第44話、真昼の花火
カインの手榴弾のおかげで俺たちがゾンビの包囲網を突破したのとほぼ同時に、雨雲が消え去り元の晴天が戻ってきた。
どうやら、通り雨だったようだ。
山の天気は変わりやすいとはいうが、あまりに節操のない空模様だった。
再び、俺たちの頭上に返り咲いたお日様は、容赦ない日差しを浴びせ始める。
すると、ゾンビたちはせっかく一度は追いつめた獲物を狙うのを止めて、日の当たらないところへと帰ってしまった。
「……助かった。やっぱアイツら、日光の下では活動できないみたいだな」
俺は、ホッと胸をなで下ろす。
今回も間一髪だった。
しかし、手榴弾なんて持ち出してくるとは、このカインという奴は、いったい何者なんだろう?
今まで、何度も助けられて来たために考えもしなかったが、カインは本当に俺たちの味方なのだろうか。
まるで、事前にゾンビパニックが起こることを知っていて用意したかのような装備だ。
俺は思わず、傍らにいるカインの横顔を見つめる。
そこには、見慣れた奏の顔に、カインのあの鉄面皮が張り付いている。
……コイツ、どこまで信用していいものか。
「あ、学くん。ボク、今とても良いこと思いついたんだけど?」
息を切らした冷が、俺に言う。
「なんだよ?」
「でっかい蛍光灯みたいなので、ゾンビに光を浴びせたらいいんじゃないかな! ほら、そうすればアイツら逃げて行くでしょ!」
さも、すごいことを思いついたような口調で、冷は語り出す。
……うーん。
脳内では、軍服を着て半分サイボーグ化した冷がハイテンションに叫びながら、ゾンビに光を照射するイメージ映像が流れる。
「じゃあ冷、お前がそのでっかい蛍光灯とかいうやつを準備しろよ」
俺はそんなの見たことないし。
「とにかく、みんな無事でよかったわ」
イヴの肩を手で抱きながら、早希が安堵を漏らす。
そこで、ようやく俺は一人の姿が見えないことに気づいた。
「あれ、瑠花は? 瑠花がいないぞ!」
俺の声に一同は、あたりを見回す。
「……まさか、ゾンビに?」
「いや、包囲を振り切って逃げて来たときには一緒だったはずなんだが」
たぶん、そのあとでばらばらなってここまで走ってくる間に瑠花ははぐれたらしい。
「そう遠くには行っていないはずよ。手分けして探しましょう!」
「いや、無闇矢鱈に探そうとしても範囲が広すぎる。……そうだ、奏。さっきの手榴弾、まだ残ってるか?」
アレを爆発させれば、どこに俺たちがいるのか音で瑠花に伝えられるはずだ。
「ねえねえ……、質問なんだけどなんで千倉さんはあんなの持っているのよ? アレって、本物の爆弾よね?」
早希が、俺に耳打ちしてくる。
そこら辺、聞きたいのは俺の方も同じなんだけど……カインの存在はみんなには秘密にする約束なのだ。
「いいか、今までずっと隠してたけど、奏は……ミリオタなんだ」
俺は、適当に誤魔化した。
「ん? それは、意外だけど。ミリタリーオタクだからって、ふつうポケットに手榴弾なんて入ってるものなのかな?」
早希は首を傾げる。
まあ、誤魔化されちゃくれないよね。
「かなりの重度の兵器マニアなんだよ! だから、たまたま持ち合わせてたんだ! そうだろ、奏?」
「いや、私は一通りの扱い方の訓練を受けているだけで、オタクでもマニアでもない」
カインは真面目な顔でそう答える。
って、お前は少しは話を合わせろよ!
「手榴弾は、あいにくさっきので最後だよ。すまない、学。それしか持ち出せなかったんだ」
「あっ、ボク。花火なら持ってるよ? それで、かわりになるんじゃない?」
冷が、会話に口を挟んでくる。
「なんでお前は花火なんて持ってるんだ?」
「合宿でやろうと思って持ってきたのが、手荷物に入ってただけだよ」
この場合は、冷のファインプレーだった。
たかが花火でも、非常時には何かと役に立ちそうだ。
地面に設置したロケット花火に、ライターで順番に点火していく。
真昼の空にあがるロケット花火は、妙に味気なく無感動に見えた。
俺たちは、それをただ眺めていた。
近くを彷徨っているだろう瑠花が、それに気づくことを願いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます