第5話 「先生。」

「先生。」


「……」


「先生!!」


「あ…え?」


「回診のお時間です。」


「あ…ああ、そっか。悪い。」


 ふぬけ。

 空と別れて一週間。

 俺はナース達から『嘘つき』の称号をいただいた。


 佐野君の態度は特に冷たい。

 沢渡君を玩んでいたと思われたらしい。

 まあ、そう思われても仕方ないよな。

 全ては良かれと思ってした事でも、どれもこれもが誤解を生んだ。


「は…」


 溜息を吐きながら回診に向かう。


 空は…富樫って奴と一緒になるんだろうか。

 まあ…妥当だよな…

 仕事も分かり合える立場だろうし…

 俺はー…もう空以外の女なんて考えられない。

 こうなりゃ、一生独身を通してやる。


『外科の朝霧先生、外科の朝霧先生、大至急緊急外来にお越しください』


 廊下を歩いてると、緊迫感漂うアナウンス。

 何となく天井を仰いでしまうと。


「先生!!」


 佐野君が走って来た。


「埠頭で爆発事故があって…」


「急げ。」


 佐野君と、階段を走る。


「先生…患者さんの名前、分かるだけで8名入ってるんですが…」


「それがなんだ。」


「…二階堂空さんの名前、入ってます。」


「…え?」


 一瞬、足が止まった。


「先生、早く!!」


「あ、ああ…」


 佐野君に促されて、また走り出す。

 空が?

 爆発事故?



