第62話、ゾンビ襲撃

 二階から聞こえてきた叫び声に、俺と早希はハッと顔を見合わせた。


「もしかして、バリケードが破られた?」


「日比谷くん、とにかく行きましょう」


 すっかり本調子の早希が、俺の手を握って走り出した。

 なぜか、恋人繋ぎだった。

 俺は一緒に走りながら、絡まった早希の指の感触にドギマギする。

 あれ、なんか数段階飛ばして、一気に仲が深まってないか?

 もしかして……さっきの会話で、俺は早希への想いを告白してしまった?

 いや、でも俺は結果的には、早希の誘いを断ったわけだぞ?

 早希に半ば引っ張られるように走りながら、俺の脳内は疑問符で埋まっていく。

 でも、早希が委員長モードに復帰したということは、俺の想いを受け入れたってことだぜ?

 それなら、これはもしや早希ルート爆進中ということなのか?


「学くん! 早希ちゃん!」


 俺たちの前に、寝床からはね起きたばかりといった様子の冷が飛び出してきた。


「冷、いったい何があったんだ?」


「二階に、急にたくさんのパンツが現れて、みんなが囲まれているんだよ!」


 俺は冷の言葉に思わず、ズッコケる。

 お前、まだそれ続けていたのかよ。


「えっ、何それ? パ、パンツ?」


 理解不能な展開に、早希が混乱していた。


「あっ、ごめん。学くんが、ゾンビよりパンツに囲まれて寝たいって言うから」


 いや、誤解を招くような言い方するなよ。

 そもそも、提案したのはお前の方だろうが!


「へえー……日比谷くんって、そうなんだ」


 早希が俺からすぐさま手を解いて、白い目で見つめてきた。

 あからさまに、ドン引きしている。

 ああ、終わった……。

 早希ルート、一瞬で終わってしまった。


「って、そんなこと言ってる場合じゃねえだろ! かなりピンチな状況じゃねえか!」


 バリケードが突破されたのかと、俺は正面玄関の方へと視線を送った。

 しかし、玄関のバリケードは健在でどこにもゾンビの侵入を許した形跡はない。

 いったい二階のゾンビたちは、どこからわいてきたというのか?


「はやく助けに行きましょう! 考えるのは、後からでもできるわ!」


 早希は二階へと続くエスカレーターを、先陣を切って駆け上がって行く。

 さすが、完全復活した早希は頼もしい。

 俺は早希を追いかけて、二階へ上がった。

 二階のフロアの惨憺たる様子に、俺は思わず息を飲んだ。

 二階は、ゾンビで溢れていた。

 寝具売り場の数台のベッドを盾にして、瑠花たちが応戦してるのが目に入る。


「マナマナ! 助けてーっ!」


 ゾンビに枕を投げつけながら、半泣きの奏が俺を見つけて叫んだ。

 そんな彼女たちを、取り囲むゾンビたちの数はどんどん増え続けている。

 上の階から、次々にゾンビが列をなして下って来ているのだ。

 待てよ……上の階から?


「このゾンビたち、屋上から来ているんだわ」


「なるほど、そういうことか」


 俺は早希に言われて、ようやく理解する。

 店内から屋上へと出る小さな扉は、備え付けの鍵で施錠しただけで済ませていた。

 ゾンビたちは当然のごとく、一階からやって来るものと思い込んでいたからだ。

 どうやらその裏をかいて、ゾンビたちはモールの外壁をよじ登って、屋上の扉から店内へと侵入したらしい。


「でも、そんな複雑なこと、こいつらの頭で考えられるのかよ?」


 疑問が浮かぶが、今はそんなことを流暢に考察している暇はない。

 目の前の瑠花たちは、今にもゾンビの群れに飲み込まれてしまいそうだ。


「もう少し持ちこたえろよ! すぐに助けてやるからな!」


 俺はある物を見つけて、手に取った。

 それは、金属バットだ。

 他のスポーツ用品と一緒に並べてられていた、80センチほどのアルミニウム合金は、握ってみるとよく手に馴染んだ。

 試しに振ると、ブンといい音がする。

 俺は金属バットを大きく振りかぶって、ゾンビの群れに飛び込んだ。

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