第35話 星宿のゼロ
「 どうしたんですユウリさん 出発にはまだ2日ありますよ 」
私達はセブンスマートのあるビルの3階に集まっていた。私と小夜と海乃と車田の4人は出発前の打ち合わせに寄ったのだが、そこに紅音古が悠吏に呼ばれて来たらしいのだ。トーマとありさと
「 いやね 出発前に旧渋谷特区にちょっと用があってさ 状況が知りたくって 月夜君たちと重なっちゃったのは僕のミスだよ 」
「 そうなんですか 全員集まってるから何事かと思いましたよ 渋谷特区は現在政府軍が完全に掌握してます あの壁は魅力的ですがそれは敵も同じようです 守りは堅いですよ 」
渋谷、かつてこの国の象徴的な街。
今から18年ほど前にこの街は焼失した。公式な発表では地下から噴出した大量の可燃性ガスが原因らしい、ガスは老朽化した下水施設から漏出した汚染水が長年にわたり地下を侵食し続けた事により地下空間に大量に溜まったものとされている。が、この手の話には必ず都市伝説が付き物だ。実は近隣国からの核攻撃だ、テロ組織だ、政府の陰謀だ、UFOが墜落した、超能力戦争だ、と、様々な都市伝説が今だに流布され続けている。
渋谷特区、通称 焼ヶ野原。正式名称 旧渋谷区特別立ち入り禁止指定区域。人体に影響があるとされる物質による汚染が酷く除染作業が困難な為に高さ114mの壁に囲まれ立ち入りを禁止し隔離された場所なのだ。
「 ユウリ 焼ヶ野原になんて何の用があるのよ 」
ありさがごく自然に悠吏に聞く、ほんの数日前にありさとトーマとは敵として色々あったハズなのだが、なんか随分と親しげになっているようで複雑な気分になってしまう。
「 堕ち星の太刀と零の壺が欲しいんだ 国神を相手にするからには火力を上げとかないとな 」
「 わかんないわよ ちゃんと説明しなさいよ 」
「 面倒臭いヤツだなぁ 」
「 いやいや 面倒臭いのはテメェだろクソユウリ おまえの話の意味がわかるヤツなんていねェだろ 」
「 マスターに向かって本当のことを言うなと言ったハズよゴミトーマ ぶった斬るわよ 」
「 あんだと 刀女 やんのか 」
なんだこれ。
「 やめろ お前ら 前角 ちゃんと説明しろ 」
車田の一喝に全員が息を飲む。こういう時にこのMr.おっさんは本当に頼りになるのだ。
「 は はい あっ アカニャンとありさとトーマは初めてだよな こちら車田さん トリオイの前会長の懐刀 」
「 私たちは知ってるわよ ツクヨの周りで1番危険視してた人物だからね コンテナ置き場で車で突っ込んで来た人でしょ 」
「 初めまして紅音古といいます 」
車田を前にするとやはり誰でも緊張ぎみになるようだ。
「 えっと じゃあ昔話になるんだけど 僕が国神の指示で着いた任務がある少女の護衛だったんだ 名を
「 えっ それってもしかしてファイヤースターターゼロのことっスか 」
海乃が目を輝かせて食いついた。
「 そうだよ海乃君 確か百目奇譚ではそんな記事で載ってたね 」
「 マジっスか 」
「 本土決戦になった場合 零がこの国の守護龍となると国神は言っていた 不思議な少女だったよ 当時 僕は超能力的なモノなんて信じてなかったんだけど 考えを改めざるえなかった いくつかの壺を使って炎を操るんだ 相模湾沖で敵艦隊を迎え撃った時は凄まじかったよ 敵艦隊を零の雷の炎で焼き払ったんだからね 」
「 そんな凄い最終兵器を持っていながらなんでこの国は降伏なんかしたの 」
確かにありさの言う通りだ、守護龍 宿星零を有しながら 何故白旗を上げなければならなかったのだろう。
「 そんなの簡単だよ 敵が零の火力を上回る火力を持っていたからさ 」
「 原子爆弾か 」
「 そうですよ小夜さん あんなモノ見せつけられたらどうすることも出来ません 」
「 こちらの最大火力であるレイの炎を上回る敵の新型秘密兵器 そりゃ心が折れてしまうだろうな 」
「 はい 絶望するしかなかったですよ 」
「 ホトオリボシノゼロ その名は私たちも知っているわ 戦後 この国の最重要危険人物ですからね 私よりトーマが詳しいはずよね 」
「 ああ 別に詳しかねェけど 死んだウチのジジイから昔話でよく聞かされたよ ジジイはゼロを追ってたらしいからな 顔半分ゼロに焼かれたんだとさ 楽しそうに話してたぜ 」
「 トーマ お前のじいさんってもしかして ヨナさんなのか 」
「 なんでユウリが知ってんだよ 確かにジジイの名前はヨナサン グレースだけどよ 」
