ 5分後に竹下口搬入ゲートを突破 壁内に浸入 最短ルートで龍の社に到達 私とトーマとオジサンで敵を足止め その間にユウリとイケメン風が刀と壺を手に入れる 所要時間は30分 本当に大丈夫なの 素人の雑誌記者が2人も混ざってるじゃない 」

「 仕方ないだろ 人手が足りないんだから ホーネットの知らない顔を混ぜるよりマシだよ でも鎌チョはあれだけど海乃君はムリしなくてもいいんだよ 」

「 大丈夫ですよユウリさん これでも日頃班長にシゴかれてるっスからちゃんと動けると思います 龍の社に行くのに除け者はヤメてくださいよ ゼロ様の為なら火の中水の中っスよ 」

「 俺はあれって何だよユウリ 」

「 時間ね 行くわよ トーマやりなさい 」

「 シャァ 久々の戦場だぜ 死ぬなよ野郎ども 」

 急発進した装甲車の上部ハッチから乗り出しトーマがロケットランチャーをゲートに向けて発射する。

「 突っ込みますよ 衝撃に備えてください 」

 運転はルートは頭に入っていると言う海乃が行う。

 煙を上げ大破した金属製のゲートに装甲車は猛スピードで突っ込んだ。





「 つまんないわ ツクさん 何で私たちはお留守番なの 」

 セブンスマートの3階でユキがポテチの袋を手に呟いた。

「 私は足手まといにしかならないもの ユキちゃんは戦場になんか連れて行きたくないのよ 大切にされてるってことでしょ 」

「 大切になんかされたくないわ もっと乱暴に壊れるまで使用されたいのよ 鎌チョオジサンとパーマ君まで連れてった癖に 」

 悠吏とありさとトーマ、そして鎌丁と海乃の5人は渋谷特区へと向かった。ホーネットと共に渋谷特区を征圧する作戦を決行するのだ。

 突然スマホがけたたましい音を出した、画面には( 戦時警報 現在旧渋谷方面で政府軍と反政府組織が大規模な戦闘を開始しました 戒厳令下において東京都A指定地区の外出を一切禁じます 速やかに屋内に退避して下さい )と赤文字で記されてある。

「 始まったみたいね 」

「 トーマもありさも店長も闘ってる アカ猫さんも ロボも ズルいわ 」

「 店長の話だと あらがいの団ってもともと超能力者の子供たちの為に作ったんでしょ なら七星さんとアカニャンさんも超能力者なの 」

「 アカ猫さんはテレパシーとかテレキネシスとか呼ばれるテレパス能力のサイキッカーらしいわ 人の意識を操るんですって その能力で戦闘機のパイロットを操って空からの攻撃を無効化にしたらしいの ロボは知らないわ ロボになったら超能力はさすがに使えないんじゃない でもあの女のことだからすっごいエロい能力だったはずよ その能力で店長とすっごいエロいことしていたと私は睨んでいるわ 」

「 そ そうなんだ 」





「 岬さま 敵 戦車隊が来ます 」

「 わかりました紅音古 総員 敵 戦車隊の砲撃に備え回避陣形に移行 火力を集中させるな 各隊は紅音古の指示に従い行動しろ 」





「 これどうなってるの 頭の中に直接通信が来てるわよ 」

「 アカニャンのテレパス能力だよ 説明聞いてたろうありさ 」

「 難しすぎてよくわかんなかったわよ 」

「 リサがわかんないんだ 俺なんかチンプンカンプンだぞユウリ 」

「 いくら超能力でも部隊全域をカバーするのは不可能じゃないの 」

「 その為に薬飲んだじゃないか 」

「 あれ何の薬なのよ 」

「 アカニャンとリンクする為の薬だよ 元はマリリオン製薬が開発していた薬で人類全体を一つの群として統一する為に研究されてた抗血清剤だよ 脳の中枢神経系に直接作用する もちろん不完全な妄想的研究だ だがそこにアカニャンのテレパス能力が加わると少し話しが違う マリリオンの研究をベースにしてホーネット医薬研により改良された受信する側の感度を増幅させる薬だと思えばいいよ 」

