浄化の湖

 アレンを心配しつつも、王城に送り出したサクヤは、週に1度の割合で誰にも見られる事の無いよう結界を施し、湖で体を洗う事を日課にしている。


 浄化された湖は妖精が集まり、癒され自由を謳歌して居るさまが見られるようにはなっているのだが、その姿を見る事が出来るのは聖女のみなのだ。


『姫様が男性の姿でしか動けないのを私たち許せないの!』


「あら?結構、楽しんでるわよ。

 アレン様や村の男性陣は、

 私が男だと思ってるみたいだから、

 騙して悪いなとは思うけど、

 王家に恨みを晴らすには良いのではないかしら?」


『そう、だけど・・・』


「正気な王家の誰かが聖女に対して、

 謝罪の意味を込めた何かしらを発表してくれるなら、

 譲歩も有り得るかな…」


『誰か来る!』


 この湖に結界は張ってるけれど、誰かに女性らしい体つきを見られては困るものね、素早く着替えを終えて上半身に刻まれた傷を隠す風に見せかけないとねぇ。


 この…気配は…


「・・・アレン王子?

 男の水浴びに興味がおありとは思えないのですが…」


「い、いや…見るつもりは毛頭なかったのだが、

 水音がしたので獣か何かかと…すまない」


「まあ全裸を見られても筋肉が落ちてますからね、

 元騎士だとは思われなかったカモ知れません。

 取り敢えず傷は癒えてはいますが、

 右上から左下に掛けて大きいので隠してしまいます。

 王城の確認および討伐報告は出来たのですか?」


 無い胸元を隠す理由…単純だけど袈裟切りされた跡…と言えば不思議には思われないカナ。


「・・・悲惨極まりなかった」


「え?」


 どゆこと?!王都が廃墟と化しただけなら、悲惨極まりない…とは言わない…よね?


「我が国に起きる厄災の元凶とされているのが龍王様。

 彼に厄災を起こさないで欲しいと、

 願い出て貰う事を担ったのが聖女様なのだが、

 父上と母上は自分たちだけで罪を負うつもりだったようで、

 その事に怒りを覚えられた龍王様から、

 幻夢げんむの世界と言う魔法を掛けられておられた。

 正気を取り戻しては下さったが、

 私以外の王家の人間には罪の烙印が刻まれてしまった」


「アレン様・・・」


 うわぁー…とんでもない事が起きたのか。


 王都に何が起きても知らない、とは言ったものの、厄災の意味がだとは…ねぇ。


 まあ謝罪文とか出回ったと聞いてないから龍王様の所に行って説得するってのはしないつもり。


 どーせ龍王様は今の状況を見てらっしゃる筈。


「そこでサクヤに相談なのだが、

 父上や母上の世話人を紹介して貰うとすれば長老だろうか?」


「アレン様、忘れておられませんか?

 王都から逃げて来た人々が聖なる村で暮らし始めてますよ。

 その中に王城で王妃様や王様の世話をしていたメイドも含まれている筈です。

 彼ら、彼女らの顔はアレン様とてご存知でしょう?」


 すっかり忘れていたのだろうか、アレンは侍女たち村に来ていると言う事が抜け落ちているようだった。


「あ・・・龍王様の幻夢に惑わされ、

 正気を失っている父上を止めるのに必死だったからか、

 抜け落ちていたな。

 所でサクヤは村の医療を担っているだけ、

 では無いよな?」


「まあ、レイモンド以外の若者は村から出て行きましたし、

 村の開発などは、他の地域に行った事のある俺なら、

 村の中しか知らない者より知識はあるってだけですよ。

 最近は戻って来始めてはいますけれど・・・」


 さて、村に住む人間が増えてしまっているのを解消する為に、木材は切り出して貰ってるから、建設に着手して貰う事になるか?


「サクヤは凄いんだな」


「な、何がでしょうか?」


「騎士が無理だと判った時点で医療を勉強したのだろう?

 努力しなければ回復や治療など施せるまでに至らないからな」


「…そんな事はありませんよ」


 と言っておくが、アレン様…薄々気づき始めた?

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