「 げっ マジで 戦後何年か経って零と再会した時 彼女は新宿で暴れててね かつての僕の部隊 第0特殊機密兵隊のメンバーも何人か一緒だった 第0は零を中心とした所謂サイキッカー部隊だったんだ 大人しくお淑やかな印象だった零が逞しく凶暴な女性に成長していたのには驚いたが嬉しくもあったよ 彼女たちは新宿で自警団を組織していた 後のガーディアンズっていうサイキッカー集団の前身組織だよ 僕もしばらくそこに身を置かせてもらったんだ その時に零の周りをチョロチョロしてたのがヨナさんだよ トーマには悪いがあいつは単なる零のストーカーだったぞ 零と僕が一緒にいるとやたら僕に敵意を剥き出して面倒臭かったもん 顔の火傷も外から来たサイキッカー部隊とやり合った時 零を庇おうとして飛び込んで来て零が敵に放った炎で自爆して負った傷だぞ その時零に治療してもらって超嬉しそうにしてたよ 」
「 マジかよ 胡散臭いジジイだったが 完全に職務違反してんじゃねェかよ 」
「 ユウリ その話は内緒にしてちょうだい グレース家の名誉に関わる話よ 」
なんか怪しい、てか、この男の話の中に女性の名前が出て来たら全部怪しい。おそるおそるユキの方を見ると案の定眉の辺りがピクピクしている。本当は悠吏に零とのことをもっと突っ込んでみたいのだが、ここは我慢した方がよさそうである。
「 しばらくして僕は組織を離れたから その後零がどんな人生を歩んだのかは知らない ただ 渋谷大火炎の夜 空から1匹の炎の龍が降るのを見た あれは間違い無く零の最期の炎だ 」
「 それでは渋谷大火炎はやはりゼロのパイロだったのかユウリ店長 」
「 僕はそう思ってますよ小夜さん どうもガーディアンズ内部でなんかあったみたいなんです 組織が大きくなってから零はガーディアンズからは身を引いてたらしいんだけど 創設者として否応無しに巻き込まれんじゃないんですかね ガーディアンズの本体はあの夜に消滅してます 今 ガーディアンズを名乗ってる連中は生き残りによって再編された別組織です 」
「 ガーディアンズってどういう組織だったんです 都市伝説では日本の裏に暗躍して影からこの国を動かして来た的な話だったと思うんですけど 」
確かユキの話にも出て来たガーディアンズなる謎の組織について素直に聞いてみた。
「 さっきも言ったが もとは自警団だよ 戦後の復興期 この国は何でもありだったからね 歯止めが効かない状態だった そんな中で独自のルールとそれを取り締まる裏の存在が必要だったんだよ 正義ではないけど擬似的な正義の執行者がね そして何時しか それはこの国のシステムとして組み込まれていった 本人たちの意思とは関係なくね 」
「 表裏一体 表があれば必ず裏がある 私や車田は所謂トリオイ製薬の裏側を担当する者だ ありさ君やトーマ君もそうだろう 裏側を悪とまでは言わんが悪にも悪なりの正義が必要というわけだよツク 」
今まで考えもしなかったが車田や小夜はトリオイ製薬という大企業を裏側から支えてきた人間なのだ、小夜は百目奇譚というオカルト雑誌に身を隠し他企業の不正や犯罪行為を暴いてきた、車田は祖父の手足となり表側で処理出来ない問題をおそらく裏で処理してきたのだろう、その上に私や多くの社員達の生活が乗っかっているのだ。
「 少し話がそれたね それであの大火炎が零の炎なら彼女がこの国に放った最大級の畏れはあの地に封じられ祀られているはずなんだ あんな壁で囲ってまでね そこに彼女の持ってた堕ち星の太刀と火炎に使用する壺も安置されてる可能性が高い それを使いたいんだ 」
「 龍の社っスね 」
「 そうか ユウリ店長 渋谷特区なら海乃が詳しいぞ ちょっと前に百目で特集を組む為に調べてたことがあるのだ 」
「 壁の内側の見取り図は作ってありますよ あと龍の社の正確な位置と構造も 」
「 マジか海乃君 それはありがたい アカニャン 少しの時間でいいから特区から兵力を引き剥がしてくれないか 浸入ルートさえ確保できれば最短行動でなんとか出来るはずだ 」
「 内側から征圧出来ますか 」
「 零が力を貸してくれたらな 」
「 わかりました 女ったらしのユウリさんを信じましょう いつやりますか 」
「 時間がない 今日の深夜0時はムリか 」
「 いいでしょう それじゃあ一緒に渋谷特区を落としましょう 」
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