第31話 科学の子
「 で どんな用件で来たのかしら 」
話し合いの席に着いたのは、ここ新宿の旧都庁ビルに到着してから1時間ほどしてからである。新宿方面は現在政府軍により厳戒態勢が敷かれており浸入は容易ではなく、ありさたちの持つ情報に頼ることになる、運休してある地下鉄線や避難経路などを伝って軍の目をすり抜けて浸入を試みたのだ。都庁ビル到着でホッとしたのも束の間、開口一番 悠吏と岬七星が喧嘩を始めた、私たちは別室で待機することとなったのだ。どうもセブンスマート組が関わると事はスマートには進まないらしい。ちなみに駄洒落じゃないからね。
席に着いた七星と悠吏とユキとトーマは白く埃まみれである。
岬七星は言われなければ以前の岬七星とさほど変わらない、注意して見ると本当に人間なのか という違和感は覚えるのは確かだ。失っていたはずの右眼は依然閉ざされたままである。
「 話しは色々とあるんだが 1番の用件は科学者としての七星の力が借りたい 」
七星に答えたのは意外にも悠吏だった。悠吏はロボットのボディに岬七星の記憶を移植したと言う現在岬七星を名乗るモノを岬七星とは認めてはいないと思っていたからだ。
「 興味深いわね この状況で科学者の私に用があるなんて でなんなの 」
「 これを見てもらいたいんだ 」
そう言って三刀小夜がバックから70㎝ほどの金属の塊を取り出した。昨夜、巨大な糸切り鋏へと形状を変化させていたんだが いつの間にか元の塊へて戻っていたらしい、悠吏が移動の為に作っていた葛籠の一部を使用して編み上げた特殊な布に包んで小夜が持って来てくれたのだ。
「 金属ね 少し放射能があるみたいだけど触ってもいいかしら 」
そう言って七星が立ち上がり金属に近づく。
「 なに 見ただけで放射能汚染がわかるの 」
ありさが私も思ったことを素直に口にする。
「 私自身 炉心を持つ原子力駆動よ 放射能漏れには細心の注意を払ってるわ これは人体には害のないレベルね 軽いわね 特殊合金でもないみたいね 単一元素なら未知の金属となるわ 硬いわね 」
「 月夜君
私は悠吏に言われ七星に手にした金属を置いてもらう。
「 七星さん少し離れて下さい 」
私は金属を持ち上げた、と同時にシャキンっと形状が瞬時に変化する。共鳴を抑える為に刃先を合わせた。
「 なによこれは もしかして原子レベルのロボットなの 」
「 ロボットなのか 形状記憶合金とかじゃないのか 」
「 形状記憶とは主に金属のバネの特性 超弾性を利用したもので曲がった物が真っ直ぐになる程度の変形よ これも形状記憶なのかも知れないけど我々の知っているものとはまったく別ものだわ 体積も変化しているがこれは配列が変化してるの ほかの形態変化は 」
「 僕の知る範囲だと動物的な形態で自律して様々な刃先を繰り出し攻撃してきた 」
「 やはり自律型ロボットね しかも我々人類など到底及ばないハイテクノロジーの塊だわ でも どうして月夜ちゃんに反応したの あっ月夜ちゃん意識不明の重体だったんじゃないの 心配してたのよ 」
「 あっ ども なんとかみんなのおかげで生還出来たみたいです 」
それから私たちはここまでの経緯を七星に説明する。
「 いきなりオカルト的な話になるのね さすが都市伝説ハンターの三刀さんが関わってるだけあるわ この物質に科学的な説明を求めるならさっき言った通り単一元素による自律型ユニットとなるわ まあ研究してみないとわからないでしょうけどね 変態道ノ端教授の持論では我々地球上の生命と呼ばれる物も外宇宙から送り込まれた惑星探査ユニットらしいから 我々の知る生命とは別の定義を持つユニットが存在していても不思議ではないわ あくまでもあの変態の説を根底に置くのならね 月夜ちゃんに反応するのは月夜ちゃん というか鳥迫の持つ遺伝子情報を認織してるんでしょうね あなたたちが契約と呼んでいるものはこのユニットへの干渉方法だと思うわ それがわかるといいんだけど 」