「わっちゃん!!」


 緊急処置室にたどり着くと、ボロボロになった海が俺にすがり付いて来た。


「空を…助けて…」


「分かってる。分かってるから、おまえも向こうで治療受けて来い。」


 海はそれだけを言うと、他の医者の腕の中に倒れ込んだ。


「……」


 治療室に入ると…思わず足がすくんでしまった。


「…空?」


 ストレッチャーには、血だらけの空。


「先生!!」


 はっ。


「このままCTかけて、オペの準備、麻酔科の先生に連絡取って。」


「はい!!」


「あと、まだ運ばれてくる中にも重傷者がいるかもしれないから、応援頼んで。」


「分かりました!!」


 ナース達が機敏に動いてくれるおかげで、俺も少し冷静になれた。

 空…

 逝くなよ…。


 * * *


「私のせいなんです…」


 富樫とかいう奴が、空のベッドの横でうなだれた。


「…自分を責めないで。」


 織さんが、富樫を慰める。

 空の怪我は思ったよりも軽かった。

 外傷が酷いわりには、骨折や内臓の損傷も少なく、細かい傷の縫合に手間取ったものの…すべて無事に終わった。

 ただ、全身打撲によるショックがどれほどの物だったのか…

 手術から三日。

 空はいまだに目を覚まさない。

 このままだと…


「あんな初歩的なミス…」


 どうやら、富樫のミスを空が庇って…


「あ…」


 ふいに、富樫の横に座っていた海が声をあげた。


「空。」


 みんな、一斉に空を見る。

 目が…開いた。


「良かった…」


 しきさんとたまきさんが、顔を見合わせる。


「失礼。」


 俺は空の手首を取る。

 脈は…正常。

 反応も……うん。


「聞こえるかい?」


 空の耳元、小声で言うと。

 空は小さく頷いた。


「良かった…心配したのよ?なかなか起きないから…」


「大丈夫だ。ここは病院。わっちゃんが手術してくれたんだぞ。」


「お姉ちゃん、良かったね。」


 みんながそれぞれ空に話しかける。

 当の空は、ボンヤリとしたまま部屋の中をゆっくり見渡した。


「……」


 …まさか…


「わっちゃん?」


 みんなの間に割り込んで、空に言う。


「自分の名前を言ってみなさい。」


 俺の言葉に、一瞬みんなは笑ったけど。


「……」


 空が、何も答えない。


「…わっちゃん…どういう…」


「自分の名前、言えるか?」


 再びの俺の質問に、空は不安そうな顔で俺を見て。


「…分かりません…」


 小さくつぶやいた。



 * * *


「次の患者さん呼んで。」


 外来。

 カルテを書き込みながら、佐野君に言うと。


「はい。あ…」


「何。」


「二階堂さんです。」


「…空?」


「はい。」


「…呼んで。」


「はい。」


 空は一週間前、一ヶ月の入院生活を終えた。

 外傷は割とすぐに治ったし、脳波や頭部CTにも異常はみられなかった。

 でも…まだ何一つ思い出してない。



「どうぞ。」


 佐野君が、カーテンの向こうから空を連れてやって来た。


「どうした?」


「…怖いんです…」


 俺の前に座った空は、おどおどしながらそう答えた。


「…怖い?」


「はい…」


「何が?」


「みんなが…あたしを作り直そうとしてるみたいで…」


「……」


 佐野君と顔を見合わせる。

 実は…退院の日、海が言った。


「もう危険な仕事はさせたくないんだ。」


 それが何を意味するのか。

 二階堂の仕事とは、無縁だったと伝える気だろう。

 そして、全く別の人生を用意する。


 俺はその意見に反対はしなかった。

 俺だって、空に危険な仕事はしてほしくない。

 でも…それは、俺と空は一生『先生と患者』という関係だけになってしまうという事なんだよな…

 それでも仕方ない。

 もし、俺の事を思い出しても…辛い思い出しかないはずだ。



「…それじゃいけないのか?」


 俺の言葉に、空はゆっくり顔を上げた。


「言ったろ?すぐには思い出せないって。それに、もしかしたら思い出さない方がいい事だってあるかもしれない。」


「先生。」


 佐野君が口を挟む。


「いいから。」


 佐野君を制して、続ける。


「みんなは本当に君の事を愛してるんだ。作り直そうなんて思ってないよ。ただ、接し方が分からないんだ。今までと違うんだから。」


「…そう…ですよね…」


「うん。他に調子の悪い所は?」


「左腕が…ズキズキしちゃって…」


「左腕?この間の傷?」


 空のシャツの袖を捲し上げる。


「ここの傷が…ズキズキしちゃって…」


「……」


 これはー…

 前に俺が縫合して…

 温泉旅行をすっぽかして、拗ねた空が酒飲んで温泉に浸かって化膿してしまった傷。


「…押さえたら痛い?」


「いいえ…寝てたり…考え事してると…」


「……」


「先生、どうしますか?」


 佐野君に言われて、我に返る。


