第九話 みんなで仲良く『いただきます』
「出来たね!」
「出来ましたわね」
「完成だーっ!!」
包み焼きアカキカサと野菜の炒め物。
アイシグリィ王国風コロフィッシュのバンズサンド。
ハッコウコトカゲとオニオンのスープ。
主食、副菜、スープと良い感じの品が揃った。
他のグループも続々と完成していく中、ミウ達グループも全ての料理が出来上がった。
「ほうほう、栄養素もバランス良く分かれておるし、どれも良さそうじゃの」
クキリオ先生は満足そうにそれらの料理を見やると、長く伸びた白い髭を撫でる。
気が抜けたようでありつつも、その様子は教員の評価の目そのものであった。
「アカキカサを包み焼きにする事でただ焼いただけでない風味も足しておるな。何で包んだのかの?」
「コウシーナの葉です」
問いかけられ、ミウはそう答える。
コウシーナとは、ミウの故郷の近くでも良く生えている、葉の大きな植物である。
少し塩辛いような香りがあり、本来は花を咲かせる植物であるため、その香りで虫を誘き寄せる特徴がある。
さらにもう一つの特徴として、
「ふむ、火で炙ると香りが豊かになる性質を持っておるからな。それに……ふんふん、ハッコウコトカゲの出汁の香りもするのう」
右手で扇いで香りを鼻まで持っていくクキリオ先生は、髭で隠れた口元を緩ませる。
ミウの方にもその匂いが伝わってくるが、塩分と胡椒を振りかけたような良い香りがする。
ただ野菜とキノコを焼いただけでも美味しいが、コウシーナで香り付けしたのだ。
加えて、焼く前にハッコウコトカゲの出汁をかけているため、味に深みが感じられるかもしれない。
「ピルピィに少し分けてもらって、かけてから焼いたんです。良い感じになるかなって……」
「良い試みじゃの。まあ、アカキカサや野菜の切り方は少し雑じゃが……挑戦をしておるのは良いことじゃ」
微笑んで、次はピルピィの方を見やるクキリオ先生。
「スープも良い出来じゃの。オニオンも柔らかくなって、ハッコウコトカゲの肉と合っておる」
「でしょ? ピルピィは料理得意なんだから!」
彼女が調理したのはハッコウコトカゲとオニオンのスープ。
スープの色は橙と黄色の中間くらいで、軽く浮かぶ油分とハッコウコトカゲの肉が食欲をそそる。
肉はかなり柔らかく、スプーンですくうとほろりと崩れるくらいに柔らかい。
オニオンの風味もスープによく溶け込んでおり、その味も楽しみだ。
「切り方も綺麗じゃの。優等生といった感じじゃ」
「すごーい! やっぱり上手なんだね、ピルピィ!」
「ぬふふん、もっと褒めて良いよ」
「ほっほっ」
クキリオ先生も大絶賛で、他の子達より比較的大きな胸を張って得意げな表情をするピルピィ。
でも実際その通りで、普段の破天荒さとは裏腹にピルピィは包丁の入れ方などが丁寧で、味の調整などもどんなものが最適かが分かっているような様子だった。
料理中の彼女はものすごく真剣で、でも何だかすごく楽しそうでもあった。
そして、キクリオ先生の目が、アイシグリィ王国風コロフィッシュのバンズサンドへと向く。
「さて、次はバンズサンドかの。どういう風にしたのかの?」
「基本的な味付けはわたくしの国のものですわ。コロフィッシュをある程度の大きさにして焼いて、レタスを挟んで、甘辛いソースで味付けしていますの」
そのバンズサンドはコロフィッシュを丸々一匹使い、ソースは濃い赤色の甘辛いものをたっぷりとレタスとフィッシュの間に入れている。
ソースは複数の調味料を混ぜ合わせて作られており、悪く言えば体に悪そうな、良く言えば栄養度外視味覚重視の味付けという感じだ。
ただ、それはキラリエもわかっているようで、
「でも、わたくしの国のソースは栄養のことはあまり考えていないので、少しその辺りを考えて見ましたわ。辛さが少し強めですけれど、美味しさはそのままで栄養の調整ができていると思いますわ」
