第15話、衝撃の事実

 俺たち三人は、どうにかキャンプ場を切り抜け、その裏手にある荒れた別荘群へと向かっていた。

 あのゾンビたちは、力こそ強いが動きは概して遅く、また身体的な欠損を負って行動の妨げになっているものも多いため、覚悟を決めて挑めば避けることは容易だった。

 ようやく、彼らの姿が見えなくなるところまでやって来て、俺は安堵の吐息を漏らした。


「それにしても、日比谷はこんな真夜中に駐車場で何してたんだ?」


 前方を進んでいた瑠花が、首だけで振り返ってそう訊ねる。


「呼び出されたんだよ。手紙で」


 そう言えば、あのラブレターの差し出し人はだれだったのだろうか。

 あの時、佐伯さんは俺との待ち合わせのために駐車場へと向かう途中でゾンビ化したのか、それとも、偶然通りかかっただけなのか?

 そもそも、あの手紙は本当にラブレターだったのか?

 頭の中に、疑問が渦巻いていく。

 わからないことばかりだった。


「瑠花の方こそ、なんであんなところにいたんだよ? 森のある側から来ただろ」


「……アタシは、ただ眠れなくてその辺ぶらぶらしてただけ」


 なぜか不機嫌になって、瑠花は答える。

 そこで会話が途絶えて、三人の間を沈黙が支配した。

 俺の背中におぶわれている早希は、さっきの出来事がショックだったのか、ずっと黙り込んだままだ。

 俺の全身の感覚が、自然と背中の皮膚に集中してしまう。

 俺の背に押し付けられている二つの膨らみは、想像以上に……デカかった。

 普段はきちんと身嗜みを整え制服を着ているのでわからなかったが、早希は相当の巨乳であるらしい。

 バスでの瑠花の感触もなかなかだったが、それとはまた別の重量感のある柔らかさだ。

 思わず頬が緩みそうになるのを、気合いを入れて抑制する。


「あの……日比谷くん?」


 そのとき、早希が微かな声で呟いた。


「早希さん?」


「日比谷くん。ちょっと、言いにくいんだけど……あのね」


 早希は、躊躇いがちにそう囁く。

 息をするたびに、早希の胸が震えるのを背中で感じる。


「日比谷くん、頭にコンドームついてるよ」


「は?」


 早希の口にした単語に、俺は言葉を失った。

 いくらゾンビが暴れて大騒ぎしようが、コンドームが頭にくっつくことなんてことがあるわけ……。

 ……あっ、そうだ。

 俺は、駐車場で持ってきたコンドームを落としたんだった。

 あれがその後、佐伯さんと揉み合ったときに後頭部に付着したのか……。


「動かないで、日比谷くん。取ってあげる」


 早希の手がのびて、俺の髪に触れた。

 こそばゆい感触が頭部に走る。


「はい、日比谷くん。これ」


 早希が渡してきたのは、紛れもなく俺が持参してきた避妊用具だった。


「あ、ありがと……」


 なんだよ、これ。

 シチュエーション的にはすごいエロいけど、全然嬉しくねえ。

 そして、また沈黙が訪れる。

 変なイベントを挟んだせいで、ものすごく気まずい。

 俺は背中に早希をおんぶしたまま、右手にコンドームを握りしめているのだ。

 いったい、どういう状況だよ。

 というか、前話で早希は頭にコンドームつけたままの俺を正義の味方とか言ってたのかよ。

 やべえ、恥ずかしい。

 視線で瑠花に助けを求めるも、瑠花は何やら考えごとの最中のようで、無言で先を歩くだけだった。


「ねえ、日比谷くん。……あのね」


 早希が再び、口を開いた。


「なんですか、早希さん? まだ何か俺の頭についてますか?」


「違うの……。今度は、真面目な話」


 早希は、とても真剣な口調で言う。


「お願いがあるんだけど」


「……お願い?」


「お願い、日比谷くん。今すぐここで、私を下ろして」


 早希の放った言葉に、俺は耳を疑った。

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