「ああ…薬を塗っておくから。もしまた痛むようなら言いなさい。その時は薬を出してあげよう。」


「…はい…」


 空の腕に、佐野君が薬を塗り込む。


「じゃ、お大事に。」


「…ありがとうございました…」


 空が立ち上がる。


「あ。空…ちゃん。」


 カルテに書き込もうとして、空を呼び止める。


「…はい。」


「一人で来たのか?」


「…はい。」


「車で?」


「タクシーで来ました。」


「そんなに無茶するな。誰かに迎えに来てもらえ。今電話するから。」


 俺が海に電話しようとすると。


「先生。」


 空が、それを止めた。


「?」


「…一人に、なりたいんです。」


「……」


「少し、一人でいたいの。」


 あまりにも真っ直ぐな目で言われて。

 俺もつい受話器を置いてしまった。


「…じゃ、ちゃんと家に帰るんだぞ?分かってるな?」


「はい…」


「よし。」


「失礼します。」


 空がカーテンの向こうに消えて、佐野君が。


「先生…」


 後ろから低い声で言った。


「何。」


「どうして…言わないんですか?」


「何を。」


「先生、空さんと付き合ってたんでしょ?」


「……」


「あんな心細そうな目で…かわいそうじゃないですか。」


「…俺との事を思い出したって、いい事はないからな。」


「先生…」


「すっぽかしてばかりで、嫌な思いをさせてた。こんな男より、いつもそばにいて守ってくれる奴の方がいいさ。」


「……」


「さ、次の患者さん呼んで。」


 空のカルテを佐野君に渡して、俺は次のカルテを手にする。



 …その方がいい。

 自分に言い聞かせながら…。



 * * *


「いらっしゃいませ。」


「……」


 どうしてあたし、ここに来たのかな…

 病院帰り。

 先生には家に帰れと言われたけど…

 何となく、あたしの足は…このお店に向かった。

 カナール。

 何だろう。

 ちょっと懐かしい感じ。


「ご注文お決まりでしたら…あ、お久しぶりです。」


 水を持ってきたウエイトレスさんが、あたしの顔を見て言った。


「感じが変わられたから、すぐには分かりませんでしたよ。お元気でしたか?」


「……」


「…え?」


 あたしが、じっとその人を見つめてしまったせいか。

 怪訝な顔をされてしまった。


「あの…」


「はい…?」


「あたし、ここに…よく来てましたか?」


「…え?」


「変な事聞いて、ごめんなさい。でもあの…あたし…記憶喪失で…」


 ウエイトレスさん、少しだけポカンとしてる感じに見えた。

 何か…

 思い出せるキッカケがないかな…


「あの…あたしの事、なんでもいいんです。知ってる事があったら…教えていただけませんか?」


 意を決してそう言うと、ウエイトレスさんは少し困ったような顔になって。


「…ちょっとお待ちくださいね。」


 カウンターの奥に消えた。

 その間、あたしはゆっくりと店内を見渡す。

 …あたし、どうしてここにきてたんだろう?


 きょろきょろしていると、本棚がある事に気付いた。

 …本…

 あたしは本棚に近付くと、一冊を手にした。

 パラパラとめくって、そして…窓際の一番奥の席に座った。

 すると、そこからの景色はなかなかの物で。

 本を片手に、だけど景色も見たくて…結局本は表紙を開いただけで手は止まったまま。


「あの…お客様…」


 声をかけられて、景色から店内に視線を戻すと。


「お邪魔して宜しいですか?」


 エプロンを外しながら、清潔感のある女性が言った。


「…はい。」


「失礼します。」


 あたしの向かい側に座った人は、シャツの胸に『江藤えとう』とネームがあった。


「お客様、記憶がない…と、先ほどスタッフが…」


「…はい。」


「それで、ここには?」


「…何となく、足がここに向いて…あたし、ここによく来てましたか?」


 勝手にテーブルを変わったから、ウエイトレスさんが水を持ってきてくれた。


「あ…すみません。」


 早速、水を一口。


「はい…よく来られてました。」


「一人でしたか?」


「そうですね…いつもお一人でいらしてました。でも…」


「…でも?」


「誰かをお待ちだったのだと思います。」


「…誰かを待ってた?」


 意外な言葉だった。

 あたし、誰かを待ってた?

 待つような相手がいた?


「いつも、この席に座られて…外を眺めながらコーヒーを飲まれてました。」


「……」


「実は…あたし達スタッフの間でも、噂になってたんですよ。」


「え?」


「お客様、いつも一人で来られて、この席に座って…本を読んだり景色を眺めたり…そして、ある場所をじっと見て席を立たれる事が多かったので。」


「…ある場所…」


「本当は、勝手にこんな想像してはいけないんでしょうけど…お客様がとても優しいお顔をされてお店を出て行かれるので、きっと彼氏がこの近くに住んでらして、いつもそれをお待ちになられていたのだろうと…」


