第72話、ナース服の妹
気がつくと俺は、見知らぬベッドに寝転がっていた。
真っ白な壁のまるで病院のような……いや、これは本当の病院か。
部屋は八畳ほどの広さの個室で、枕もとには点滴の袋が下がっている。
俺は、いったいなんでここにいるんだ?
上体を起こして、首を傾げる。
その瞬間、ずきりと後頭部に痛みが走った。
……そういや、俺殴られたんだっけ?
それで、ここに入院しているのか。
長い時間眠り続けていたかのように、どうも頭がうまく働かない。
「……あのー、だれかいませんか?」
とりあえず、廊下の外に声をかけてみる。
すると、俺が目覚めたことに気づいたようで、慌ただしい足音がこちらに向かって来るのが聞こえた。
「目を覚ましたんですね! 良かった……」
そう言いながらナース服の女の人が、俺の部屋へと入ってくる。
俺は、そのナースの顔を見てギョっとした。
その顔は見間違いようもなく、俺の妹、日比谷遊だったのだ。
「遊! お前、遊なのか!」
「お兄さま、私のことがわかるのね」
そう言って、目の前の遊は俺の手を握る。
何かがおかしい。
お兄さま……だって?
遊は、俺をそんな風には呼ばないはずだ。
なんせ月のお小遣いの半分を遊に貢ぐことで、お
今月分のお
いや、それ以前に……。
「あれ、遊。お前なんかデカくね?」
妹のナース服の膨らんだ胸元を見つめて、俺は呟いた。
その膨らみはあきらかにデカい……早希くらいはありそうだ。
というか、全体的に成長している?
中学生だったはずの妹は、俺よりも年上の大人の女性のボディラインになっていた。
ナース服の裾から伸びる太ももは、すっかり成熟した色気を漂わせている。
「それは当然ですよ。十年も立てば、遊も大人になりますよ、お兄さま」
「十年……十年だって?」
困惑する俺の言葉に、十年分しっかり歳をとった大人遊は頷いた。
「お兄さまは、十年前の夏休みのはじめの日にベッドから足を滑らせて頭を打ったんですよ。それ以来、ずっと昏睡状態で……」
……なんだって?
じゃあ、あの夏合宿は、ゾンビ騒動は、全部夢だったというのか?
「ゾンビ? あら、お兄さま錯乱しているのね。そんなものはいやしませんよ」
そう囁いて、大人遊は微笑みかける。
なんだそうだったのか。
遊はそんな昏睡状態の俺を見守るために、看護婦になってこの病院で働いているんだな。
「……って、これ絶対夢だろうが!」
俺は、大人遊の腕を振り払って叫ぶ。
「おい、遊! 勝手に妹属性捨ててるんじゃねえよ! たしかにコスプレ対決でナース服が出てこなかったからちょっとガッカリしてたけど、それはお前の出番じゃねえんだよ!」
「お兄さま! しっかり気をたしかに! ショックなのはわかるけどこれが現実なのよ!」
驚いたように大人遊が、俺へと呼びかける。
「ごめんな、遊。俺はあっちの世界に未練があるんだよ。早希や奏や冷やイヴ、それに瑠花が俺のことを待ってるんだ」
「お
大人遊は、いつの間にかいつもの中学生サイズに戻っていた。
「本当にいいの? 遊を放って、あっちの崩壊した世界に戻っちゃうの?」
「ああ……、俺はあの世界でやることがあるんだよ。瑠花のバカにひとつ言わなきゃならないことがあるんだ」
そう答える俺の視界は、だんだんと白い霧に包まれていった。
それにつれて、俺を呼ぶ遊の声が次第に遠くなっていく。
再び視界が戻ったときに、見えてきたのは殺風景な部屋だった。
資材置き場か、何かだろうか。
がらんとした部屋の冷たい床に、俺は横たわっていた。
起き上がろうとしても、手足が動かない。
手首と足首を縄で縛られているのだ。
俺は、監禁されているのか?
背後に気配を感じて、俺は身体を捻って視線を向けた。
「瑠花、お前……」
そこにいたのは、バニー服を脱いで、あの導きの樹の白い服に身を包んだ道明寺瑠花、その人だった。
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