誰かの言葉が刺さるとき それは思い当たった瞬間だ 『萌芽』

誰かの言葉が刺さるとき

それは思い当たった瞬間だ


胸に覚えがあるのだろう

たとえ自分への言葉ではなくとも

確かに動揺したのだろう


心は存外正直なのだ

肉を纏ってはいるが

桃のようにデリケートである


刺さった言葉は鏡の欠片

電気のように走る情報が

己の真実を映す


さて わたしたちは

膨大な記憶を収める記録装置であり

いかなるときも働いている


息をついている暇のない

寝ているときすら働いている

勤勉極まりない身体と

所在の知れぬ心をつなげ

今もこうして生き続けている

生きることとは連鎖をすること


ニューロンのひらめきを

そのつてごとを拾うのだ


胸に覚えがあるだろう

連想ゲームをするように

突き当たる場所があるだろう


心が俯瞰で見るだろう

体のうちとそとのはざまを

神出鬼没な接合部分を


蘇生を果たす古い記憶の

見事な符合に思い返せば

生きている根が見つかるだろう


誰かの言葉が刺さるとき

何かが胸に去来するとき


経験という血肉に気づき

人は思い出すのだろう


生きる限りに続く連鎖は

己の生きざまを示し

命そのものとなるだろう


受け継がれていく生命は

自分のなかにこそあるもので

存在理由などははなからあらず


狂おしいまでの愛の形が

芽生え続けているだけなのだ




20181021

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る