「……それは、どの辺りですか?」


 あたし、席を立つ。

 江藤さんはあたしが座っていた場所に来ると。


「おそらく…あのマンションか、あちらのマンションかと。」


「どうしてですか?」


「あのグレーのマンションは、エントランスがよく見えますよね。でも、あのレンガ色のマンションは、ガレージが見えるんです。」


「……」


「すみません…お客様を観察してたみたいで…」


「…いいえ、すごく…助かります。」


「え?」


「あたし、本当に思い出したくて…」


 でも、誰も教えてくれなくて。という言葉は飲み込んだ。

 教えてくれないという事は、あたしには不利益な事なのだと思う。

 それを言うと…このお店の人達も、何も教えてくれなくなる気がした。



「…もし思い出せなくても、またいらしてくださいね。」


 江藤さんは、あたしの手を取って言ってくれた。


「ここはお客様にとって、一人になれる場所だったんだと思います。」


「…一人になれる場所…」


「はい。ですから、また。是非、いらして下さい。」


「…ありがとうございます。」


 それからあたしは、いつも飲んでいたらしいコーヒーをいただいた。

 ここがどこかもよく分かってないのに、勝手に足がここに向いた。

 あのマンションも、そのマンションも。

 全く覚えがないのに。




「……」


 コーヒーを飲み終えて、マンションのエントランスに来てしまった。

 グレーのマンション…

 部屋番号の下に、名前が書いてある。

 …見覚えがある名前は…ない。

 て言うか、普通過ぎる名前が多くて検討つかない。


 続けて、レンガ色のマンションのエントランスにも行ってみた。

 だけど…

 ここは、部屋番号だけ。

 こっちの方が高級っぽいな…

 各階にある部屋が少ない。

 ガレージにも行ってみたけど、何もピンと来なかった。



 …彼氏…

 あたしに、そんな人いたのかな。

 でも、じゃあどうして名乗り出てくれないんだろう?


