第2話 お弁当と病

不治の病にかかった。

医者の「今夜が峠かもしれません。」という言葉をしんどいはずなのに、私はやけに冷静に聞いていた。

隣で彼女が泣いている。そういえば今朝喧嘩したままだったっけ。

仲直りがしたいのに、体中が痛んでそれどころではない。

出産の痛みより痛いものはないなんてよく言ったものだ。2回の出産を経ていても、これ程痛かったことは無い。

最近彼女の様子がおかしい。学校から帰るとよく泣いている。何があったのか訊ねても何も答えない。今朝はその事をしつこく聞いたせいで喧嘩になってしまった。

ああ。こんなことなら喧嘩なんかしなければ良かった。

そんなことを考えながら、目を閉じた。

次の日、私は膠原病の中のエリテマトーデス、皮膚筋炎、リウマチを患っていると診断された。これは曾祖母の代から代々長女が患っている呪いみたいなものだ。

36歳の私には、いつ最期を迎えてもおかしくないこの状態が、明日が見えない今日が、まだ見ぬ彼女達の幸せが、宇宙の果てより遠く感じた。

ひたすら泣いた。泣いて、泣いて、そして泣いた。

彼女はもうすぐ修学旅行。いつもの焼きたてのパンを彼女に持たせてあげたい。

ただそんな気持ちだけが、明日を生きる活力となった。


しかしその夢は叶わなかった。病院から一時帰宅が許可されなかったのだ。

ベッドの中で、修学旅行に向かう彼女を想像した。

「忘れ物はないか。」

そんなことを言うことすら神様は許さなかった。

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