第23話 集会 其の弐


「 これが私たちの知り得ることだ これ以上のことは神に誓って何も無い 」

 私と小夜は これまでの経緯を事細かく説明していった。祖父に聞いた話し、私有地での出来事、何一つ隠す事無く。

「 警察の調書と若干内容が異なるわね 」

「 ああ 流石にじいさんの話しをそのまま話すと逆にこちらが嘘をついてると疑われる可能性があるからな 死体が出て来た以上 鳥迫秀一と酉狩清次は別人とさせてもらった 私ら自身 じいさんの話しをどこまで信じていいか戸惑っていたんでな 」

 石黒ありさの問いに三刀小夜が答えた。

「 僕たちも警察の調書は確認させてもらった そこで初めて葛籠の存在を知ったんだけどね 」

「 店長が警察の調書を いったいどうやって確認したんです 」

 ありさたちのような特殊な組織の人間ならわかるが、そうそう簡単に誰でも閲覧出来るものではないはずである。私は店長に素朴な疑問を返した。

「 まあ 蛇の道は蛇ってやつだよ 僕たちとしてはそこからしか情報が得られなかったからね だって月夜君 教えてくんなかったじゃん 」

 うぅぅっ。なんか根に持ってるみたいだ。

「 簡単にまとめると 酉狩清次なる人物が終戦間際にある特殊任務に就き 葛籠なる兵器を入手した その移送中に敵に察知されて2発の原子爆弾により阻止される その後 鳥迫秀一と改名して葛籠を所有し続けた ってことだよね 」

「 それで合ってるぞ ユウリ店長 で ありさ君たちはいったい何を知ってたんだ その内容により事実がかなり変わってくると思うんだが 」

 そうなのだ、これはあくまで祖父から一方的に聞かされただけの話なのだ、嘘だと言われればそれまでなのだ。敵国であった ありさ側の知っている情報で初めて真実が見えてくる。

「 私たちは単なる実動部隊よ 多くは知らされてないわ ただ 酉狩清次なる戦犯が所持していたはずの箱が非常に危険かつ重要な物である事 それが原爆投下の引き金になった物である それだけよ それ以上は知らないの 本当よ 」

「 十分だ 酉狩と鳥迫秀一が同一人物かはこの際どうでもいい ただ葛籠の話しはじいさんの世迷言じゃなかったということだ 」

「 問題なのはあの箱が何だったのかよ 」

「 じいさんの話しを信じるならオカルト的なものになってしまう 」

「 そんなものの為に私たちの国は原爆を投下したっていうの 」

「 私らも考えたんだが 君らの国には戦況を覆すに足る敵の強力な新兵器とだけ伝わったんじゃないのか 君ら自身原子爆弾という強力な新兵器を有していたのだからな 敵が同等の物を持っていると疑心暗鬼になってしまった ところが蓋を開けてみたらびっくりだ 箱に小動物を詰め込んだ訳のわからんものだったんだからな 逆に原爆投下の真実を世界に隠蔽しなくちゃならんくなったんじゃないのか そんなものの為に核兵器を使用しましたとは流石に言えんだろう 」

「 政府や軍が何かを隠したがっていたのは事実よ 私たちもその為の任務だと思ってたわ でも箱が回収されて事態は変わった 国から極秘裏にチームが送り込まれて移送艦隊が編成された 只事じゃないわ 」

「 お前たちの国は何を知ってたんだ 」

「 それがわからないから困ってるんでしょ 言ったはずよ 関係者は艦隊と一緒に消えたゃったの 鳥迫月夜だけが残された唯一のキーワードなのよ 私たちは今 上からの指令で動いているわけじゃない 国はそれどころじゃないからね ただ 私は知りたいの 私たちが関与したあの箱が何なのか 何百万人もの命が犠牲になったあの津波が何だったのか お願い教えて鳥迫月夜 」

 石黒ありさは目を赤くして懇願する。まるで自ら贖罪を求めるように、だが私はその答えを持っていない。

「 無茶を言うな ツクは何も知らん 勝手に巻き込まれただけだ この前まで生死をさまよっていたんだぞ 」

「 あの ちょっといいかな 」

 ピリピリしたムードの中、悠吏が場違いなお気楽な声を出す。

「 何よ あんた部外者なんでしょ 引っ込んでなさいよ 」

 案の定 ありさに怒られた。

「 だって 意味わかんないじゃんか 津波は単なる自然災害しょ 」

「 お前バカか 話し聞いてたろ なんでそうなんだよ 」

「 やめなさい マスターに向かってバカだのクズだの役立たずだの本当の事を言うのは私が許さないわよ 」

 トーマの言葉に返し、ユキが刀の柄に手をかける。ユキちゃん、私はあなたのことがよくわかんなくなりました。

「 だぁかぁらぁ 自然災害は自然災害なんだよ 元々葛籠に封じ込められたものはそういうものなんだよ かつてこの国の人々は自然災害や過酷な自然環境を畏れとした そして畏れに名を与え具現化することにより本来対処しようのないものを対処出来得るものへと変容させた 生き抜く為の 乗り越える為の 立ち直る為の知恵だ それらを畏れとすることで信仰することも出来るし味方になってもらうことだって出来る そもそも葛籠の中のものはそういうものなんだ 元が自然災害である以上 経緯がどうであれ自然災害は自然災害なんだよ 」

