第2話、妹キャラの酷い目にあう率は異常

 窓から射し込む朝の爽やかな日差しによって、俺は自然と目を覚ました。

 というような目覚めを、一度は経験してみたいものだ。


「おにぃ! 起きて! 今日から合宿行くんでしょ! ほぉら、遅刻しちゃうよ!」


 耳をつんざくようなやかましい声に叩き起された俺は、とりあえず顔の前でぴょこぴょこと揺れている二本の猫の尻尾のようなものを掴んでみる。


「イタタッ! 何すんのよ! お兄、なんでそんなところ掴んでいるのよ!」


 ベッドの端に腰をかけた少女が、顔をしかめて悲鳴を上げた。


「いや、お前のツインテールってのは、こうやって掴むために存在するんじゃないのか?」


「んなわけないでしょ! どんな常識よ、それ」


 俺のとぼけた台詞に、少女は言い返す。


「たしか、なんかの本で読んだ気がするんだけど……あっ、そうだ『小動物の飼い方マニュアル』ってのに載って……」


「人を小動物扱いするなーっ!」


 俺のみぞおちに、少女の拳がめり込んだ。

 いきなり急所を狙うとは、全く可愛げのない妹である。

 目の前の少女、日比谷 あそぶは中学三年になる俺の実の妹だった。

 妹とは、もっとも近い異性であり、かつ同時に、もっとも遠い異性だ。

 しばしばアニメやラノベなどの二次コンテンツでは妹萌えという概念が登場するが、しょせんそんなものはフィクションに過ぎない。

 実妹とは、台風や洪水といった自然災害のような身近な脅威に他ならないのだ。

 この遊という小娘は、シスターというより、まさにディザスターそのものだった。

 きっと人類社会が滅亡しても、こいつだけはたくましく生き延びるだろう。


「いつまで私の髪を掴んでるのよ! 離しなさいよ! せっかく起こしてあげたのに、バカお兄! お兄なんてゾンビにでもなっちゃえ!」


 そう言うと、遊は俺の手をすり抜けて猫のように駆けて行った。

 その瞬間、遊の服からころりと小さなコインのようなものが床に転がった。

 拾い上げると、海外のコインのようで、よく分からない小さな文字が一面に彫られていた。


「おい、遊。お前、今なんか落として行ったぞ」


 声をかけてみるが、返事はない。

 どうやら、もう遊は家を出て行ってしまったらしい。

 あの妹は、実は全国レベルの実力を持つ剣道の選手で、夏休みだと言うのに毎朝中学校の道場へと稽古に出掛けているのだ。

 そんな忙しい朝の時間を割いて、兄である俺をわざわざ起こして行ったわけだが、それはただの嫌がらせに違いない。

 きっと、寝起きの無防備な俺に攻撃をするのが狙いなのだろう。

 兄より優秀な妹はいないということを、いつか思い知らせなければなるまい。

 とはいえ、今日は寝過ごすわけにはいかない日だった。

 なんせ、天文部の夏合宿の一日目なのだ。

 俺は上着に拾ったコインを滑り込ませると、起き上がって大きく伸びをした。

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