眠れぬ日々

 牢屋に収監した王族たちへの罪を判らせる為では有るが、後味は悪い。


 勿論、心が傷ついているサクヤは、何とも感じて無いのが実情だった。


「サクヤ、移送の手伝いをしてくれて助かった」


 そう声を掛けて来たのはアレン。


 その時すでにサーヤの姿からサクヤへと戻っていた。


「感謝されるような事は何1つ、しておりませんよ。

 この場所は、作る事に携わった人間じゃないと、

 知らない場所でも有りますから、そこに案内しただけですよ」


「サクヤ…」


(本当に彼は元騎士なのだろうか。

 村を主要都市へと変貌させた手腕と言い、

 増えてしまった人々の住まいを確保する手腕・・・

 これだけの事をやってのけるのは聖女様しかいないのだ、が。

 が聖女的存在ならば聖人と呼ぶべきだし…な)


「アレン様、

 何か付いていますでしょうか…」


(あらぁ…。疑っているものの、

 確証を掴めず戸惑っている、と言う所かしらね。

 仕方ないわね。長老と相談するしか無いでしょうね)


「い、いや、何でもない」


 サクヤの周囲を精霊たちが楽し気に囲んでいるのだが、アレンには見えていない。


【ねぇ、聖女様】『どうしたの?』【聖女だと王子に白状するつもりなの?】


『そろそろ潮時かしらねぇ』


【そう簡単に身分を明かさない方が良いと思うのだが、な】


『心配してくれるの?嬉しいわ。

 あの時、誰も私に見向きもしない事が、

 トラウマになってるものね。

 でも、アレン様が聖女では無いか?

 と疑って居続けるのなら気付くのも時間の問題でしょ?』


【・・・納得は…しないが理解できた】


「アレン様は、何時いつまで俺の後をついて来る気なのです?」


(王子様とはいえ、

 プライベートルームにまで、

 ついてこられるのは…ねぇ)


「す、す、すまない。気づかなかった」


 慌てて自分の家屋として使ってる家に戻って行ったわね。


 はぁ…。少しは村が落ち着いて来たから、これからはスローライフ出来るかな?



 * * * *


 自宅に戻って溜息を吐き出し、読みかけの本(長老保有の歴史書)を持ち出したサクヤは、周囲に誰もいない事を確認して、近くの木へとヒョイ…と飛び上がり、本を読みながら、これまでの事を思い返していた。


(あの時の高校生は避難して来た人たちの中にいなかった…って事は、

 戻る方法を模索して戻れた・・・の…か)


 自分だけが取り残された…とまでは思っていないが、召喚された時の孤独感は苛められていた頃を想い出され、悲しみだけが込み上げて来る。


(あの時の記憶を繰り返し見てしまうから困ったモンだ。

 それもこれも召喚時にスルーした王族と宰相の所為せいよね)


 そんな悪態をつくサクヤの耳に、メリーの助けを求める声が聞こえた。


 マップを確認すると、2つの影が表示され、神経を耳に集中させると、爵位を持つ馬鹿から強引な求婚を迫られている雰囲気を感じ取り、木から飛び降り、声が聞こえた方向へと駆けつける事にしたのだ(持っていた本は後ろポケットに突っ込んだ)

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