史官の闘い その2
晋の国にて宰相を努める趙盾という人物は、父趙衰が晋という国を大国にした元勲であり、自身の出自も良家ではなかった事から、私生活において身を慎み、徳を積もうと努力する男であった。
彼の人生で最大の汚点は、擁立すべき主君を情によって誤ったことであろう。この主君は、趙盾によって擁立されたくせに、あろうことか趙盾を妬み、排除しようと目論んだのだ。全く愚昧と暗愚と卑劣を混ぜ合わせたような人物だった。
しかし、私生活でも公務でも清廉であり、主君のいたらなさを自分の徳が足りないからだと自省するような人物を排除することは、まず出来ない話だ。そんな少しナルシー入った趙盾が、ますます気に入らない主君は、とうとう殺害する計画を企む。何回かの襲撃ののち、九死に一生をえた趙盾は、それでも反撃する事なく、亡命を選んだ。とにかくも、主君に対して攻撃しない趙盾。しかし、彼は我慢できても彼に心酔する人間はもう我慢ならなかった。趙一族の一人、
一報を聞いた彼は、驚き主君に対して喪を捧げ、急ぎ帰還した。その時、晋の史官に「趙盾、その君を弑す」と簡に書かれた。趙盾は史官に「私は殺害に関与していない。殺さずに亡命しようとしたのだ。」と詰め寄った。しかし、史官は「国境を越えずに帰って来たと謂うことは、貴方は変わらず宰相である。ならば実行犯を誅せねばならないのに、貴方はそれをしなかった。趙穿は貴方の身内なのだから、自分で弑していなくても、趙穿にさせた事と同じではないか」と反論した。
お気づきだろうか?この状況は前話の崔杼とよく似通っていることに。史官の命はこの時風前の灯火だった。最大の権力者に「貴方は人殺しだ」とつきつけているのだから。それでも史官は、自らの命題をなげださなかった。
では趙盾はどう行動したか、彼は「私の心境は誰にもわからないだろう」と呟き、矛を納めたという。ちなみに趙盾の最後もあまり良いものではない。更に彼の孫の代には、一族滅亡の危機に瀕したが、間一髪で趙一族は復活し、隆盛を誇る事となる。ギリギリの所で破滅を回避できたのは、崔杼と違い、天上に唾しなかったためかもしれない。
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