知らない背中
@little-king
第1話
幼児健忘症。幼い頃の記憶というのはあやふやということらしい。
私の一番古い記憶は、男が彼女の頭をひっつかみ、赤いソファーの角に頭を打ちつける映像だった。
そういえば、その男は幼かった私を「1から10までの数字を上手く言えない」という理由で、裸のまま風呂に閉じ込めた。
彼女が外出の時。そう、男と二人きりの時は彼女の脱いだパジャマの匂いを嗅ぎながら、怯えて泣いた。
彼女は一生懸命だった。「金がない」と暴れだす男と私、そして私の三つ下の女の子のために働いた。
それなのに、彼女は私が12の時まで必ず三食の手作りの飯、夕飯は副菜と主菜と味噌汁を19時には仕上げていた。
リーマンショックで男と彼女が二人で買っていた大手株式会社の株価は5分も経たずに、みるみる下落した。そのお陰で彼女達は二百万もの大金を一瞬にして失った。
ある日彼女と大喧嘩をした。その日は小学校に行くまえで、理由は覚えていないが、私は彼女に腹が立っていた。彼女は腹が痛いとトイレに行きながらも、私に怒鳴りつけていた。
小学校から帰ると、男の父が家にいた。
「お母さんな、倒れたんや。今から病院一緒に行こか。」
病院にいくと、嗚咽をあげる彼女がベットに横たわっていた。
「今夜が峠かもしれません。」
という医者の無機質な声を水の中から聞いた気がした。
まだ自分のことしか考えられない年齢だった私は、とにかく泣いた。
神様に何度もお願いをした。
一命を取り留めたものの、彼女は膠原病の中のエリテマトーデス、皮膚筋炎及びリウマチを患っていることがわかった。
これらは免疫疾患、つまるところ自分の細胞が自分を攻撃する不治の病だった。
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