先人はうまいこと考えるよね 『筆忠実』

手紙を書くのが好きだったのは

きみと話したいからだった

とても一方的だけど

長い話をしたかったんだ


思えばぼくは子供のように

なんでも知らせたがってたね

読み手も楽しんでいると思って

ひとりよがりに書いていた


そのうちきみは大人になって

ぼくからその目を逸らし始めた

自分の抱えていることを

ぼくに少しも話さないまま


筆まめって判るかい

フデという字にチュウジツって書く

先人はうまいこと考えるよね

忠実でないと手紙は書けない


筆まめって読めるかい

フデという字にチュウジツって書く

あのころぼくは筆まめだったね

忠実に思いを綴っていたよ


不実になったつもりはないが

今ではすっかり書かなくなった

環境も時代も変化して

ぱったり書かなくなってしまった


代わりに詩を詠むようになり

電子の海に流しているよ

自分に忠実であれるよう

言葉を昇華するために


海にも果てがあるように

いつかはきみの許に着け

くだらないって笑ってくれれば

笑ってくれればそれでいいから


手紙を書くのが好きだった

きみといるのが大好きだったよ

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