「 それじゃ納得出来ないのよ 」

「 それは関わってしまったが故のありさの個人的な問題だろ 」

「 私の個人的な問題 」

「 ああそうだ 関係ない人にとってはどうでもいいことだ 例えば君たちに対立する国や宗教の人たちは何と言っている 天罰が下った 私たちの祈りが通じた そんなの関係無い人にとってはどうでもいいことだ 好きに言わせとけばいい 関係無い人々にとっては あれは単なる自然災害なんだよ 」

「 じゃあ私はどうすればいいの 」

「 個人的な問題は個人的に解決するしかないだろう 実際わかってるはずだ だからこそ自己判断で動いてるんだろ 」

「 それは……

「 問題なのは起きてしまった事じゃなくって今起きてる事だ 」

「 どういう意味だ ユウリ店長 」

「 第1期混沌世界 葛籠がトリガーとなっている 」

「 何が言いたいんだ ユウリ店長 」

「 まだ終わっちゃいないってことだよ 続きがある 」

「 津波は単なるトリガーで今からが本番だって言いたいの 」

「 そうだありさ 葛籠の契約は何れ果たされることはわかっていたんだろう 契約とはそういうものだ そしてその時のことも予め決められていた じゃなきゃこの国の対応は迅速すぎる 」

「 確かに新政府樹立から国連離脱 条約の破棄までの流れはまるで用意されたシナリオに沿ってるような違和感は感じたわ 」

「 ちょっと待て じゃあ俺たちは最初からこの国に嵌められたっていうのか 」

 トーマが興奮気味に拘束された椅子から身を乗り出す。

「 それはちょっと違うだろう 葛籠を勝手に持って帰ったのは君たちなんだからね ただ葛籠の契約がどこかで発動することだけはわかっていた それが100年後なのか500年後なのかはわからないがね そしてその時どうするかは以前から決められていた 今はそれを実行してるだけなんだと思うよ 」

「 随分と気の長い話しだな そんなことして何になンだよ 叩き潰されて終わりだろうが 実際何時国連軍が動いてもおかしく無い状況じゃねェかよ 」

「 トーマもこの国で生まれ育ったならわかるだろう これが国と呼べる代物か こんなの国じゃない 単なる日本という場所だ このままでは何れ日本人はいなくなるだろう そして かつて日本人という民族がいた日本という場所だけが残る 日本民族の墓標としてな 民族として存続するには再び牙を持った国を立ち上げるしかないんだよ 」

「 ユウリ店長の言ってる事はわかる わかるがやり方が少々強引すぎないか これじゃあトーマ君の言うように潰されるだけだ 」

「 そうならない為の世界の混沌なんだろう 」

「 じゃあ この第1期混沌世界もシナリオの一部だというわけ 」

「 そうだありさ そして続きがあるはずだ 」

「 それは何なの 」

「 知らないさ いいじゃないか好きにやらせとけば 混沌世界でも蒟蒻ゼリーでも関係ないさ この国が何もしなくても戦争も紛争も無くならないんだから 何かしたって大差無いだろう そりゃ一時的に死者は増えるかもだが歴史的には誤差の範疇だ 僕は月夜君さえ無事ならそれでいい 」

 ちょっとたんまたんま、大人しく話しを聞いてたら突然何言ってるんですか、そりゃ嬉しいけど、みんなの前でそんな事言わなくったって。

 悠吏は私のことを本当はどう思っているんだろうか。

「 私もユウリ店長と同じだ 世界だの日本だのどうでもいい 」

 小夜さんまで。

「 わかったわ 月夜を連行するのは諦めてあげる その代わり私たちと情報は共有する それが条件よ 」

「 店長 この女 ミノムシ状態で何言ってるの 斬ってもいいですか 」

「 まあ待てユキ君 小夜さんどうしますか 」

「 私たちとしても情報はもっと欲しい 拘束は解いてやってくれないか 」

「 わかりました ユキ 警戒は怠るなよ 」

「 任せなさい 」

 海乃と悠吏でありさとトーマの拘束を解いていく、ありさはともかくトーマの方はどう動くかわからない不安はあったのだが 取り敢えず大人しくしているようだ、ありさの指示がない限り無茶はしないようだ。

 拘束を解かれ自由になったありさが室内を見渡し ある一点で硬直する。


「 ちょっと待ちなさい 何でこれがここにあるのよ 」

「 私もそれについては詳しく聞きたいんだがユウリ店長 」

 ありさに続いて小夜も悠吏を見遣る。


「 取り返してきたんすよ 葛籠は持ち主の所に在るべきだ 」


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