第5話 こんなんでも、パーティーなんです。変えようの無い事実なんです

「アスカ、相変わらず可愛いな。好きだぜ」


「………ボクは好きじゃない」


ボクの肩を抱きながら、盗賊のライルが言った。会ったその日に求婚され、ボクが断っても諦める事もない揺るがない精神力。その精神力をさ、もっと別な事に使おうよ…。


「とても仲が宜しいのですね。羨ましいですわ」


「……とてもそんな風に思っているようには見えませんが…?」


ボクの目の前で、無表情な顔でそんな言葉を言う、占い師のメシアさん。メシアさんの表情は本当に何を考えているのかわからない。普通、少しは表情を崩す事とかありそうだけど、本当にないんだ。


「げっ!今私の前にブサイクが通ったわ!抹殺しなきゃ!」


「レ、レ、レイラさん!攻撃魔法唱えないでください!一般市民ですよ!!」


呪文を唱え、掌から火の玉を出そうとしているのは魔法使いのレイラさん。美少年とか美女とか、とりあえあず顔がイイ人たちとかが好きみたいだ。だからあまり顔がよくない人が目の前に通ったりすると、なりふり構わず攻撃魔法を発動させる。何度、ボクが止めた事か……。


男好きの盗賊……。


愛想のない占い師……。


怖いの一言に尽きる魔法使い……。


この三人がボクの………仲間なんだ………。父さん、母さん、ボクは人選を間違えたのかな?とても魔王を倒そうとしている一行に見えないよ…。でも、揺ぎ無い真実……なんだよね……。ボクは溜め息を吐いた後、三人に顔を向けた。


「あの、こうやってパーティーを組んだ事ですし、お互い自己紹介をしませんか?」


ボクの言葉に、三人が頷いた。


初めに自己紹介をはじめたのは、ライル。


「オレの名は、ライル・リージニア。職業は盗賊。好きなのは……」


チラっとボクを見たかと思うと、頬を染めながらテレたような顔をする。うわっ、すっごくボクのこと見てるよっ!ボクは目をさっと避ける。目が合わさった瞬間に、ライルは勘違いしそうだし。次に自己紹介をしたのは、メシアさん。


「私はメシア・リリスと申します。占い師をしておりました。一応、僧侶の資格も持っておりますわ」


「え?そうだったんですか?」


ボクはメシアさんの声に、反応した。メシアさんって、僧侶の資格を持っていたんだな~。


「じゃあ、回復魔法も使えたりするんですか?」


「ええ、出来ますわ。お見せしましょうか?」


「え?あ、はい」


ボクはメシアさんの言葉に、思わず頷いてしまった。この頷きによって、ライルが酷い目に会うなんて解らなかったんだ…。


「ライルさん、ちょっとこちらに来て頂けませんか?」


「あ?オレ?別にいいけど」


メシアさんが、無表情な顔でライルを呼んだ。ライルが何も考える事なく、返事をする。


「お手を貸して頂けますか?」


「ん?おう」


ライルが手を出した瞬間、メシアさんはライルの手にどっから出したのか、極太の注射針を突き刺した。


「いっ!!!!!!!!!!」


突き刺した注射針を今度は勢いよく抜くと、ライルの腕から血飛沫が…。うっわー、い、痛そう!っていうか絶対痛いよ!


「メ、メシアさん!!な、何してるんですか!」


「大丈夫です、今、治しますわ」


そう言ったメシアさんは、ライルの腕に手を置く。すると暖かい光が、ライルの腕を包んだ。その光に包まれた腕は、怪我をした個所をみるみる内に治していった。


「回復魔法ですわ」


「か、回復魔法ですわじゃねーよ!いてーじゃねーかっ!!」


メシアさんに怒鳴るライル。うん、今回ばかりは怒った方がいいよね…。


「へ~、本当に回復してるわね。私も攻撃魔法ライルにぶつけてみようかしら」


そう言ってレイラさんは手を掲げて呪文を唱える。本気でこの人はライルに攻撃魔法をぶつける気だ!


