QUEST.4 1/100のリビングデッド J

◆◆◆


 それはつい、3カ月前のこと。

「君は姫騎にふさわしくない男だ」

 僕にそう、辛辣な言葉を放ったのは、普段は温厚な性格の――和騎さんだった。

 そう言われるのは仕方がない。なにせ僕は“呪われた”天命の勇者、なんだから。

 対する姫ちゃんは『日本武尊』の天命で、しかもすでに格10の勇者となっている。

 決定的に釣り合わない。月と鼈だ。

 そして僕は勇者でもなかった。ただの非力な一般人。降霊の儀式のとき、鹿島家を勘当されたあと、母とともに貧しい生活を過ごしたけど――その母も、過労で死んでしまい。

 身寄りのない僕は、しばらくの間、真幌場家の屋敷に厄介になることになった。和騎さん以外の親戚は比較的優しく僕を迎えてくれた。今の時代、むしろ『鹿島家』のような厳粛な家は時代遅れのようで、和服姿の真幌場家当主で精鋭勇者のお祖父さん――祐騎さんも、姫ちゃんのお父さんもお母さんも、幼いころの僕を知っているからか優しく迎え入れてくれた。

 でも僕は――昔の僕とは違う。

 もうあのころ夢見た勇者には、どう頑張っても成れない。

 その現実は、真幌場家の屋敷で厄介になる間、僕を苦しめた。姫ちゃんは勇者で、ほとんど休みがない。僕は家庭の事情で学校を休業中。僕はなにをするでもなく、ただ姫ちゃんの実家に厄介になっていた。

 これからどうすればいいかなんて、何も考えず。

 でも、時間は過ぎていくし、僕は人間だ。僕という人間がそう長く、真幌場家に厄介になるわけにはいかない。

「君は姫騎にふさわしくない」

 そうまっすぐに言われたからには、僕はもう逃げるしかない。

 僕は逃げた。逃げて逃げて逃げて――

 そうして、逃げ道を探していたら僕は――

 矮さくなっていた。

 僕の鬱屈した思いが、勇者のチカラを無意識に発動させたんだ。そうして小さくなった僕は、そのままなら行方不明――事実上、死ぬことになるはずだった。

 でも、僕は姫ちゃんに救われたんだ。

 あの『打ち出の小槌』で僕は元の姿に戻った。

「晶くんのばかぁ! 晶くんがいなくなったら僕は悲しくて死んじゃうよう!」

「姫……ちゃん」

 どうして姫ちゃんは泣いているんだろう。僕はもう勇者になれない、非力な存在なのに。

「晶くんは最強の勇者だよ! ボクにとってずぅっとずぅっと最強の勇者さまだよ! だってボクはずっと待ってたんだよ! 晶くんが勇者になって、ボクのもとに帰ってくることを! そのためにボクはいままで頑張ってきたんだ! 晶くんが勇者になったら、ボクの“日本最強”の席を譲ってあげるよ!」

「――――!」

 姫ちゃんは、待っていてくれたんだ。僕をずっと、首を長くして。

 そんなこと気づかずに、僕は腐っていたんだ。僕は、僕はなんて大馬鹿野郎なんだ!

 僕は、たしかに姫ちゃんにふさわしくない男だ。勇者でもない、力もない。なんにもない、ダメな野郎だ。

 でも、ふさわしくなくたって。無様だって。

 その向こうに僕の大切な人がいるなら、なにがなんでも走り抜けるしかないじゃないか。

「姫ちゃん――僕は最強の勇者に、なる!」


◆◆◆

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