みずみずしさをなくした気がする 『透明な哀しみ』

みずみずしさをなくした気がする

昔のほうがよかったような

開けてはならない箱の疑問符


過去は経験にするしかないのに

そこに新しきを見出そうとする

たまにはあるかもしれないけれどね


痛みをなくしたような気がする

治らぬ傷があるじゃあないか

今でも口を開けているはず


より赤い血を見ようとしている

時間とともに枯れていくのに

かさぶたとなって離れていくのに


手放したくないものがある

自分の一部とも言えるもの


向き合っていたいものがある

本当の自分と思うもの


時間とともに変わっていくのを

歪んだ意識で捻じ曲げてなお

あさり続けていこうとしている


そこにはなにもないんじゃないか

そもそも存在してないような

見てはならない扉の隙間


黒く冷たいものだけは

無尽蔵に湧いてくる

変わらず胸を埋めている


空虚な心象 そればかり

時間が何度も巻き返す

ほかの景色もあるというのに


焼き付けるべきものがある

自分を変えたと言えるもの


静謐で凍てつくような

あの湖のようにうつくしい


苦しさはなお消えてくれない

焦燥感でどうにかなりそう


みずみずしさは還らないのか

忘れたのではなく元からないのか


水晶に囚われている

ぼくの透明な哀しみ

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