第64話、ゾンビ使い?
「ゾンビの中に、人間がいた? ……それって、生存者が混じってたってことか?」
俺は首を捻って、冷に聞き返した。
「いや、そうじゃなくて……なんて言えばいいんだろう。……そうだ、ゾンビを操ってるみたいだった」
つっかえがちに話す冷の口から出てきたのは、信じ難い話だった。
……ゾンビを操る人間?
果たして、そんなことが可能だろうか。
「お前の見間違えじゃないか? さっきはゾンビだらけで冷も混乱してただろ?」
瑠花が、とても信じられないといった表情で手を広げた。
すると冷は、口をとんがらせて反論する。
「たしかに見たんだって! 早希ちゃんが水を撒き始めたら驚いたみたいで、どこか行っちゃったけど」
「うーん、私は園山くんを信じるかなあ」
腕を組んで思案顔をしていた早希が、冷に同意を示した。
「だって、これまで私たちが見てきたゾンビは音に反応して、近くの人間に襲いかかるだけだったでしょ。でも、今回は明らかにこのショッピングモールの中の私たちを狙って、しかも遠回りでバリケードを迂回してきた。人為的な意図を感じざるを得ないわ」
たしかに、それは俺も何となく引っかかっていたところだった。
「でも、ゾンビを操るなんてそんなことができるものなのかよ?」
「あら、そもそも人間に操られるっていうのは、ゾンビの属性の一つでしょう? 今までみたいに、闇雲に手当り次第襲っている方が不自然だと思うけど」
早希は、妙なことを語り始める。
早希の話すところによると、そもそも元ネタのブードゥー教におけるゾンビとは、呪術師に使役される生き人形なのだそうだ。
「もっとも、この場合のゾンビは薬物かなにかで脳の機能を奪って逆らえないようにした、ただの人間なんだけど」
「さすが早希。よくそんなこと知ってるな」
俺は早希の博識ぶりに関心する。
「ただ本で読んで知っていただけよ。それより、そのゾンビ使いはどんな姿だった?」
「んんー、……えーっと、真っ白な服を着た中年くらいの男の人だったと思う」
冷は必死に思い出そうと、身を捩る。
なんだか無駄に色っぽい仕草だ、……男だけど。
「あっ、そうだ! あと胸元にワンポイントの刺繍が入っていたよ」
「それって、もしかして一角獣、ユニコーンのマークじゃなかったか?」
ウイルスを撒いた張本人だというモノケロス、それなら話が繋がるはずだ。
そう考えて、俺は思わず口を挟む。
「違うよ。一枚の葉っぱみたいな紋様だった。ユニコーンって……。もしかして、学くんって中二病?」
違うらしい。
しかも、中二病扱いされてしまった。
たしかに思いっきり中二くさい組織だけど、俺を痛いヤツみたいな目で見るなよ。
あっ、しまった!
龍崎博士の話を伝える絶好の機会だったのに、言い出し難い流れになってしまった。
「……葉っぱの紋様?」
瑠花が妙なトーンで呟く。
思わず視線を送ると、瑠花の顔面はすっかり蒼白になっていた。
「なんだ、そんな思いつめた顔をして。なにか心当たりはあるのか?」
声をかけるが、瑠花の返事はない。
すっかり自分の世界に入っていて、俺の声が耳に届かないようだ。
「道明寺さん?」
「……あっ、ごめん。アタシ、ちょっと疲れたみたいだ。この先に、従業員用の仮眠室があったからそこで寝てくるよ」
ようやく顔を上げた瑠花はそう言って、そそくさと奥へ引き上げてしまった。
「今の瑠花さんの様子、ちょっとおかしかったですよね?」
奏が、心配そうに瑠花の後を追う。
明らかに瑠花は、なにかを俺たちに隠している様子だった。
葉の形をした紋様と瑠花の間に、なにか関わりがあるのだろうか。
そんな新たに浮上した疑問に頭を悩ましながら、俺たちは交代でスタッフルームの入口を見張りつつ、不安な一夜を明かしたのだった。
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