第1章
第6話 宿屋に泊まって明日は出発だ!………って、宿屋?あれ危なくない?
「ボク、宿屋でこんなにも神経すりへったのは、初めてだよ」
「眠れないのか?アスカ。大丈夫か?」
「…………誰の所為だと思ってるわけ?」
今、ボクらはモントーレの街の宿屋にいる。とりあえずパーティーを組んだという事で、昨日の夕方は皆と食事をした。
すっかり話し込んでしまって夜になり、今日は旅立つ事は出来ないだろうって事で宿屋に泊まることになったんだ。
ここがボクの運のつき……。
ボクは重大なことに気づいてしまった。
「お金はもったいないし、二人部屋二つでいいわよね」
レイラさんが言った事に、ボクらは頷こうとしたが思わずそれを止めた。
ちょっと待って、二人部屋?!
二人部屋っていったらさ、やっぱり女二人に男二人。そしたら必然的に考えると、メシアさんとレイラさん。
そしてボクと………。
ボクは隣にいるライルを見た。ライルはすっっっっっっっっっっっごく、爽やか笑顔。
「無理です!無理です!断固拒否です!!」
ボクは手を上げて、断りの言葉を述べる。無理無理、絶対無理!ライルと二人部屋になったら襲われるって!気のせいとか、自意識過剰とかじゃなくて、本気で危ないんだって!!
「仕方ないじゃない、お金もったいないし。我侭言わないの」
レイラさんが腰に手を当てながら、ボクに向かって言った。我侭とか、そう言う問題じゃないんですって!
「アスカ、我侭はダメだぞ。うん、我侭はいかん」
「うわ~、その顔、ボクにとってムカツクんですけど?」
ライルが爽やか笑顔で、ボクの肩を叩きながら頷く。明らかに、何かを企んでる。絶対企んでるよ!ボクは必死になって、レイラさん達に頼み込む。しかし、聞き入れてはくれなかった。ボクは最後の手段とばかりに、言った。
「じゃあボク、野宿でいいです!皆さんで宿屋を使って下さい!」
息を切らしながら、ボクが言うとその必死さが伝わったのかレイラさんが考え出してくれた。
「そんなに嫌なの?宿屋に泊まるの」
「嫌なわけじゃないんです、ただ、ライルと一緒なのが嫌なんです」
「そうなの?あんた、アスカに何かしたわけ?」
レイラさんがライルに鋭い瞳を向ける。
「あ?してねぇーよ。まだ」
不機嫌そうに答えるライル。ねえ?まだって何!?まだって!何かするつもり!?………ますます、ボクはライルと二人部屋になりたくなくなった。
「それなら、こういうのはいかがでしょうか?」
今まで黙っていたメシアさんが、ボクらに話し掛けてきた。ボクらはメシアさんの方に顔を向ける。
「どういうのですか?」
「私とアスカさん、ライルさんとレイラさんで二人部屋にいたしましょう」
一瞬、ボクらは黙る。そして一番に騒ぎ出したのは、ライルとレイラさん。
「嫌よ!こんなアホと!私、襲われちゃうじゃない!」
「誰がお前みたいな凶暴女を襲うかっつーんだ!お前を襲うくらいなら、その辺のモンスター襲った方がマシだね!」
「なんですって!?」
「んだよ!?」
魔法の杖を取り出したレイラさんと、小刀ナイフを取り出したライル。今にも殺し合いを始めそうな二人を、ボクは止めに入る。
「ま、待って下さい!ちょっと、落ち着きましょう!メ、メシアさん、いくらなんでも、男女二人はマズイですって!」
いくらライルが男好きでも、女の人を襲わないなんて言い切れない。ボクの言葉に、レイラさんも頷く。
「そうよ、アスカならまだしも、ライルは嫌よ」
「レ、レイラさん、ボクも一応男なんですけど…」
「そうだ!何言ってやがる!アスカが襲われちまうだろ!」
「普通さ、考えるのは逆じゃないかな?二人とも、おかしいから!」
なんだかんだ言って、結局、ボクとライル、メシアさんとレイラさんという部屋割になった。キーを貰い、ボクはライルと一緒に部屋の中に入った。ベットに座り、ボクは目の前にいるライルに告げる。
「ライル、一つだけ言っておくけど…」
「おう」
向かいのベットに座るライルに、ボクは一字一句強めの口調で言う。
「ボクのベットに絶対近寄らないでね!」
「………………………え?」
その間は何?ボクはもう一度、ライルに言った。
「だから、ボクのベットに近寄らないでって言ったんだよ!」
「………………………え?」
………わざと聞こえないフリをしてるみたいだ。
「……ライル、聞こえないフリをしても無駄だよ。ちゃんとボクの言う事を聞いて!」
ボクの剣幕に押されたのか、目線を逸らしつつライルがブツブツと文句を言う。
「アスカの言ってることは、オレにとったらトイレに行くなって言ってるようなもんだぜ…」
「……そこまでの事なの?!それおかしくない?!」
「おかしくない!これはオレにとっての私活問題だ!」
いきなり真剣な顔で、ボクにライルが言った。真面目ぶって、いかにも正論だって言っているような口ぶりだけど、明らかに内容は頂けない。ボクはベットの上でがっくりとうな垂れる。ダメだ、ライルのペースに飲み込まれたら…。とりあえず、寝よう。ライルは無視をして。
「ボク、寝るから…。ライルも馬鹿な事言ってないで、寝たほうがいいよ」
欠伸をしながら、伸びをしてボクはベットの中に入った。ライルは一応、ボクの言う事を聞いてくれたみたいで、大人しく自分のベットへと入る。
あー、良かった。
こんな風に普通な男だったら、ボク達は旅の仲間として友情を育んでいけたかも知れないな。なんて思いながら、ボクは目を瞑った。
……。
…………。
………………。
……………………。
…………………………っ!
「ライルっ!ボクのこと、見すぎだから!眠れないだろ!!」
「おお、バレたか?」
「そりゃ、バレるよ!思いっきり視線を感じちゃってるよ!」
ライルは頬をかき、ボクに告げる。
「やっぱ、好きな子が隣で寝てるっつーと思うと、中々眠れねぇーんだよ」
「そうなんだ、でもお願いだから寝てくれないかな?ボクにとっては迷惑なんだし」
「いや~、テレるな~」
「え?テレることなんて一言も言ってないし!」
……本気でボクは疲れてきた。一体、どんだけ不毛な会話を続ければいいんだろう。
「アスカ、疲れてんのか?早く寝たほうがいいぜ?」
「君が言うの?それ?」
疲れしまう根源がボクに、慰めの言葉をかける。なんかさ、ここまでくるとボクの方がおかしいんじゃないかって思えてくるよ。ボクって気にしすぎなのかな?気にしなければ、大丈夫かな?
「顔色悪いぜ?疲れてんだろ?」
「………誰かさんの所為で思いっきりね……」
嫌味っぽい事を言ってもライルは気づかなく、ボクの言葉にそいつは誰だって聞いてくる始末。この不毛なまでの会話は朝方まで続き、ボクは思いっきり寝不足となった。もう、宿屋なんてごめんだよ……。
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