「 ユウリ あんたやけに詳しいわね さっきの紅音古の説明じゃマリリオンなんて出てこなかったわよ マリリオンっていったら1年前に問題になった製薬会社よね 血清を利用した危険なドラックを製造してたのがバレて潰されたはずよね 私たちも研究データは頂いて本国に送ったわ 確かヒト強化ドラックだったはずよ 」

「 それは不完全なデータを掴まされたんだよ 強化ドラックは副産物で本題は意識をリンクして人類をコントロールする研究だった 」

「 私たちも舐められたものね トーマ あの外交官 今度会ったら絞めるわよ 」

「 そういやマリリオン襲撃犯って日本刀持った男女の2人組だったな あれもしかしておまえと刀女かよ 」

「 おまえら 無駄話してないで交戦しろよ 何で俺1人で撃ちまくってんだよ 追いつかれてきたじゃねぇか 」

「 ユウリさん もう直ぐ社の鳥居が見えるはずです 」

「 鎌チョ もう一息だ ガンバレ 」

「 オジサン 結構やるわね 見直したわ もっと頑張りなさい 」

「 しょうがねぇな 手伝ってやるよ オッさん 」

「 おまえらなぁ 」





「 各班は所定のビルを盾に前へ出過ぎないで下さい 100秒後に後方から誘導弾で反撃します カウント始めます 合わせて下さい 」





「 ほれ見ろ 言わんこっちゃない どうなってる 」

「 長官 出てこないで下さい 本当に危険です 」

「 危険は承知で来たんだろう どうなってる 」

「 岬七星とレッドを確認しました 攻め手に欠いた状態です 」

「 やはり出て来たか岬七星 レッドとは例のエスパーか 」

「 はい レッドの精神攻撃で先手を完全に封じられています 思った以上に厄介です 」

「 竹下口搬入ゲートより壁内に浸入者があります 」

 通信士が指揮官に報告する。

「 浸入者だと 規模は 」

「 小型の装甲車1台です 」

「 そんな少数で何をする気だ 壁内なんて神社以外何も無いだろう 長官 そもそもあの神社は何なのです 我々は何も知らされて無いのですが 」

「 平成龍ノ宮神社か あれは宮内庁の管轄でワシらもわからんよ なんでもこの国最大の祟り神を封じる為に建立されたものと聞く この国の禁忌で決して触れてはならぬモノだそうだ 国神同様 得体の知れん奴らが中におるはずだぞ 」





「 到着しました 」

 海乃が装甲車をドリフト気味に急停車させる。

「 オジサン 頑張ったわね でも今からが本番よ トーマ 撃ちまくるわよ 」

「 あいよリサ どの武器から使おっかなぁ 」

「 ユウリ ここは任せなさい 早く行って もう15分しかないわ 」

「 わかった 海乃君走るぞ 」





「 紅音古 そろそろ悠吏君たちは到着しましたか 」

「 はい 社への浸入に成功しました あと15分耐えて下さい 作戦が失敗したら即撤退を開始して下さい 」

「 どうしたの弱気ですね紅音古 」

「 ユウリさんを伝わり社内部より良くないモノが感じられます 」

「 やはり何かいるのね わかりました 全軍 これより15分後に作戦をDあるいわRに移行する それまで被害を最小に留めつつ敵を撹乱し続けろ 」





 悠吏と海乃が社内に浸入すると、そこには2人の宮司姿の狐目の男らが立っていた。顔は違う顔だが同じ目つきをしている。

「 なんや 警備はなんしとるんや 」

「 外でドンパチやっとるさかい手薄になっとるんやろ てかこれが目的ちゃうんか 外は陽動でこっちが本命やろ おまんら誰や 」

 2人の男らが悠吏と海乃を見据える。

「 悪いがどいてくれ 貴様らに用はないんだ 」

 悠吏が答えた。

「 なら誰に用があるんや 」

「 ここの主人あるじに決まってるじゃないか 」

「 おあいにく 主人は長い永い眠りに就いちょるんや 」

「 なら叩き起こすだけだ 」

「 何の用があるんや 」

「 堕ち星の太刀と壺を零に貸して欲しくてね 」

「 なんで知っちょるんや ほんまに何者や 」

「 どけ 」

「 あかんな 」

「 なら押し通るまで 」

 悠吏の言葉を受けて2人の男が腰の太刀を抜き放った。

「 海乃君 下がってて 」

 悠吏が手にした段平を鞘から抜いた。

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