第57話、再出発
その後、俺がしたことといえば、早希とともにトンネルを引き返し他のみんなを呼びに行ったという、ただそれだけだった。
その間、早希は一言も言葉を発することがなかった。
彼女は泣き腫らした顔のまま、俺の後ろを黙ってついて歩いた。
落ち着いたといえば落ち着いたのだろうが、けっして立ち直ったわけではなく、小康状態といった様子だった。
来るところまで来てしまった精神は、もはやそれ以上悪化のしようがなく、それゆえにある程度の安定へと至ったのだろう。
俺はそんな早希を、心配そうに見守ることしかできなかった。
幸いなことに、早希以外の他のメンバーはこの崩壊した街の様子に、そこまでショックを受けなかったようだ。
「……あちゃあ、派手にやらかしちゃったってかんじだな」
トンネルを抜けて外を一望した瑠花の第一声は、そんなあっけらかんとしたものだった。
「一日ですっかりゴーストタウンですね」
そう言う冷もそこまで深刻な表情ではなく、むしろ好奇心を募らせた顔をしている。
もちろん、みんなも少なからず衝撃を受けてはいるはずだ。
しかし、直前に憔悴し切った早希の姿を見たことで、かえって気丈に振る舞うことができているようだった。
だれかが最初に感情を発露させてしまえば、その慰め役に回ることで残りの人々は自然と冷静になれるものなのだ。
「……とりあえず、夜を明かす場所を見つけないとだな」
俺は一同にそう提案する。
すでに時刻は、夕方に近づいていた。
日暮れまでに安全に寝泊まりできる場所を見つけ出す必要があった。
「それに食い物もどこかで補給しないとな」
そんな瑠花の声が俺に続く。
山荘に備蓄してあった食料をいくらか持ち出して来ているため二三日分の手持ちはあったが、それもいつまでも持つわけではない。
どこかで、食料と日用品を手に入れることも最優先事項だ。
「本格的にサバイバルの準備が必要ですね」
「じゃあ、目的地は決まったな」
俺はみんなにそう声をかける。
すると、俺が言いたいことを察したようで早希以外の四人は同時に頷いた。
こういう場合の目的地は決まっているのだ。
「さっそく、遊園地を目指しましょう」
そう言って奏は歩き出すが、俺はそれを掴んで引き止める。
「遊園地って……。お前は、ひとりだけどこに向かう気なんだよ?」
「えっ? 廃墟と化したテーマパークを探訪するのは定番でしょう?」
奏の返答に、俺はガックリと肩を落とす。
やはりコイツは分かってなかったか。
「たしかに魅力的だとは思うけど。ずっと後半で出てくるシチュエーションだろうが、それ」
俺が言おうとしてるのは、もっと違う実用的な場所だった。
「ほら、あれだよ。ゾンビもので定番と言ったら……」
「ショッピングモール?」
今度は、ちゃんと正解が出てきた。
「そうそれだよ。街外れの大きいやつなら、日用品も工具もなんでも揃うだろうし」
「もしかしたら、もうそこに籠城してる人たちがいるかも知れないね」
冷はショッピングモールという言葉に目を輝かせて言う。
たしかに街の様子を見ると、生存者がどこかに避難している可能性は高いようだ。
合流できるなら、それが一番だった。
こうして俺たちは、街外れにあるショッピングモールへとひとまず向かうことにした。
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