第30話 スズメバチ
「 岬さま 面会したいという者たちが 」
旧新宿都庁ビルの一室で
「 どうしたんです
「 それが少しばかり奇妙な面子なので岬さまの判断をと 」
「 どのような面子なのです 」
「 それがユウリさんと鳥迫月夜 三刀小夜 それから某国の工作員2名に謎の女子高生の計6名です ユウリさんと女子高生は帯刀しており工作員も武器を所持しているものかと 」
「 なんですかそれは さすが悠吏君 笑わせてくれますね しかも帯刀してるなんて 面白いわ 会いましょう 」
「 岬さまがお会いになられるそうです どうぞこちらへ 」
「 なあなあ おまえどっかで見たと思ったらアカニャンだよな 」
「 ヤメてくださいユウリさん そんな昔しの呼び名は 」
「 やっぱそうだ なんだ懐かしいなぁ 元気してた てかデカくね おまえそんなにデカかったっけ 120㎝くらいじゃなかった 」
「 成長したんですよ あと別れた時はそんなに小さくなかったです いいから黙ってついて来てもらえます 」
「 なんだよ つれないなぁ アカニャンは七星とつるんでたんだ そういや当時からおまえMっ気あったもんな 」
「 なに この人も知り合いなの 」
ありさが興味津々に悠吏に聞く。
「 ああ アカニャンっていって
「 紅音古です 」
「 あらがいの団の初代マスコットだよ 」
「 ちょっと待ってください 」
「 マスコットにしてはデカいわね 」
「 昔しは1mくらいで小っこくってカワイかったんだ 」
「 あの さっきより小さくなってませんか それからマスコットじゃないです 」
「 それよりユウリ あんたオリジナルのあらがいの団知ってんの 」
「 ユウリさんはあらがいの団の創設者ですよ あの団旗もユウリさんが描かれたものです 」
「 はぁ ちょっと待ちなさいよ じゃああんたがテロの黒幕なの 」
「 ちがうちがう 僕がソラと作った初期あらがいの団はもともとこいつらサイキッカーの子供たちの力の発散のためのモノだったんだ 」
「 やっぱりソラたちはサイキッカーだったの じゃあ あの噂はやっぱり本当だったのね ある児童養護施設で秘密裏に行われた超能力実験の噂 」
「 ありさ君詳しいな その話は我々の専門じゃないか とある児童養護施設で10年間に渡り行われた超能力開発実験 ってまさかソラたちあらがいの団のメンバーはその実験の被験者だったのか 」
話しが都市伝説ネタになったので専門職である三刀小夜が加わる。
「 一般には伏せられてるけどあらがいの団の中心メンバーたちは同じ閉鎖された施設の出身者だったのよ 」
ありさが独自に知り得る情報を開示する。
「 あの一件にはある宗教団体が関与していてね かなり危険な薬物も使用されてたみたいだ その組織を僕が叩き潰した 」
「 イブの悪魔 ユウリさんは私たちを地獄から解放してくれました クリスマスイブの夜 刀を手に施設に乗り込んで来たユウリさんはまさに悪魔そのものでした あの夜のことは一生忘れません いまだに悪夢を見ます 」
「 あのね ほめてないよねアカニャン 」
「 ユウリ あんたいったいなんなの まあいいわ それからどうなったの 」
「 子供たちは里親や他の施設に散り散りになった 当初は何の問題もなかったみたいなんだが 数年後にソラに見つかっちゃってね その時既にソラは能力を発現させていた ソラと手分けして他の子たちも当たってみると何人か発現していて中には酷い事になってる子もいた 強過ぎる力に飲まれてしまうんだ 力の制御の仕方を知らないんだから当たり前だよ それで自身の力にあらがう為にあらがいの団を作ったんだよ 仲間がいればどうにか出来るんじゃないかと思ってね しかしうまくはいかなかった ある時を境にソラを中心とした過激な反社会思想に傾倒していく団体に変容していったんだ 僕に出来たことは七星やアカニャンたち若年組を押し留めることぐらいだった 情け無い話しだよ 」
「 昔し話しはもう終わったかしら 」
話しながらエレベーターなどを使い移動してるうちに42階の目的の場所に到着したようだ。会議室だろうか、1人の女性が待ち構えていた。
「 おまえ誰だよ 」
「 あら 挨拶ね悠吏君 昔しの恋人に言っていい言葉じゃないでしょ それとも身体だけの関係だったのかしら 」
「 いやいや おまえロボじゃん 」
「 へぇぇ 一目でロボットってわかるんだ 普通は違和感は覚えても確信は出来ないはずだけど 」
言われてみると女性の顔は何処と無く作り物のようにも見えなくはない。
「 道ノ端博士の原子力ロボットだろ 」
「 悠吏君 やっぱり君は侮れないのね 別れたことをひどく後悔するわ 」
「 質問に答えろ おまえは誰だ 」
「 岬七星よ って言っても意味ないわね 岬七星の記憶を移植した原子力ロボットよ 」
「 七星はどこにいる 」
「 ここよ 」
女性は いや女性型のロボットは自身の頭部をコツコツと人差し指でノックする。
彼女は 或いは彼女らしきモノは身長155㎝ほどでスリムな体型を黒と黄色のボディスーツに包み半透明な背中で割れたマントのようなものを羽織っている。胸と肩口にはスズメバチをあしらったシンボルのようなものが伺える。
「 いやいや 意味がわからんぞ 」
