閑話~巻き込まれた男子高校生

 時は遡り召喚魔法が行使される前の日本。


 とある男子高校生が巻き込まれた状況は不遇すぎた。



 ☆ ☆ ☆



 俺は黒田 守くろだ まもる


 普通の高校2年生…だったのだが、あの瞬間、自分の足元に魔法陣を見た時、他に巻き込まれる事を防げたのも束の間で、気づけば衣装のまま異世界に飛ばされて居たのだ。



 ☆ ☆ ☆


 あの日、気が早いと文句を言いたかったのだが、他の行事が詰め込まれて居る為、その日しか空いてなかった。


 男子校で何を血迷ったのかメイド喫茶を文化祭の一区画でやろう、と言う話が急に飛び出し、だったらとメイドの衣装をレンタル出来る場所を探したり、コーヒーやお菓子の仕入れ先を手配したりと、何故だか何時も以上に速い気がした。


「それにしても何でこんなに、はえぇんだ?」


「何か先生せんこーの行事と、

 俺らの行事が重なりに重なり過ぎて、

 動けるのが今だけ何だとか言ってたな」


「ちょ、それマジかよ」


「それでなお前には実験台になって欲しくて…」


 その言葉を聞いた俺は嫌な予感しかしてなかった。


 常日頃、友人たちから「女顔」と言われたり「女装させたら美人だろうな」とか言われて居るのだ。


 そこへ来てメイド喫茶が浮上…そして今、言われた実験台と言う台詞セリフ


 ぞくりと悪寒が走った。


「ちょ、待て待て待てっ!

 まさかと思うがメイドの衣装を『俺に着て欲しい』とか言うんじゃ…」


「その『まさか』だよ!

 ちゃーんとロングヘアのウィッグも用意しといたからさ!

 俺らのクラス代表で着てくれ!」


 俺は脱兎の如く逃げたかった。それを許さなかったのは…まさかの担任だった。


「黒田、決定事項から逃げるんじゃない」


「うっ・・・」


 抵抗空しく俺は紺色のスカートに白いブラウス、首元には細めで赤いリボンが蝶結びされ、腰にはエプロンを巻かれ頭にはウィッグと一緒にヘッドレスト…完璧に見た目「だけは」何処ぞのメイド喫茶に居る店員そのもの、と言う状態にさせられてしまって居た。


「すげっ…ここまで似合うと思わなかった」


「…確かに、これならクラス対抗でも有る出し物として、

 メイド喫茶はウケる事、間違い無いだろうな」


 友人と教師にベタ褒めされても嬉しかない。


 足元はスースーするし股間が心元無い。


 当日はスパッツ着用を許してくれるそうなので、そこは安心した。


 そして教室の後方に持って来られた姿見で自分の姿を見ようと1歩、踏み出した瞬間に「それは」起きた。


 幾何学模様が刻まれた丸い円…異世界小説を好んで読んで居た俺は、魔法陣だと直ぐに気づけた。


 だから巻き込まない為に叫んだ。


「先生、みんな!俺から離れて!

 これ絶対に異世界召喚だからっ!近づくと危・・・」


 全ての言葉を伝える事は出来なかったが、俺以外に巻き込まれた生徒は居ない事で安心した。


 でも前方から来る身分が有りそうな恰好の男性が隣に居る正真正銘の女性では無く、偶然、衣装合わせをしてカツラを付けて居た「俺」の手を掴み立たせたかと思うと、何も教えられないままグイグイと連れて行かれ抵抗むなしく俺は「伴侶となるのだ」と言う王子に唖然とし、そのまま付いて行かざるを得なくなったのだった

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