第17話、再会

 キャンプ場の裏手、荒れ果てた別荘が乱立する目的地にいたのは、意外な人物だった。


「あれあれ? ……もしかして、マナマナ?」


 緊張感ゼロのとぼけた声が、ようやく修羅場を切り抜けてきた俺たちを迎えた。

 濡れるような黒髪をおかっぱに切り揃えた、華奢な身体が姿を現す。


「……奏? 奏、お前無事だったのか!」


 俺は早希を背負ったまま、奏に駆け寄る。


「えっ? 何、何なの、そんな窮地で生き別れて二度と会えないと思ってた旧友と再会したーみたいな顔しちゃって」


 奏はボケているつもりなのかもしれないが、まさにその通りだった。

 どうやら、この幼なじみはこの騒動に、今まで一切気づいていなかったらしい。


「って、どうしたの? 名取ちゃん、怪我しちゃってるじゃん」


 俺の背中の早希の姿に、奏は目を丸くする。


「よかった、千倉さん。……本当によかったわ。私たち三人しか生き残りはいないのかと思っていたわ」


 早希は奏の手を取り、涙ぐみながらそう答える。


「それと、もう一人は……道明寺ちゃん?」


 瑠花は、あまり奏と相性が良くないのか、遠巻きに様子をうかがっている。

 俺たちは、不思議そうな顔をする奏に、これまでの出来事を話して聞かせた。

 最初は半信半疑だった奏も、早希が真面目な顔で根気強く説明するのを聞くうちに、なんとか状況を飲み込めたようだった。


「そんなパニック映画みたいなことが本当に起こるなんて……にわかには信じられませんけど。映画としても、B級どころかZ級じゃないですか」


 たしかにこれが誰かの書いたシナリオだと言うのなら、そのライターには説教を食らわせてやりたいものだ。


「でも、それが現実に、俺たちの目の前で起こったことなんだよ」


 そう言う俺の顔を見つめると、奏は頷く。


「……わかりました、信じます。嘘を言ってるようには見えませんし」


「それで、奏は何をしてたんだ?」


 たしか零時くらいに、俺は出歩いてる奏を目撃しているのだ。


「私は、お腹が減って眠れなかったので、何か食べるものを探していたんですよ。せっかく作ったカレーを誰かさんが持って行っちゃったから、全然足りなかったんです」


 ああ、奏カレーのことか。

 ……あったな、そんなの。

 しかし、奏はまだそのことを根に持っているようで、恨みのこもった目で俺を睨んだ。


「それで、お前。こんなところまで、ひとりで歩いて来てたのか」


「ええ、何か美味しそうな匂いがしたんですよ。それで、気がついたらこんなところまで来ていました」


 奏は首を傾げながら、そう答える。


「千倉、アンタ。なんか、嘘ついてねえか?」


 そこで突然、それまで話に加わっていなかった瑠花が口を挟んできた。


「……嘘? なんで私が嘘をつくんですか?」


 奏が、怪訝な顔をする。


「アンタの服についてるの、バカだろ。キャンプ場からここまで来る間に、それはくっつかないはずだぜ?」


 瑠花は、奏の着ている制服の袖を指さす。

 たしかに、そこには植物の種がいっぱいくっついているのが見えた。

 俺が昼間、薮の中に入ったときについて来たのと同じもののようだ。


「それが、いったい何なんです? こんなの、どこかで知らないうちにくっついただけですよ」


 奏は途端に不機嫌な口調になって、瑠花にそう言い返す。


「なら、別にいいけど。……アタシは、なんか胡散臭いなと思っただけ」


 瑠花は、ぷいとそっぽを向いてしまう。

 妙にギクシャクした雰囲気が漂う。

 どうやら本当に、瑠花と奏の二人は犬猿の仲のようだ。


「まあまあ、二人とも。それより、あの山荘の中を調べてみようよ。何か役に立つ物が、見つかるかもしれないよ」


 見かねた早希が、助け舟を出す。

 その途端に、強ばった空気が氷解した。

 そして、俺たちは半ば廃墟と化している山荘を連れだって探索することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る