「 なんか話が一気に現実的で科学的な話になってきたな 俺はついていけねぇぞ 」
「 なによトーマ あなたオカルト否定派じゃなかったの 」
「 そうだけどよ 気持ちの切り替えが 」
「 わかるぞトーマ だいたい七星はロマンがないんだ 」
「 何よ悠吏君 悠吏君なんかにそんな事言われたくないわよ クリスマスプレゼントに魔除けの変な人形を貰う彼女の気持ちも考えなさいよね 」
「 うわぁっ マジ 」
「 な なんだよありさ それだけ心配してるって気持ちだろ アイヌにまで行って手に入れて来たんだからな ヒグマに襲われて大変だったんだぞ 」
「 ツクさんには葛籠 ロボには魔除けの人形 私は何も貰ったことがないわ 」
「 い いや ユキ 刀作ってやったじゃんか 」
「 刀鍛冶のジジイに頼んだだけじゃない イタチともヒグマとも闘ってないわ ジジイと闘って奪い取って来なさいよ 」
「 な なんでジイさんと僕が闘うんだよ 先代からの付き合いなんだぞ 」
ヤバい ユキがやけに大人しいと思っていたけどやはり限界だったか。
「 ユ ユキちゃん その話は帰ってからにしましょう 」
「 うぅぅっ 」
「 悠吏君は相変わらず隅に置けないな 」
七星は面白がってるようだ。
「 で 津波を引き起こす事は可能と思うわけ 岬七星 」
ありさが七星に問う。
「 理論的には可能でしょうね その辺は私も少し専門外だけど 力学を応用すれば共鳴によりより大きな波動を作り出す事は理論的にそんなに難しくないはずよ 」
「 なら 何らかの方法でこのユニットにプログラムを与えそれを実行させたってこと 」
「 問題はこれが自律型だという部分ね プログラムを実行させる為のユニットではないはずよ どの程度の自律機能を有しているのかわからなければ推論でしかないわ 人の手で扱えなければオカルト的に神的なものと捉えるのとさほど変わりはないように思えるのだけれど 」
「 理解出来なければそれは神と同意というわけか でも七星 今は自律機能は停止していると思うんだが また復活するのか 僕が闘った時は死にかけていたように感じたんだが 」
「 悠吏君がそう感じたのならそうなのかも知れないわね 機能を停止したというより別のユニットに移行したんじゃないのかしら 月夜ちゃん 形状を変化させて見て 」
「 えっ えぇぇっ そんなこと言われても 」
「 ごめんなさい 」
そう言うと七星が瞬時にブレードを突き出した。
と その瞬間、手にした糸切り鋏の刃がノコギリ状に変形してブレードの刃をギザギザに破壊した。
「 やはりね 月夜ちゃんの意識に依存しているわ 鋏の時から思ったんだけど刃が内側を向いているのは月夜ちゃんに攻撃の意思がないからよ 糸切り鋏の形状なのは葛籠から月夜ちゃんが舌切り雀の話を連想したからじゃないかしら 月夜ちゃんの潜在意識がその形状に反射しているの もし今 月夜ちゃんが私に攻撃の意思を持っていたら私はバラバラにされていたでしょうね 」
「 それってどういうことなんですか 」
「 かつてそれが神と呼ばれたものであったのならば今は月夜ちゃんが神と呼ばれるモノになったってことよ 月夜ちゃんの意思で巨大津波をも引き起こすことが出来るはずよ 」
「 一件落着ね 」
「 そ そうなのかユキ 」
「 だってツクさんは無敵の神様になったんでしょ 私たちは月夜神の使徒として付き従えばいいだけじゃない 混沌世界なんて押し流してしまえばいいのよ 」
「 ちょっと待ってユキちゃん 私は別に神様なんて それに葛籠に入れられたモノだって元々は中国地方の山奥にあった誰にも知られてないようなモノでしょ」
「 確かにな 元がどういうモノだったのかは知っておきたいところではあるな 」
小夜が助け船を出してくれた。
「 岬さん あなたの話しが聞けて良かった 正直どう対処すればいいのかわからず困っていたんだ だが岬さんの意見が聞けて現実的に物事を考える事が出来るようになった」
