折り取られている枝を見た 『手折る』

折り取られている枝を見た

満開を迎えようとする桜


折られた部分は蒼白として

花々のなかで浮いていた


樹木の枝は血管だ

幹から伸びる血管だ


いのちの形そのものだ

それを千切り取ったのだ


こんなにいとおしいものを

どうして蹂躙できようか


見くだしている構図がわかる

相手を相手と見ていない


散った花弁のいちまいまでも

桜は桜であるはずなのに


いのちのひとつであるはずなのに


わたしは憤っている

だいじな知人を傷つけられて


敬意を払うべきである

やさしい色で歌う佳人に


花をつけない人間よ

いつくしみを知るがいい


自分の育ちを知るがいい


咲いて降れ降れ

きらきらと舞え


散り際さえもがうつくしい


そんなふうに生きられるのか

考えてみたほうがいい


そんなふうに死にゆけるのかを

自分に問うてみるといいのだ

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