閑話~冴子の過去

 私、鈴木 冴子は物心ついた時から冷遇を受けていた事だけが、記憶として刻まれていた。




 * * * *


 孤児院を運営しているシスターの話では「おくるみ」にくるまれた私が雪の降る夜、教会敷地に「捨てられて」いたそうだ。


【育てる自信が有りません。

 このを宜しくお願いします】


 たった一行のメモを「おくるみ」に挟んだ状態で、見つかったそうだ。


 赤子の私は金色に輝く髪色で、左右の目色も違い、シスターは、この世の人物かと疑ったらしい。


 見た瞬間は、女神様が降臨されたと思ったと、教えて貰った事があった(女神とか…ちげーし)


 しかし、成長するにつれ、やはり日本と言う場所ではオッドアイは珍しく、教会周辺で遊んでいてもつぶてを投げられたり、背中を蹴られた事もある。


 成長し、小学校に行く頃には、赤信号で待っている時、背中を押され、危うくねられそうになった事すらあった(まあ、子供だから軽く押せば前に出ると判ってて押した感は有る雰囲気だったなぁ…)


 流石に命の危険を感じたシスターは、学校に行かなくて良いと言ってフリースクールへ編入させてくれるのだが、やはり、そこでもいじめは続いた。


 ノートを隠される事は毎回で、教科書なんて何度も破られ、酷い時は燃やされる事すらあったものね。


 流石に、義務教育課程を何とか終える事が出来、中学ともなれば社会に出る事も可能ではあるが、表立った仕事に就職できる筈もなく、人に逢う機会が少ないであろう朝刊配達で何とか生活の安定を図ってはいたのだが、運命の悪戯いたずらか、販売店の上司からクビを言い渡され、別の販売店に就職し直し…と、その繰り返し。


 まともに働くのは難しかった。


 社会人と呼ばれる年齢になってからは、更に酷くなり、私は瞳の色をカラーコンタクトで黒を使い、髪色を黒にそめ、普通に生活できるよう努力した。


 そんな24の冬、疲れて戻った私の目に、学校の教室で男子生徒が先生に捕まってしまった光景を遠目で見ていた。


「あらまぁ、あの

 無理やりメイド服を着せられちゃってるわねぇ。

 女性顔だから、とか言われたのかしら…」


 荷物を置き、上着をハンガーに掛け、色落ちしてしまったカラーを染め直さなきゃ、と思い黒カラコンを外し風呂の用意をしようとした瞬間、足元に幾何学模様が出来ている事に気付かず、ふわり…とした浮遊感で光に引き込まれ瞬間的に意識を手放してしまった。


 まさか、それが小説で見かけて居た聖女召喚だったとは思いもせず、何が何やら判らないまま、移動先の空間で呆ける事となり、自宅アパートの心配からシスターの心配、荷物の心配…全ての心配事は、記憶の隅に追いやらざるを得ない状況となるなど、思いもしなかった。


(この後、王子と呼ばれる人から無視され、王家から罪人扱いされる事になろうとは、思う訳がなかったから、過去の嫌な記憶など、可愛い苛めだな、と思う事となるとは知る由もなかった)

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