第25話 欠けたピース
「 これは凄いな 」
悠吏が感嘆の声を漏らす。
私の手にしたそれは、全長1.4m 刃渡り1mほどの日本古来の伝統的な糸切り鋏 或いは握り鋏と呼ばれる一つの金属をU字型に折り曲げた形状に刃が付いたものだ。
「 刃が内側にしか付いてないのね 武器じゃないのかしら ツクさん重くないの 」
ユキも興味津々に問いかけてくる。
「 はい とても軽いです 金属とは思えないです 」
ボン と突然 頭上の蛍光灯の一つが弾けた。
「 まずいな 月夜君 その共鳴音は止められないか 刃を合わせて見て このままだとビルが壊れてしまうかもしれない 」
「 やって見ます 」
悠吏の指示通りに両の刃を合わせるように押さえつけた、刃が重なると同時にキィーンと鳴っていた高周波の共鳴音がピタリと止んで再び静寂が訪れた。刃を合わせるのにさほど力はいらなかった。
「 今の共鳴音は厄介だな 周りが共鳴して共振を起こしてしまうぞ 津波発生のメカニズムとも関係あるかもしれんな 」
「 マイクロ波的なものなら周囲が電子レンジ状態になるかもしれないわね 」
ありさが恐ろしい事を口にする。
「 ツク 大丈夫か 体はなんともないのか 」
小夜はとびっきり普段見せることのない不安な顔をしている。ダメだ、小夜にこんな顔をさせてしまったら。
「 サヤさん大丈夫ですよ 目覚めてから今が一番調子がいいくらいです 心配しないでください 」
「 それより死んでンじゃなかったのかよ 月夜が触れて復活したんじゃねぇのか 」
「 いや大丈夫だと思うよトーマ あの時は意志を持って攻撃して来た 形状も動物的な自律型だった 今の形状は人が と言うより月夜君が扱うための形状だ 意志のようなものは感じられない 単なる形状が変化する道具 或いは武器といったとこだと思う 扱い方には十分な注意が必要だろうけどね 」
「 それで どうしたらいいと思う ユウリ店長 私らにはさっぱりわからんぞ 」
「 とりあえず また共鳴しないように刃先を縛りましょう 」
先程、ありさとトーマを拘束した結束帯で刃先が開かないよう固定した。
「 僕は月夜君から葛籠を というか葛籠の中のものを月夜君から遠く手の届かない所まで離したのがそもそもいけなかったと考えています 葛籠が1度開けられたのなら その時何らかのもう一つの契約が取り交わされたと見るのが妥当でしょう そのもう一つの契約が鳥迫家 つまり月夜君に大きく関わっている気がします 」
「 なら その金属はツクから遠くに離さぬ方がいいと思うわけだな 」
「 はい小夜さん 僕はそう思います そして世界が津波の影響から落ち着いたら鳥迫家で再び封印する それがベストのように思えます ただ根拠も自信もないですよ 」
「 ツクはどうだ 」
「 私も店長の言った方法がいいと思います これを私は二度と手放してはいけないように思えます 」
「 1度専門家の意見も聞いときたいとこなんだけどね 」
「 専門家というとオカルト的な専門家のことですか 霊能者とか陰陽師とか魔術師とかの 」
「 違うよ月夜君 科学の方だよ 物質である以上物理学は適用されるはずだろ ある程度のことは解るかもしれない 」
「 それは私も賛成よ もしかしたらあの津波も科学的に解明出来るかもしれないしね 納得出来る答えが得られるかもしれないわ 」
ありさが悠吏の意見に賛同する。
「 科学か 医学薬学生命科学ならトリオイが専門なんだが 物理方面はチョット畑違いだな 」
小夜が考え込み1人の名前に行き着いた。それは私の頭に浮かんだのと同じ名前だった。
「
「 岬七星って あらがいの団ホーネット の あんたたち知ってるの 」
「 知ってるってほどではないよ 以前トリオイと技術協力した際に面識がある程度だ 」
ありさの食いつきに小夜が警戒して慎重に答える。
「 それ聞きたかったんだけど 僕らがいない間にこの国どうなってんの 続大日本帝国だのあらがいの団だの意味わかんないんだけど なんで七星があらがいの団名乗ってんだよ 」
「 続大日本帝国じゃないわよ店長 大日本帝国リターンズでしょ 」
「 ちげーよ 新大日本帝国だろ 」
悠吏とユキにトーマが思わず突っ込む。完全に2人のペースに巻き込まれているようだ。
そもそも岬七星と最初に会ったのは悠吏の知り合いとしてだ、私の感が正しいなら2人は以前交際していた元恋人同士のはずだ、その時ははぐらかされたが、そんなに簡単に騙されはしない。
「 七星って あんたも知ってるの 」
「 なんだよありさ あいつそんなに有名人なの 」
「 当たり前でしょ 反政府軍のヘッドなのよ で あんたはどういう関係なの 」
「 別に古い知り合いってだけだよ 」
「 元カノさんなんですよネ 」
ヤバい またはぐらかそうとしたからついムカついて突っ込んでしまった。
「 ちょ ちょ 月夜君 な 何を言ってんだか 僕にはさっぱり……
「 へぇぇ そうなんだ 店長 後でゆっくりその話し聞いてあげる 」