 マンションを出て、トボトボと歩く。

 …家って、どう帰るんだっけ…

 とりあえず…タクシーを降りた線路沿いの道に出てみよう。



「空!!」


 線路沿いの道に出て歩いてると、大声が聞こえた。

 だけど、まだそれが自分の名前のようには思えなくて…


「空!!」


「……」


 そうだ。

 あたしの名前だ。と思って振り返ると。


「…先生…」


「何やってんだ!!ちゃんと家に帰るって約束しただろ!?」


「…ごめんなさい…」


 先生の剣幕に、圧倒されて謝る。


「ああ…すまない…怒鳴ったりして…」


 先生は前髪をかきあげながら、うつむいた。

 …すごい汗…


「…先生、あたしを探して…?」


「家から電話があったんだ。帰って来ないって。」


「……」


「もう八時だぞ?どこ行ってた?」


「……」


「ん?」


「…コーヒーを飲みに…」


「……」


 あたしの言葉に、先生はキョトンとしてる。


「どこに?」


「…よく分からないんですけど…足が向いたので…」


「…そっか…それはいいとして…」


「そこに…あたしを知ってる人がいました。」


「…え?」


「あたし、いつも誰かを待ってたそうです。」


「……」


「誰かって誰なんだろう。その人が言うには、彼氏じゃないかって。でも…じゃあどうして、彼氏はあたしに何の連絡もしてくれないんだろうって…」


 あたしが淡々と打ち明けると、先生は小さく溜息をついて。


「…君の彼氏は、富樫君じゃないのか?」


 って…


「…富樫さん?うちにいる…あの人ですか?」


「ああ。」


「でも、あの人…一言もそんな事…」


「言いたくても言えないんじゃないかな。怪我させたのは自分だって思い込んでるみたいだから。」


「…あの人が…」


 富樫さん…

 確か、あたしと同じ年で、いつもそばにいてくれる人…


「さ、帰ろう。」


 先生があたしの背中に手を添えた。

 少しだけ何かが引っかかるのを感じながら。

 あたしは、先生とタクシーに乗った。



 * * *


「ちょっと…いいですか?」


 家に帰ると、ちょっとした騒ぎになっていた。

 だけど、一緒に来てくれた先生がみんなをなだめてくれて…

 なんだか疲れたし、休もうと部屋に入ると。

 二階堂にお勤めの高津さんの奥さん、こうさんという人が来た。


「はい…」


「実は…私も記憶がないんです。」


「え?」


「目が覚めたら、何も分からなくて…不安で…そしたら、うちの主人が一緒に暮らそうって言ってくれたんです。」


「…今も…記憶は?」


「戻ってません。でも…いいんです。」


「……」


「最初は、記憶を取り戻す事に必死になりました。でも…日常がとても穏やかで…幸せで。じゃあいいかなって。」


「…怖くないですか?自分で自分の過去を知らないって…」


 あたしの問いかけに紅さんは優しく笑って。


「怖かったです。今でも時々わけの分からない夢にうなされる事があります。」


「……」


「でも、そんな時は、優しく包んでくれる家族がいますから。」


 …優しく包んでくれる家族…


「お嬢さん。」


「…はい。」


「大丈夫ですよ。みんな、お嬢さんの事、大切に想ってますから。」


「……」


「何か不安な時は、いつでも話してください。話し相手ぐらいにしかなれませんが…」


「…ずっと、何かが引っかかってるの。」


「何か?」


「それが分かったら、記憶が取り戻せそうなのに…でも、あたしが思い出すのは…いけない事なのかな…」


「どうしてですか?」


「みんな、あたしに昔の事を話してくれない。」


「……」


 紅さんは少しだけうつむいて。


「お嬢さん…実はね…」


 低い声で言われた。


「私の時も、誰も何も教えてくれなかったんですよ。」


「え…?」


「だけど、それは…きっと昔の事は思い出さない方がいい。そういう判断があったんだと思うんです。」


「…どうして?」


「…時々…見る夢は、とても残酷です。」


「……」


「私はきっと…人として、してはいけない事をやって来た人間なんだと思います。」


こうさん…」


「お嬢さんは私とは違います。立派な方です。でも、ご存知の通り…私達は危険な仕事をしています。だから、『教える』んじゃなくて『思い出す』までは何も…ってお考えなんじゃないですか?」


「……」


 何となく…これ以上話す気になれなかった。

 紅さんに、辛い事を話させてしまった。


「紅さん、ありがとう。あたし…ちょっと焦ってたみたい…」


「いいえ、私は何も。どうか、ゆっくりお休みください。」


 紅さんはそう言うと、階段を下りて行った。


 …教える、じゃなくて…思い出す…

 確かに…そうなのかもしれない。

 それなら、あたしを知ってる誰かに何かを聞くより…

 自分の感覚を信じた方がいいのかもしれない。



「……」


 あたしは別宅に歩いて、二階の角部屋、ネームプレートを確認してノックする。


「…はい。」


 声と共に、ドアが開いた。


「…お嬢さん…」


「…ちょっといい?」


「あ、はい…」


 先生の言った、あたしの彼氏。

 富樫さんなのかどうか。


「…あたしと、付き合ってた?」


 いきなり核心に触れた。


「えっ…あ…いえ、付き合ってません。」


「…あたしに、恋人っていたと思う?」


 あたしの問いかけに、富樫さんはじっとあたしを見つめて。


「…いなかったと思います。」


 小さく答えた。


「……そうなのかな…」


「私は、大学時代から…ずっとあなたを見て来ました。」


「……」


 肩を掴まれる。


「怪我をさせておいて…こんな事を言うのはおこがましいと思います。でも…」


「……」


「…あなたを、守りたい…」


 唇が、近付いた。

 富樫さんは、あたしの護衛もしてくれてるし…優しいし…

 父さんだって、最初は母さんの護衛だったって聞いた。

 それから恋に落ちて…


 唇が、重なった。

 このまま…この人を好きになったら…

 あたしも、紅さんみたいに…記憶は戻らなくてもいいって思うのかな…


「……違う…。」


 唇が離れて、あたしはつぶやいた。


「…え?」


「違う。あなたじゃない。」


 違う。

 こんなキスじゃなかった。

 あたしの彼氏は…



 いる。


 とろけてしまうような、キスをする男。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る