第75話、アイドルの受難
ここまでのあらすじ。
私、現役アイドルの詩野愛は、とあるスキャンダルから実家で休業中、ゾンビパニックに巻き込まれてしました。
なんとか生き延びたと思ったら、今度は怪しげな白い服の集団に追われて大ピンチ。
銭湯の煙突へ登って事なきを得るのですが、そこでも謎のコスプレ集団に取り囲まれて、パンツをじろじろ覗かれてしまいます。
果たして、私はいったいどうなっちゃうことやら……。
美少女歌姫、詩野愛。
今回も、張り切っていきまーす!
なんて、懐かしのあらすじ紹介風に振り返ってみるが、今の私の状況は最悪だった。
結局、私のパンツを覗いた男の子は白い服の奴らに殴り倒されて、私も奴らの車へと乗せられてしまった。
これから、どこに連れて行かれるものやら。
せめてメイクくらい直したかった。
これじゃあ、なんのために半日も煙突の上に避難していたのかもわからない。
縞パン、ただ見せじゃんか……。
あー、後であのコスプレ集団にはひとり一万円くらいパンツ代として払ってもらわないと、腹の虫がおさまらない。
私のパンチラは、ビジネスなんだよ。高くつくんだよ。
しかし、あの男の子は思いっきり殴られて昏倒していたけど大丈夫なのだろうか?
怪我、ひどくなければいいけど。
まあアイツ、煙突の上にいる私を心配して助けようとしてくれたわけだし。
そういうファンの厚かましい好意にも、答えてあげないとアイドル失格よね。
とかなんとか思っていると、私を乗せたワゴン車は急にハンドルを切ったのか、大きく車体を傾けた。
「ちょっと、運転くらいちゃんとしなさいよ! 後ろにアイドル乗せているのよ、そこら辺、ちゃんとわかってんの!」
私はいつもの調子で運転席へ文句を言う。
「すみません 。黒猫が飛び出してきて」
運転手はそう弁解した。
黒猫?
そう言えば、コスプレ集団のアリスの格好した子が黒猫を連れていたような……。
そう思った瞬間、車はジグザグに進み進み出して、再び揺れ始めた。
「今度は、なによ?」
いらだちに任せて視線を向けた私は、そのまま固まってしまう。
車のフロントガラスが、真っ黒な毛皮のようなもので塞がれていたのだ。
どうやら、あの時の黒猫がガラスにしがみついているらしい。
すっかり目潰しになった運転手は、振り払おうとハンドルを小刻みに動かす。
しかし、黒猫はまったく離れる気配はない。
乱暴なジグザグ運転が続く。
そして、ワゴン車はなにかにぶつかったのか激しい衝撃とともに停止してしまった。
クラクションの音とともに、エアバッグが開いて運転席を覆う。
私もシートベルトをしていなかったら、前へと投げ出されるところだった。
「あのー、運転手さん? 大丈夫ですか」
声をかけるが、エアバッグに埋もれた運転席は後ろからはほとんど見えない。
私は、歪んだ車のドアをこじ開けて、やっとこさ外へ出た。
すると、アスファルトの上にはブレーキの黒い跡がしっかりついていた。
その手前に、問題の黒猫の無傷の姿がある。
そして、私の顔を見ると不機嫌そうににゃーと一声鳴いた。
「なによ、あんた。事故起こしといて、そんな顔して。謝りなさいよ」
私は黒猫に向かって、そう呟いた。
もちろん、返事が返ってくるはずはないのだが……。
「ふん……。謝ってほしいのは、俺の方だ。あの早希とかいう女が乗っていると思ったのだが、なんだお前は。さっきのパンチラ女じゃないか」
文字通り、開いた口が塞がらなかった。
空耳ではないらしい。
目の前の黒猫は、たしかに人語を話していたのだ。
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