げっ ユキもいたんだった。店長、ごめんなさい、お骨はちゃんと拾います。成仏して下さい。
「 あんた意外に使えるわね 見直したわ ちょうど私たちも岬七星には会いたいと思ってたとこなの 明日 一緒に新宿に会いに行きましょ 」
「 おいおい ありさ なんでそうなんのさ もう僕とお前らは関係無いじゃん 命も取らずにブラックボックスまで返してやったんだぞ だいたい七星なんて普段から頭おかしいのに あらがいの団とかやって更に頭おかしくなってんに決まってんじゃんか 僕 あいつ超トラウマなんすけど お願いします 勘弁してもらえませんか ありさ様 」
「 往生際が悪いわねぇ あんた月夜の為ならなんでもするんじゃなかったの 近く新宿で大規模な戦闘が始まるわ その前に会っとかないと後悔することになるかもよ 」
「 …… わかったよ いきゃいいんでしょ 」
「 あと 都内の私たちのアジトが政府軍に押さえられて困ってたの ここ気に入ったわ しばらく使わせてもらうわネ 」
「 えっ 」
「 ま まじかよリサ 悪いこたァ言わねェから考え直そうぜ こんなヤツら俺はムリだ 」
「 イヤよ なんで私がトーマとラブホ渡り歩かなきゃなんないのよ あんた部屋に入ったら全然喋んないし なかなか寝ないし ガサガサ音は出すし もうストレスで限界なのよ あんな生活よりここの方が100倍マシよ 」
「 …… 」
「 店長 この女 斬っていいですか って言おうと思ったんだけど なんだか気の毒になっちゃったわ しばらく置いてあげましょ 」
「 まあいいよ 好きにしろよ 目の届く所にいた方が余計な心配しなくていいしな ありさは2階の空いてる部屋を使えよ トーマは1階のバックヤード使わせてやるよ ダンボールに包まって寝るといい 」
「 なッ 」
「 月夜君たちはそろそろ戻って まだまだ予断は許されない状況だろ ゆっくり休まないと 金属はサイズが変わって蓋は閉まんないけど葛籠に入れて置けば当面は大丈夫だろ 明日 七星に調べてもらうよ 」
「 私も行きます じゃなきゃ金属がちゃんと反応しないかもですよ 」
「 うぅぅぅん それはそうなんだけど 」
「 大丈夫だ 施設でちゃんと検査してOKなら私も同行する ムリは絶対にさせない 」
「 まあ小夜さんがそう言うのなら それじゃ明日 トリオイの施設に寄ります 時間が決まったら連絡しますよ 」
「 よろしく頼む ユウリ店長 」
それから ありさとトーマは荷物を取りに出ていき、私達は海乃が少し離れた駐車場から車を持って来る間、1階で待つ事になった。私は小夜に少し店長と話しをしてくると伝え 再び2階へと上がって行ったのである、2階はいくつかのワンルームの部屋になっており悠吏が普段使用している部屋をノックした。返事が無いので 思い切ってドアを開けると、そこにはソファに腰掛けた悠吏と、黒のセクシーな下着姿のユキがいた。
「 ご ご ご ご ごめんなさい わ 私……
「 あらツクさん そんなに慌ててどうしたの 」
「 どうしたのじゃないだろユキ お前がそんな格好でいるから 」
「 気にしないで ツクさん 私は自分の部屋にいる時は基本下着一丁よ 」
「 お前の部屋じゃないし 」
「 もしかして嫉妬してる 」
「 …… 」
「 …… 」
「 今 店長と話してたの やっぱり心配だから今日の夜は私がツクさんの病室にお泊まりに行くわね 夜中に忍び込むからびっくりしないでね 」
「 えっ ユキちゃんが だ 大丈夫だから心配しないで 」
「 ダメよ 今までは心配しようにも寝たきりで心配すら出来なかったんだから やっと心配出来るようになったのよ 大人しく心配されていなさい 」
「 そうだぞツク 僕らから言わせればやっとなんだ 君が知ってる半年間と僕らが歩んできた半年間は余りにもかけ離れてる それは小夜さんや他の人も同じだろう 今 君に出来る事は心配されて安心させることだ 借りはまた同じ時間を歩けるようになったら その時返してもらう 」
「 わかりました 」
下で車のクラクションが聞こえた、海乃が到着したようだ。
「 それじゃ ユキちゃん また後で 」
「 ええ 楽しみにしてて 」
「 店長も今度ゆっくり話してくださいね 社のこととか他にも聞きたいことが沢山ありますよ 」
私の知らない時間をみんな生きているんだ、なら教えてもらえばいいじゃないか。ユキから、小夜から、悠吏から、海乃から、車田から、そうすることでしか、私の欠けたピースは埋まらない。
そして完成したパズルが例え自分が望まぬ絵だったとしてもだ。
私は今までの人生で、その絵を見るのが怖くて自らパズルを完成させずに目を逸らし続けてきた気がする。でも、もうヤメだ。
私だけが取り残されてたんじゃなくって、私だけが駄々をこねて踏みとどまり続けてただけなんだ。もう卒業しなくっちゃぁ、みんなから愛想を尽かされるその前に、勇気を出さなくっちゃ、もう子供じゃないんだから。
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