第3話 何故結婚するのか(1)

 次の日学校に行くと、昨日のテレビドラマの話題で盛り上がっていた。結婚出来ない、と焦る女の日常を描く内容だ。

 ドラマの主人公は、私たちよりも二十歳位年上だ。こんなに年齢が離れているのだから、主人公の気持ちが解る筈も無い。

 けれども同じ「女」という事で、私たち女子生徒には、主人公の気持ちを議論する権利が与えられている、と思い込んでいる。


「私には解らない、結婚出来ない、って嘆く主人公が」真剣な顔で喋っていたのは、成績がトップクラスの涼子だった。

「どうして? 周りが結婚しているんだから、主人公が焦るのは当たり前じゃないの」と、恋愛体質の亜希子が反論する。


 ドラマって、凄いな。こんなに皆を真剣にさせるんだから。しかも子どもから大人まで。

 映画には人生のエッセンスが凝縮されていると聞いた事があるけれど、テレビドラマにだって近いものがあると思う。こんなに解りやすくて大衆に支持されるものは他に、歌や漫画位じゃないのか。


「そもそも、どうして結婚するの?」私の疑問で、一気に空気が変わった。

 結婚するのは当たり前、と思い込んでいたクラスメイト達は、何故当たり前なのかを考えた事が無かった。皆で少し、考えた。


「結婚して子どもを産まないと、老後一人になるから」誰かが云った。なるほど、色々直結している。つまり出産のために結婚するの? と問いかけたら、彼女は黙ってしまった。

「結婚しないで一人でいると、今後家族が大変だから」違う誰かが云った。そうか、つまり、今いる家族に迷惑がかからないように、結婚するって事? と問いかけたら、彼女も黙ってしまった。


「結婚は、女の幸せだから」恋愛体質の、亜希子が云った。よく聞くフレーズだ。じゃあ、男の人の幸せは?


 考えようとしていたら、頭の中にナレーションが響いた。

                 

―自分たちより年上の人のバージョンを、見てみましょう。


 頭の中にスクリーンが浮かんできた。スクリーンに、徐々に映像が出てきた。


【どうして結婚するのか・泉の場合】


 泉・十九歳。デキ婚しました。最近は、授かり婚って云うみたい。云い方も、歴史があるんですね。

 確かに、授かり婚かも。子宝に恵まれたんだから。泉はそう思っていました。愉しいファミリーです、と自信を持って云える。


「何故結婚するのか」泉が家事を終えてテレビをつけたら、画面から聞こえてきた。


「そりゃ、愛する人と一緒にいたいからよ」泉は一人、テレビに答えた。そしたらテレビの中のママタレントも、泉と同じコメントを発していた。


 朝の情報番組が終わり、昼のバラエティまでの時間帯、こういった緩い議論のような番組が放送される。


「でも、貴方はデキ婚でしょ?」先ほどのママタレントに対して、知らない男性が云っていた。コメンテーターだか何だかという肩書が、テロップに映った。


「子供ができたから結婚するという事は、愛する人は、子どもって事なの?」


「夫も子供も愛しています」ママタレントは、毅然と答えていた。


「何でも愛で片づけるんだね。じゃぁ、愛って何」コメンテーターという肩書を持っている知らない男性は、半笑いで云っていた。

 泉は、見ていて気分が悪くなってきたので、チャンネルを変えた。


「昔から、皆結婚してきたから」泉は一人、呟いた。

「私馬鹿だから、自分の意見開拓とか、無理。先人に倣う方が、多分正しい。結婚する理由なんて、考えた事が無い。小さい時からの夢が、お嫁さんだったんだもん」


 泉はベビーベッドで眠る我が子を見つめている。

「愛しい、大事だ、と思う気持ちに理由なんて要らないじゃないの」泉は、我が子を見つめて再認識した。


                  〇

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