「ちょっ、レイラさん!いくらなんでも死んじゃいますって!」


「大丈夫ですわ、私の回復魔法がありますから」


「そう言う問題じゃありませんよ!!」


とりあえずボクは、レイラさんを止める。残念そうな顔をするレイラさん。


「まあ、それは今度するとして、私の名前はレイラ・ローレル。職業は魔法使いよ」


ウィンクをして、真っ黒な髪をかきあげながらレイラさんは言った。


「好きな物はお金と美少年。アスカはとっても美少年だから、嬉しいわ」


「え、そんなことないですよ」


ボクがレイラさんの言葉に顔を赤らめると、割って入ってくるライル。


「この暴力女!アスカに色目使うんじゃねーよ!」


「はぁ?!なんでライルにそんなこと言われないといけないわけー?!」


この三人とパーティーを組むにあたって、ボクが特に困っているのはコレ…。何故だか、ライルとレイラさんは仲が悪い。もっぱらその引き金がボクって言うのも、困ってしまう。ボクが助けを求めるようにメシアさんに目線を向けるが、メシアさんは何もする事無く只見つめるだけであった。


「ふ、二人とも!とりあえず、落ち着きましょう!」


何で、ボクが必死になって二人を止めないといけないんだろう…。ボク、何かした?


「ちっ!オレのアスカが言うから、止めてやるぜ。そうじゃなかったら、オレのナイフさばきで真っ二つだぜ」


「ふん!こっちこそアスカが止めなかったら、私の魔法で黒焦げよ」


お互いの鋭い目が、火花を散って合わさる。

だからさ、もう、止めようよ……。


「皆さん、自己紹介ありがとうございます。最後ですけど、ボクがしますね」


一息、深呼吸をしてからボクは皆の方に顔を向けてお辞儀をした。


「ボクの名前は、アスカ・ウェイレン。………一応、勇者みたいです…ってうわ―――――――っ!!」


ボクは驚きの声を上げる。


何故かって?そりゃ、この状況を見れば誰だって驚くよ…。


「ラ、ライル!!何でそんなにボクの顔に自分の顔を近づけてんの!?」


「え?ああ、いや~、アスカの顔が見えなくて近くによったんだよ!」


「絶対嘘だよね!?そんな訳ないよ!何企んでたの!?」


気まずそうに顔を背けるライルを見て、ボクは深く溜め息を吐いた。


「私が考えますと、ライルさんはアスカさんが顔を上げた瞬間、唇が合わさればと思い、顔を近づけたと思いますわ」


「確かに、それっぽい素振りを見せてたわね、アホ盗賊が」


「ばっか!ちげーよ!唇じゃなくてほっぺにちゅーぐらいにしか思ってねぇー!」


「どちらにしろ、しようとしてた事に変わりはないじゃないかっ!!」


アホだ……、アホすぎる……。ボクは額に手を置いて、また溜め息を吐いた。この人達とパーティーを組んだ瞬間、ボクは溜め息を吐く回数が多くなった気がするよ…。


「メシアが余計な事言うから、警戒されんだろ!」


え?その口ぶりからすると、警戒されてないと思ってた?十分、ボクは警戒しまくってるんだけど…。


「それはすみません。今度からは気をつけますわ」


メシアさん、そんなトコを気をつけなくていいですって!


「男なら、その場で押し倒しちゃえばいいのよ。私ならそうするけど」


………レイラさん、ライルは本気にしますからやめて下さい。煽るような言葉は……、むしろ男前なのはあなたの方ですって…。


ボクは空を見上げ、心の内で呟いた。


こんなんでも、パーティーなんです……。


こうして、ボクらは勇者ご一行として、旅をする事になったんだ。


………大丈夫かな…………?

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