「 個というものは結局記憶データなのよ 昔しベッドの中で話したこと覚えてる 眠ることと死ぬことは同意だって 人は毎日眠りという死を迎えて 死ぬ前までの記憶を引き継いで目覚めという誕生を迎える 毎日死んで毎日生まれているの 記憶だけを引き継いでね 私はその容れ物を他のものに変えただけなのよ 」
「 七星はどこだ 」
「 あなたが七星とこだわっているものは要らなくなった容れ物のことかしら あれなら処分したわよ 」
「 紅音古 こいつが七星を殺したのか 」
悠吏が抜刀する。ユキも刀の柄に手をかけた。
「 ユウリさん 岬七星がどういう人間かよく知ってるでしょ 彼女が岬七星なんですよ すべて岬七星の描いた現実なんです 」
「 刀を抜いたわね 悠吏君 いやイブの悪魔 1度このボディの能力をフルで試したかったの 」
岬七星が背後から取り出した三日月型の1mほどのブレードを両手に装着した。
「 ユキ 手は出すな 」
「 はいマスター 」
悠吏が刀の鞘をユキに手渡す。トーマとありさは終始腕を組み2人のやりとりを静観する。が、その背後の鳥迫月夜と三刀小夜にありさが一瞬 動くなと目配せした。
先に動いたのは悠吏だった。
切っ先を地面スレスレに低く踏み込んでヒュンと刀を斜め上に振り上げる。小さく収縮した状態からの体を伸ばした跳躍する形への一瞬の変化で悠吏の爪先から切っ先までは優に3mを越える範囲を射程に捕らえる。が、七星は重力を無視したかのような軽やかなバックステップ1つでこれを難なく躱すと同時に切り返しのワンステップで悠吏の懐に楽々潜り込む、そのまま腕の肘側に装着したブレイドをボクシングのフックの様にワンツーと繰り出した。悠吏は刀身を引き戻す暇を与えてもらえずにこれを刀の柄の部分を使って器用に躱していく、七星のスリーの高速ストレートと同時に悠吏の蹴りが七星の腹部を捕らえ強引に外側へと引き離した。
「 近接戦は苦手かと思ったんだけど さすがに悠吏君レベルだと簡単にはいかないみたいね いいデータが取れたわ 」
「 能力を試したいなんて言ったくせに相手のウィークポイント探しかよ 」
「 今のはデータ収集よ いきなり全力で暴れたら他の人が巻き添え食らうでしょ 」
そう言うと七星が両腕のブレイドをくるりと反転させて外側に構える。何処と無くカマキリを想わせる戦闘形態である。
「 私達は下の階に移動しましょう 」
紅音古と名乗る黒スーツの男が言った。
「 でも 」
鳥迫月夜が思わぬ展開に不安な顔をする。
「 心配するだけムダですよ あの2人にとってはじゃれ合いみたいなものです マトモに受けあってたらこっちが馬鹿を見ますよ 」
「 ツク 彼に従おう ユウリ店長もココに来た目的を忘れた訳では無いだろう 」
そうして小夜とありさと月夜は紅音古に従いその場から移動する。武闘派であるトーマとユキはその場に残った。悠吏が心配というより、ただ2人の戦闘に興味があるようだ。
私と小夜とありさの3人は悠吏がアカニャンと呼ぶ紅音古という男性と1つ下の階の会議室のような場所に移動した。紅音古は身長180以上のスマートな長身の男性で少し幼なさが残ったような甘い顔立ちなのだが左の眉の辺りに傷があり それが少しばかり威圧感を与えている。彼はその場にあったコーヒーメイカーで私たちにコーヒーを入れてくれた。
上階からは時折り衝撃音や振動が伝わってくる、その度に天井からパラパラと何かが降って来てコーヒーが粉っぽくなってしまう、せっかくセットした髪もきっと粉だらけになっていることだろう。
昨日からの訳のわかんない展開に混乱マックスなのに もういい加減にして欲しい。これじゃあ私自身が第1期混沌世界だ。
昨夜、睡眠はしっかり取ったんだが正直疲れた。ユキが夜這い……じゃなくって 病室に忍び込んで色々と話してくれたのはありがたいのだが彼女の小悪魔ならぬ大悪魔的な言動に終始 私は乱れっぱなしだった。彼女が呆気なく寝入ってくれたからよかったが、さもなくば 私は越えてはならぬ一線を踏み越えていたかも知れない。
ユキは寝相があまりよろしくなく 起きる度に必ず乱れていて何度も整えてやった。ブラの肩紐が外れ彼女の型の良いかわいい乳房も目撃してしまったしパンツが際どくずり下がってたりして本当に大変だった。浴衣で寝たら、起きた時 帯だけになっているタイプだろう。
ユキは悠吏との関係も正直に話してくれた、死と隣り合わせた旅の中で2人で支え合って生き延びたのだ。ユキはもともと悠吏のことが好きだった、なのに私の為に行動する悠吏を手助けした。その過程で彼の死を予感したユキにはそうすることが必要だったのだ、彼と1つになり繋ぎ止めることが。
私はどう受け止めたらいいのだろう、ユキはこの一件に片がついたら悠吏は私の前から去るだろうと言った。自分は2番目で構わないとも。
私はいったい2人の気持ちをどうすればいいんだろう。
そして岬七星の登場である。先ほどの遣り取りから 悠吏は七星に対して、私ともユキとも違う特別な感情を抱いていることは伺える、それがどのようなモノなのかはわからないが、このままでは三角関係どころか四角関係だ。しかも1人は今現在ロボである。
とりあえず今はユキの怒りが爆発しないことを祈るしかない。
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