「 お役に立てたなら嬉しいわ三刀さん で 他にも用件があるんでしょ 悠吏君 その前に月夜ちゃん その鋏を体に収納するようなコンパクトなイメージを持って見て 」
「 はい 」
私は七星の言うようにコンパクトに収納するイメージを鋏を持った手に意識する。
すると、無数の刃が繰り出され、またもや形状が一瞬に変化する。それは両手首と首と腰回りに刃物をモチーフにした装飾品のように体に装着されていた。
「 4つに分裂したの 」
ありさがまじまじと観察する。
「 いや 首から鎖みたいなので繋がってるみてぇだな 」
トーマの言うように首のチョウカーのようなものから細い鎖のようなモノが各パーツえ伸びている、動きの妨げにはならないようだ。
「 さすがツクさんね なかなかエロいわ 」
待ちなさい八島ユキ どういう目で見たらエロくなんの てか鏡で全身を見てみたいんすけど。
「 なあ七星 なんかおまえタンパクじゃねぇ はっきし言ってこの物質にもっと食いつくと思ってたんだが 」
「 もちろん食いつきたいわよ悠吏君 科学者としてこれ程の研究対象はないわよ 一生を捧げてもいいくらいよ でも今の私は科学よりも優先すべきことがある 」
「 あらがいの団か なんでおまえがその名を名乗る必要がある もう終わったはずだろ 」
「 終わってないのよ悠吏君 私はソラちゃんの意志を継ぐ 私たちを力ずくで止めてくれた悠吏君には感謝しているわ おかげで生きる喜びを知ることが出来た 研究に没頭して綺麗な服や可愛い服でオシャレして恋人と沢山愛し合った みんなが知らないままで死んでいったこと 教えてやりたいわ 人生って素晴らしいってことをね 」
「 じゃあヤツらの分まで存分に楽しめよ 」
「 無理なのよ これは私たち星の子たちの定めなの 」
「 星の子学園なんてもう無いだろ 僕が叩き潰してやったじゃないか おまえらが生き残ったことだけが僕の唯一の救いなんだぞ おまえらまで死んだら結局僕は誰一人救えなかったことになるじゃないか ふざけるな七星 」
悠吏は怒っているのだろうか、それとも泣いているのか、それは私の知らない悠吏だ。
「 ごめんね悠吏君 」
「 で その為に自分の魂と肉体をゴミ箱に捨てたのか まあ七星らしいな で 戦況はどうなんだ 」
「 あまり芳しくないわね 一見優勢に見えるけど実状はここ新宿に押し込められてる形よ その間 政府は着々と瀬戸内で何やら進めているわ 」
「 岬七星 私たちと組まない もちろん期間限定で構わない 私たちは再び鎖国状態になったこの国の内情を知ることと引っ掻き回すのが目的よ お互いデメリットはないように思うんだけど 」
悠吏が少し落ち着いたのを見て ありさが話しに加わる、この先日 出会ったばかりのありさという女性は非常に周りがよく見えているようだ、タイミングというものをわきまえている。
「 我々は他の国も利用しているわよ 利用出来るものは何でも利用するわ それで構わないのかしら 」
「 承知の上よ 」
「 いいわ じゃあ利用してあげる あなたたちも利用しなさい 」
「 話しがわかりやすくていいわね 岬七星 あなた気に入ったわ いいわねトーマ 」
「 あいよ 」
「 おい 何横から勝手に商談まとめてんだよ 」
「 メソメソしてるあんたが悪いんでしょ 」
「 なっ 僕は別に…… 七星なんかどうでもいいし それより七星 何でおまえが道ノ端博士の持ってんだよ もしかして博士殺して脳ミソ盗んだのおまえなのか 」
「 私も聞きたかったの 何で悠吏君が変態博士のユニットを知ってんのよ まだ非公開だったはずよ 」
「 サクラのことか 」
「 サクラ試作1号機 悠吏君が何で 」
「 サクラは僕の可愛いピカイチの生徒だ 」
ユキの額から ピキッっと何かがぶち切れる音が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます