第3話 卵焼き

うちの卵焼きは醤油と砂糖と、少し奇妙だ。

だいたいの家は砂糖か醤油で、少数派だが塩というのも聞く。

彼女の家が元々醤油で、男の家が砂糖だった。そういう理由でうちは砂糖と醤油を入れているのだと、いつか彼女は話していた。

彼女が入院してから、私と3つ年の離れた女の子は、男の実家に預けられた。

だから今日、つまるところ修学旅行のお弁当には甘い卵焼きが入っている。

彼女と男の母親は折が悪いのか、男の実家に来てからというもの、男の母親は私に彼女の愚痴ばかりを言う。

だから、何となく私は男の母親が苦手だ。

そういえば昨日、私は小学校の同級生の母親に電話をした。

電話の内容はこうだ。同級生と喧嘩した私は同級生の母親に責められ続けていた。誰にも相談できなかった私はどうすることもできず、その母親に謝罪の電話をするという内容だった。

今考えれば、子供の喧嘩に親が出てきて、一方的に子供を責めるのはどうかしている。

しかし、そんなことも知らない私からすると、本当に大事で、ただひたすらどうしていいか分からなかった。

私は電話の最中泣いていた。もちろん電話を終えると涙を拭い、階段を降りて男の母親達に愛想を振りまき、なんでもない、学校では上手くいっている、普通の女の子を演じた。

そんな後だったからこそ、余計に修学旅行は辛い。

私は広島に向かう新幹線の中で、男の母親が作った甘ったるい卵焼きはを半分だけ食べ、お弁当をゴミ回収の袋に投げ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る