第8話 魔法使いじゃないのに!?なんで瞬間魔法が唱えられるの!?

とりあえず、モンスターがあらわれた。


「ボク、モンスターって初めてです!」


ボクが興奮した面持ちで言うと、ライルが得意げにモンスターを指差して言った。


「あれは猫科のモンスターだ。なのに『めぇ~』って鳴くんだぜ」


「あら、そうなの?変なモンスターね」


レイラさんがモンスターの方を向きながら言うと、心なしか傷ついたような顔をするモンスター。


「本当に鳴くのでしょうか?試してみましょう」


そう言ったメシアさんが、どこからか杖を出しモンスターを叩く。モンスターは耐えるようにして、ただ、丸まっていた。それを見たレイラさんが、ライルに向かって怒る。


「何よ、鳴かないじゃない!ライルってば嘘言ったのね!」


「嘘じゃねぇーよ!くっそ!おら、鳴けよアホモンスター!」


どんどん傷ついていく様がわかるボクは、なんだかモンスターが可哀想になった。


「猫科っていうけど、猫みたく可愛くないわね?ぶっさいく。私の好みじゃないわ」


レイラさんの言葉によってモンスターに心のダメージ2が追加された。


「こいつの所為で、オレが嘘つき呼ばわりじゃねぇーか。猫科のくせに、羊みたいに鳴くこいつの所為で!いっそ、猫科なんてやめちまえ」


ライルの言葉によって、モンスターに心のダメージが4追加された。


「どのみち死に逝くものですわ」


メシアさんの言葉によって、モンスターに恐怖のダメージが100追加された。一杯一杯になったモンスターが、目に命一杯の涙を溜めながら走り去って行った。ボクはただ、去って行ったモンスターを見つめるだけだった。


「っち、逃げたか」


「ライルが馬鹿な事言ってるからよ」


「オレの所為かよ!?」


喧嘩しそうなライルとレイラさん。ボクは案の定、止めに入る。


「お、落ち着いて。モンスターが去ったんですし、それでいいじゃないですか」


草原のど真ん中、ライルとレイラさんがやっぱり喧嘩になったので、ボクは止めに入った。ボクらは今、とある洞窟に向かっている。レイラさんが持ってきた御ふれに書いてあった、魔物退治をするためだ。街から東にあると言われる、ケモノの洞窟。そこに今回のターゲットがいるんだ。


「それにしても、まだ洞窟につかないのかしら」


街から出て1分しか経っていないのにもかかわらず、レイラさんが言った。この地図を見るに、街から洞窟までは遅くても半日はかかる。それを数分しか経っていないのに、そんな事を言うなんてこの先が思いやられた。


「歩いて1分しか経ってねぇーだろーが。だから女は嫌なんだよ。足が痛いとか疲れたとか、な?アスカ」


「ボクに振られても…」


ボクの肩を抱きながら言ってくるライル。肩を抱く手を思いっきり退かしながら、ボクは答えた。


「仕方ないじゃない、疲れたものは疲れたんだから。あ~あ、早く瞬間移動の魔法を覚えたいな~。そうすればひとっ飛びなのに」


杖を振り回しながら、溜め息交じりでレイラさんが言う。確かに、その魔法があれば便利だよね。まあ、ないものは仕方がないけど。


「じゃあ、ひとっ飛びしましょう」


レイラさんの言葉を聞いたメシアさんが、水晶玉をかざすと眩しいばかりの光が溢れ出した。その光があまりにも眩しくて、ボクらは瞳を瞑る。眩しさが消えたと思ったボクらは、目をしばしばとさせながら開けた。そして目の前にあるのは、薄暗い洞窟の入り口。


「なっ!?あれ!?え?えぇ!?」


ボクは後ろにいるメシアさんと、洞窟を交互に見ながら声を上げた。掲げた水晶玉を胸元まで下ろしたメシアさんが、淡々とした口調で話した。


「着きましたわ」


……そうなのだ、さっきまで草原のど真ん中にいたハズなのに、ボクらは洞窟の入り口まで来ていたのだ。


「メシア、すっげぇーなー、瞬間魔法使えるのかよ?」


「すっごーい!教えてよー」


ライルとレイラさんは関心したように言った。うん、ボクも凄いと思うよ?思うけどね…。


「冒険ってそんなに甘いもんじゃないよっ!明らかにおかしいよ!」


ボクの叫びに、耳を傾ける他の3人。


「だって、だって、ボクらは冒険をはじめたばかりで、レベルなんて1なんだよ。色々とモンスターを倒して、レベルを上げて魔法って覚えるもんだよね?」


ボクの言葉に、三人は一応は聞いてくれている。言葉を続けるボク。


「仮にさ、仮にメシアさんがレベルが高いとしてもさ、魔法使いが覚えるハズの瞬間魔法を、なんで占い師が覚えちゃってんの!?自然の理に違反しちゃってるよ!」


肩で息をしながら捲くし立てたボクに、メシアさんのズバッとした一言。


「だって、私が世界の理ですもの」


なんて言われてしまったら、ボク………何も言えないよ………。しかもさ、真顔で、


「……なんて冗談ですわ」


って……。


真顔だから冗談に聞こえませんって…。


「………もういいです、洞窟の中に入りましょう…」


がっくりと肩を落とし、ボクは洞窟の中へと入って行った。もうボクは、メシアさんの考えが理解できないよ……。

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