第6話 どうして化粧をするのか

 運動会の日、クラスメイトが化粧をしてきた。周囲がざわついた。ギャルならまだしも、成績トップクラスの涼子だった事に二重にざわついた。

 涼子は先生に呼び出された。気になったのと心配なので、私と亜希子は、こっそり後をつけた。


 校舎に入り玄関を少し進み、曲がり角になっている所に、涼子と先生はいた。私たちは角に隠れながら、耳をすませた。


「これは、日焼け止めとして塗ってきました」涼子はきっぱりと云った。

「それなら、口紅をつける必要は無いんじゃないのか?」体育担当の先生は、少し苛立ったように云った。日頃から、生徒相手に威張っている、気に食わない先生だ。


「それだとバランスが悪いからです。それにこれは口紅ではなく、リップです。UV効果入りの」あくまで日焼け止めだと、涼子は主張していた。

 先生は、親に……と云いかけた所、涼子に遮られた。

「親に連絡してもいいですよ、公認なので。あとは先生と親で話し合ってください」涼子はそう云って、当然のように玄関に向かってきた。


「涼子」私たちは、涼子に駆け寄った。私たちには、涼子がとても大人びて見えた。


 運動会は開会式を終え、体操を終えて、これから第一競技が始まる様子だ。

 私たちの出番はしばらく無いので、応援に専念する。

 後ろの方が、騒がしい。見ると、さっきの体育の先生が、男子生徒と向かい合って立っていた。


「男が化粧なんてしてどうするんだ!」先生は又怒っていた。

 男子生徒も恐らく、日焼け止めとして塗ってきたのだろう。もううんざりだ。日焼け止め位、いいじゃないか。

 すると涼子が、先生と男子生徒の近くへ駆けて行った。


「先生、さっきは女にも化粧をしている事で文句を云っていましたよね? それが今度は、男限定で化粧を否定している。どういう事ですか?」

 涼子はわざと大きい声で叫んだ。周りがざわついてくる。わざと騒ぎを大きくしようというのだ。

 さすが涼子、こうでもしないと、頭の固い大人たちは、いつでも問題を見なかった事にする。


 しかし、どうして女の人は化粧をするのだろう。

 どうして男の人の化粧は咎められるのだう。


―実際に化粧をしている人たちを、見てみましょう。ナレーションが、響いた。


                  〇


【どうして化粧をするのか・泉の場合】


 泉、二十一歳。泉が化粧をするのは、「綺麗になるため」だそうです。

「妻が綺麗だと、一緒にいる夫も嬉しいでしょ」泉はそう信じているようです。

 男の人の好みや、同性に嫌われない化粧を心掛けているそうです。

 意外な事に、泉は、今まで化粧には無頓着でした。

 元々の顔立ちが派手なので、そんなにメイク熱心になる必要が、無かったのだと思われます。

 最近付き合いのあるママ友が、プチプラコスメの話題をするので、それについていくために、メイク用品に興味を持った様子ですよ。


                  〇


【どうして化粧をするのか・佳代の場合】


 佳代、二十一歳。佳代は「自分が綺麗でいたいから」、化粧をするそうです。

 けれども泉と違う所は「私は私」と、自分がやりたいメイクをする事です。

 

 佳代は色が白いので肌が弱いというイメージのもと、日焼け止めを怠りませんでした。こうして雑誌などで日焼け対策の記事を読んでいる内に、コスメ特集のページに辿りつきました。

 普段あまり表情を変えない佳代は、「化粧をすれば、色んな顔になれる」と思いメイクの練習を始めたようです―。


                  〇


 映像が、いきなり途切れた。


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