「ほっほっ、良い着眼点じゃの。わしも色んな国のバンズサンドは食べてきたが、栄養の偏りがある場合が多い。そこを改善することを考えつく柔軟な思考は料理において重要なことじゃ」
そう語るクキリオ先生からは、謎の歴史を感じた。
これだけ高齢な家庭学教員であるなら、それだけ色々な食事に触れてきたのだろうか。
「流石はキラリエくんじゃの。きちんと栄養を考えつつ、味も調整している。手馴れておるのだのう」
「まあ。それなりには……」
「あ〜、キララが照れてる」
「う、うるさいですわよ!」
キラリエの顔が赤くなって口ごもるのを見て、ピルピィがいたずらっぽく笑う。
にしし、と笑うピルピィと、指摘しながらも本気で嫌がってはいないキラリエ。
この授業の最初はそんなに良くなかった仲も、少しだけ良くなっているかもしれない。
ミウはそんな様子を見て、小さく微笑んだ。
「ふふっ」
「ほら、ミウも笑ってるよ!」
「あなた! そうやって人を馬鹿にして……!」
「ち、違うよ。何だか楽しくて……」
キラリエにつっかかられるも、何とか誤解を解く。
彼女が不服そうな表情をするので、何とか説明しようとする。
「こんなに仲良くできるなんて思わなくて……あ、いや、最初から諦めてたわけじゃないんだけど、その……!」
が、それが何だか言葉にするのが難しい。
心の中は、こんなにも嬉しい気持ちで溢れてるのに。
何だかワクワクして、色んな話題で話したい気持ちで溢れてくる。
さっきヴァーサクの森であったことを思い起こしてみんなで笑ったり、共有の趣味についてみんなで語り合ったり。
みんなから、もっとたくさんの話が聞きたい。
自分について、もっとたくさん話したい。
しかも、こうやって食事を囲んで。
「なんか、嬉しくて、それで、その……」
頭の中でたくさん気持ちが浮かんでいるのに、それを上手く伝えるのは難しい。
「……ちゃんと整理してから喋りなさいな。食事が冷めますわよ、早く食べましょう」
キラリエも痺れを切らせたのか、そう告げる。
「そ、そうだよね……」
人と社交的に接するのは、中々に難しいものだ。
思ったことをそのまま伝えるのは出来ていても、上手く伝えるのはまた別の技能なのだ。
(失敗しちゃったな……)
もともと内向的で友達も出来たばかりのミウには、それは確かに難しいことだった。
しかし、隣のピルピィは大きく微笑みながらミウの方を見やる。
「むふふ、ミウってば口下手〜」
「うん……ごめんね」
しょげるミウ。
しかし、ピルピィはミウの両肩をぐいと抱き寄せる。
「んーん。ミウの気持ち、伝わったよ。ね、キララ」
「……まあ、そういうことにしておきますわ」
キラリエも、そう言ってくれて。
ミウは、ぱあと表情が明るくなった。
今回の実習とか、成績には関係のないことなのかもしれないけれど。
でもミウにとっては、本当に幸せな時間になった。
「じゃあ、食べよっか!」
「ですわね」
「うん!」
友達と一緒に作った食事を、その友達と一緒に食べる。
しかも、見知らぬ異国の友達だ。
ミウの中に溢れるこの気持ちは、言葉にするのが難しい。
でも、彼女らはそれを何となくでもわかってくれる。
これも、きっと良い友達の形に違いない。
「────いただきます!」
「────いただきます」
「────いただきまーす‼︎」
それぞれの前に用意した、三種のメニュー。
それらはただただ美味なだけではなくて、自分たちで作ったという意味でも美味しさを感じる。
それに。
気心の知れた友達と食べる食事というのは、特別感のあるものなのだ。
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