第6話 暗中模索
「 あまりにも想定外すぎてこれじゃ話にならんな もう少し現実的に深刻な問題を覚悟していたんだが これじゃあ些か拍子抜けだ 」
「 なんでです班長 俺今でも震えが止まんないっスよ 凄い話じゃないですか 」
「 百目奇譚で扱うネタとしてならな 最高級のネタだ だが現実的に解決しなければならない直面した問題としては0点を点けるしかない こんな話 どうやって解決しろと言うんだ 」
オカルト誌百目奇譚編集部のオフィスで密談をしているのは私、
私は、先日亡くなった祖父から生前の死の間際に聞かされた奇怪な話を三刀と海乃に話し終えたところだ。祖父の話は途中からスマホでボイスメモしてあったので、後から何度も聞き直し要点はしっかり頭に入っていた、2人には出来るだけ忠実に話す事が出来たと思う、自分で考察した事や感想もちゃんと話した。
「 私もツクの考えにほぼ同意だな 昔 何かで見知った話が現実の話に混線しているように思えるし 仮にすべて事実だったとしても原爆投下は単なる最悪の偶然なのだろう ちょっとまとめてみよう 」
三刀小夜はそう言うとホワイトボードに書き始めた。
1
2 特殊任務に携わる
3 中国地方山中で小動物を捕獲
4 小動物を葛籠に入れ広島に移送
5 敵に情報漏洩
6 広島から長崎に葛籠を移送
7 広島に原爆投下
8 長崎到着
9 長崎に原爆投下
10 終戦
11 特級戦犯として指名手配
12 逃亡
13
14 月㮈と上京
15
16 トリオイ製薬起業
17 鳥迫に改名
18 現在も葛籠を所持
「 じいさんの話をすべて事実と仮定したならば 抜き出す事の出来る事実はこれだけだ ただ 11の特級戦犯の話は人から聞いただけで事実かはわからない で 何か気になる事は 」
「 やっぱり5〜9の原子爆弾投下のとこですね 」
小夜の言葉に私は返した。
「 そうだな 11〜17の月㮈とのロマンスとトリオイ起業は無視していいだろう 2〜4の
「 班長 これが事実ならやっぱり偶然に原爆投下と重なったって言うのはちょっと出来過ぎなんじゃないっス 」
「 偶然なんてものはたいがい出来過ぎているんだよ だが 偶然じゃない場合も当然考慮しなくちゃならない 」
「 その場合どうなるんっス 」
「 こう考えてみてはどうだろう 敵側に伝わった情報は 戦局を覆すだけの最終秘密兵器を日本は持っている とな 」
「 なるほど 敵の最終秘密兵器を自国の最新型秘密兵器で先に叩くってことっスか 」
「 まさかその秘密兵器が鼬だかの小動物だなんて夢にも思わないだろう 」
「 もしそんな可愛いやつが敵国からホワイトハウスに贈り届けられたら平和的に戦争終われたかもしれませんね 」
「 ツク 鼬は屁をこくぞ しかもスカンク級のやつだ ある意味毒ガス兵器だ 大統領の逆鱗に触れてこの国は滅ぼされたかもしれんぞ 」
「 マジですか 」
「 でだ これはあくまで じいさんの話に整合性のある合理的な考察をしただけの話だ 真実とするにはやはり無理がある 」
「 ですよね 」
そうなのだ、祖父の非現実的な話に現在的な解釈を付ける事はいくらでも出来てしまうのだ。だが、それらは真実ではないのだ。
「 そもそも この話には根本的におかしな部分がある 」
「 なんっス 班長 」
「 1だ じいさんは酉狩清次では無く鳥迫秀一なのだよ そもそもそこが違うじゃないか 年齢も合わない まずそこを疑うべきじゃないのか 」
「 でもそこを否定したら話しが終わっちゃうっスよ 」
「 そうでも無いぞ海乃 もし酉狩とじいさんが別人なら改名前の鳥追秀一は月㮈と一緒に鳥追家にいた事になる そしてそこへ酉狩が訪ねて来た そこで酉狩からこの話を聞かされ葛籠を預かった 当時 秀一は10歳前後のはずだ ツクの話から秀一は敗戦と言うものにかなりのショックを受けていたようだ そんな少年秀一には酉狩の話は衝撃的だったんじゃないだろうか そして強く深く刻み込まれた 」
「 じゃあ おじいちゃんが実体験したんじゃなくって 酉狩から聞かされた話をいつしか自身の体験した事のように思い込むようになってしまったと 」
「 まあそんなところだ それがいつからかはわからんがな 月㮈さんはすべて知っていたはずだから月㮈さんが亡くなった後となるだろう その少し前に真月も失っているしな 精神的ショックは相当デカかったはずだ 」
「 そっか おじいちゃんが体験した本当の話として聞かされるから変になっちゃうんですよね サヤさんの言う通りに おじいちゃんが聞いた本当か嘘かわからない話だったのならそんなに深刻な話でもない気がしてきました 」
「 じゃあ そもそもが酉狩の作り話ってことっスか 」
「 さあな 真意はわからんさ なんせ1世紀前の話なんだからな 結局ここで何をグダグダやったところで推察の域は出ん 相手はあの鳥迫秀一だ まだなんか裏があるような気がしてならんのだ 」
三刀小夜はそう言いながらPCのキーボードにトリカリキヨジと打ち込みクリックする。
( ちッ ミスったか )
咄嗟に小夜はPCから伸びたコードをまとめて強引に引き抜いた。
編集部内のネット回線は海外のサーバーをいくつか経由しており辿れないようにしてある。
( クリックした瞬間に指先から伝わった嫌な感触 これは良くない感触だ 私はこの感触を知っている これは昔 親友を失った時に電話越しに伝わったあの感触と同じだ )
「 班長 どうしたんス 」
爪を噛む小夜を海乃が心配そうに覗き込む。
「 いや なんでもない 特級戦犯なんて言う訳のわからんワードが出て来た以上慎重にいこう ネットは一切使用禁止だ と言っても手遅れか 」
「 はい もうググりまくっちゃいました テヘ もちろん成果はゼロです 」
「 年寄りはこのへんの若者事情がわかってないから困りものだ まあツクのスマホからなら大丈夫だろうが 海乃 新しい端末を出してやれ あと古いのの処分も頼む 」
「 了解っス 」
「 ちょっとたんま 私のスマホって何 」
「 バカ トリオイの跡取りが市販のスマホなんて使ってる訳ないだろう 心配するなプライバシーは極力保護されてる 」
「 きょ きょ 極力って 全面的に保護されてないって事ですよねぇ うっ うっ 訴えてやる 」
「 で ツク どういう段取りになっている 」
「 むぅぅ … 場所は東京近郊のおじいちゃんの私有地です もう私の私有地になってるんですけど 車田さんに聞けばわかるそうです あと鍵も車田さんが持ってるらしいです 」
「 そう言えば車田のおっさん何してるんっス 」
「 おじいちゃんがこの件では車田さんには頼るなと 」
「 奴は答えのわかってる問題を解決するには有能な人間だが答えのわからん問題にはまったくの役立たずだ じいさんはよくわかっている 」
「 使えないおっさんだぜ 」
「 とにかく現物を見んことには話にならん ご開帳させてもらうか 鬼が出るか蛇が出るかではなくて神が出るか鼬の骨が出るかだな 」
「 でも神様なんて本当にいるんですかね 」
「 ツク何を言ってる お前は既に会っているじゃないか 」
「 えっ 」
そうだ私は2年前に神様に会っているのだった。
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